降臨的冥王(波乱)
諸事情により更新が滞っておりました。申し訳ありません。
更新ペースは以前と同様、とまではいかないかも知れませんが、引き続き付き合ってもらえれば嬉しいです。
「な、なんだ……光が……消えた?」
「…………いったい何が……」
天使の発生させていた閃光に恐怖し、逃げ出そうとしていた冒険者達が呆気に取られた表情で視線を泳がせている。
が、
「あの女だ! あの女が異空間主の腕を切り落とした!」
「えぇ!? あの一瞬で!?」
すぐに状況を理解し、驚愕の声が響き渡る。
ユティに数多くの視線が集まるが、肝心のユティは一切気にした様子はない。
そんなことよりも、これは『異空間主討伐戦』だ。
いくらユティが抜きん出て強力だとしても、異空間主は冒険者同士が協力しなければ倒せない。
「おい! アンタ達! 協力してあの異空間主を倒すぞ!」
なので、逃げ腰になっていた冒険者達にそう声を投げ掛ける。
「あ、ああ……わかってるよ」
「…………」
「お、俺が……」
……コイツら。
さっきの異空間主の魔力を感じ取っただけで、もう戦意を失ってやがる。
この場にいるどの冒険者も皆、あの異空間主との力量差を理解してしまったのだろう。
それほどに、あの異空間主が持つ魔力は膨大であり、また強力なのは俺でもよく分かる。
それが"超努級異空間主"だ。
しかし、皆で協力すれば勝てる可能性はある筈なのだ。
……なんて、考えていると。
「む、無理だ……」
絞り出すような声が聞こえた。
「こんな化け物、勝てる訳ねえよ! 見ろよ! 切り落とした腕も、もう元通りになってやがるじゃねえか! どうやって倒すって言うんだ!」
1人の冒険者が、絶望に染まった表情で目を見開き、叫ぶ。
そして。
「俺はごめんだ!」
俺達に背を向け、立ち去ろうと走り出す。
――すると。
「―――――ダメ!」
ユティがその冒険者の背に向けて咄嗟に声を出すが、間に合わない。
耳を衝くような高い音と共に、辺りを閃光が包み込んだ。
その閃光を発生させたのが目の前にいる天使であることに間違いはない。そして、無防備な背中を天使に晒す冒険者を容赦なく襲い――焼き尽くす。
一瞬。
閃光が走り、逃げ出そうと背を向けて走り出した冒険者を消滅させたのは、まさに一瞬の出来事だった。
「………………」
「なに、が」
目の前で起こった惨劇に、この場にいるほとんどの冒険者が唖然とした表情を浮かべている。
――逃げられない。
戦うしかないんだ。
天使と、こうして相対した時点で戦闘は避けられない。
逃げ出そうと背中を見せれば、その隙をこの天使は容赦なく襲う。
皮肉にも、今の惨劇はその事実を冒険者達へと突き付けたが……。
「ぅ………うぁ」
「は……はは」
相変わらず、ほとんどの冒険者が戦意は失ったままだ。
まぁ、逃げ出すなんてことはしないだろうが、これでは役に立ちそうにない。
軽く周囲を見回して見ても、戦力として期待出来る冒険者は見当たらないな。
となれば、この天使は実質ユティと俺の2人で相手をしなければいけない。ということか。
2人だけで異空間主の相手をするなんて有り得ないが、こうなってしまっては仕方かない。
やれるだけのことはやってみよう。
俺は覚悟を決めて天使を鋭く睨み付けた。
と同時に
――天使の姿が光の粒となって消えた。
「!? ――クソ!」
油断した。
余計なことを考えていたせいで、対処が遅れた。
異空間主に容赦などない。奴等は、狩れる者を狩れる時に、確実に狩る。
「おい! お前ら! ボケッとすんな! 殺されるぞ!」
反射的に俺はそう声を荒げるが……。
「な、なんなんだよ。なにが――ぐぁ!」
1人、超高速な天使の斬撃により首が飛ぶ。
「ひ、ひいぃ!! やめてくれ、頼む――ぅ」
また1人、全身を真っ二つに割られて絶命する冒険者。
「――が」
「あああぁぁぁあ゛あ゛」
「無理無理無理無理………………」
次々と、この場に居合わせた冒険者達が天使により殺戮されていく。
戦意を失い、自身の武具すらも手放しつつある冒険者達が、その天使の攻撃に対抗出来る訳もなく、ただただ一方的な殺戮が繰り返される。
「……やめて」
しかし。
「やめてよ!!」
この場にはユティがいる。
あの心優しく、女神の適性を有するユティが、この惨状を黙って見ている訳がない。
ユティが長剣を振るい斬撃を繰り出すと、天使はその斬撃受け止めるためにやむなく姿を表した。
その瞬間、俺は反射的に足に力を込め、全力で地面を蹴る。
すると――
「うおっ!」
轟音と共に地面が抉れた……。
姿を表した天使に攻撃を仕掛けるべく、跳躍しようと地面を蹴ったのだが……信じられない勢いで天使との距離が詰まり、思わず困惑してしまうが、この勢いを止めることなど出来る訳もなく、ましてや利用しない理由などない。
「――っ! らぁ!」
今までに考えられない程の勢いを利用き、体を捻り、全力以上の回し蹴りを天使へ叩き込むべく繰り出す。
そしてその回し蹴りは――天使へと間違いなく命中し、天使の体を遠くの地面へと吹き飛ばした。
「…………………………」
信じられない程に、俺の魔力が上昇している。
「ロワ君すごい……」
もともと魔力量には自信があったのだが、更に上昇してしまっている。
これはおそらく、ユティが俺に使用した"大樹の緑葉"による"開花"という効能の影響だろう。
これなら……適性武具無しでも異空間主と対等以上に戦える。
いや、ユティも一緒なら……討伐する事だって可能かも知れない。
「いや、そう簡単な話でもないな」
俺は、ムクリと起き上がる天使を睨みつけ、呟く。
ここは異空間で、奴等は異空間主だ。
例え魔力量が圧倒的に優位でも、簡単なんてことはないだろう。
夜空に新たに出現した複数の魔法陣から、天使が姿を現す光景を見ながら、俺はそう思った。




