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降臨的冥王(序章)

 

 ~~~


「な、何が起こってるんだ?」

「馬鹿野郎! "異空間主"の攻撃だよ! 誰かが護ってくれてるんだよ!」

「呆けてると、すぐにやられちまう! さっさと動くぞ!」


 フィリアが行使した超広域級防御魔法の効果範囲は広大であり、ロワ達と同じ場所に転移した者達の全てを、"異空間主"の攻撃から護って見せた。


 自分たちの頭上で繰り広げられた激しい攻防に、多くの冒険者が驚きを隠せない。

 そして、過去に"大規模転移"を経験したことのある者達は、少し遅れながらもようやく動きを開始していく。


 "異空間主"の攻撃を合図に、既に戦闘は始まっている。


 それを改めて理解した多くの冒険者達は、この"守護宮殿"を行使した、どこかにいるであろう冒険者に心底感謝する。


 1階層と20階層の大広間から"大規模転移"してきた冒険者達は、"大広間"や"異空間大広間"とは比べ物にならない程に広大な"異空間"の中で、比較的近くに転移されている。

 よって、この2つの大広間からの参加者達はフィリアの魔法の効果範囲内にあった。


「お姉ちゃん、凄いよ! 何今の!?」


 光り輝く宮殿の中にいる数多くの冒険者の内の1人の少女が、天を覆う程に浴びせられていた激しい"異空間主"の攻撃と、見事その攻撃を耐えて見せたフィリアの"守護宮殿"に興奮した様子で言葉を発していた。


「なんだろね! 今の攻撃直撃してたら、間違いなくいっぱい死んでたよね? こういうの何て言うんだっけ?」


「うーん……………あっ! アレだ!」


 興奮した様子から一変。

 桃色の髪を指先で弄び、可愛らしく考え込んでから、ハッと声を上げる。


「アレだよ! "初見殺し"!」


「そうそれ! いやー、危なかったねオトネ。いきなり私達も死んじゃうところだったよ」


「誰だか知らないけど感謝だねお姉ちゃん。……それはそうと」


 桃色の髪を靡かせる双子の冒険者。

 シズネとオトネは、静かに視線を遠くに向ける。


「私達は、あっちの相手をしようか」


 "異空間"。

 その広大な異空間に転移してきた多くの冒険者が相手をするのは、複数の"異空間主(レイドエネミー)"。

 数で圧倒的に勝る冒険者達だが、誰もが理解している。


 ――数が多いからと言って、勝てる相手ではない。


 その証拠に、シズネとオトネを含む多くの冒険者が集まるこの場所に、激しい地響きと共に空から舞い降りた2体の巨体。


「わお! めちゃめちゃ強そうじゃん! 一度戦ってみたかったんだよね! ね! お姉ちゃん!」


 美しく光り輝く鱗が月明かりに照らされる。

 その圧倒的な存在感と魔力は、その美しくも神秘的な姿を見れば誰でも感じ取れるだろう。


 鋭い牙と爪、逞しい尻尾が誇る攻撃力は言わずもがな。

 強靭な鱗が持つ防御力は、生半可な攻撃をものともしない。

 更には、高い知能を持ち、魔法までをも行使することが可能な……魔獣の中では最上位に君臨する種族。


 ――"純竜種"が2体。この場に舞い降りた。


「さ、準備は良い? オトネ、やるよ!?」

「いいよ! 縛りプレイはもう終わりだね」


 好戦的な2人の視線に気付いた"純竜種"が、赤い瞳を向ける。


 銀竜・アルゲントゥム。

 金竜・アウルム。


 2体の強大な力を持つ"純竜種"という"異空間主"に、シズネとオトネを含む、この場にいる全ての冒険者が戦闘体勢に移行した。


 しかし、


「アレは……降りて来ないみたい。流石にアレはヤバいよね、ちょっと勝てなさそう」


 シズネが、静かに視線を上に向ける。


 月を背中に、夜空に滞空し続けるもう1体の"純竜種"。

 金竜や銀竜よりも一回り小さいが、その身から溢れ出る魔力は異質で……異常。

 全身の鱗が黒く、まるでこの"異空間"の支配者とも言えそうな雰囲気を放っている。


 黒竜・アートルム。


 見ただけで、全身から汗が噴き出しそうな感覚にシズネとオトネの2人は襲われるが、どつやらこの黒竜には戦闘の意思は無い。


 ――今はまだ。


 2人は、黒竜も念のために警戒しつつ、目の前の"純竜種"を睨み付けた。


 ~


 一方。


 同じ"異空間"ではあるが、ロワ達低層組とは少し離れた場所に転移した50階層からの参加者達。

 当然、フィリアの"守護宮殿"の効果範囲外だ。


「あれは、フィリアの"守護宮殿"ね。やっぱり参加してたみたい。20階層から参加したようね」


「素晴らしい守護魔法ですね。あれ程の広範囲にまで効果が及ぶなんて。それに効果も絶大のようです」


 自分たちの遠くに出現した光り輝く宮殿を見ながら、"魔女"と"死神"が話している。


「なんて感心している場合じゃないわね」


「申し訳ないのですが、私は成す術が有りません。お任せしても?」


「ええ、構わないわ」


 50階層の大広間から転移してきた全ての冒険者達が集まるこの場所。その上空を覆い尽くすようにして出現している光り輝く巨大な魔法陣。

 その、"異空間主"が出現させた巨大な魔法陣を睨み付けながら、"魔女"たる冒険者。ミルシェは全身に魔力を漲らせる。


 "攻撃系魔法"に特化した"魔女"の適性を持つミルシェは、上空に出現している魔法陣の輝きから、ソコから魔法が繰り出される正確な時間を予測した。


「――――――――――」


 その時間に間に合う程度に、自身の適性である"詠唱"を開始すると、ミルシェの魔力は恐ろしい速度で増していき、また濃くなっていく。


「あぁ、素晴らしいです。ミルシェさん」


 そんな"魔女"の姿を、アゼリアは少し興奮した様子で見つめている。


 そしてすぐに、上空の巨大な魔法陣が激しい光を放つ。

 その光は、魔法陣から真っ直ぐに堕ちる。

 巨大な光の柱となって、ミルシェ達を含む全ての冒険者達を飲み込むに充分な大きさと威力を孕んだ光が、上空から襲い来る。


「――"黒嵐(こくらん)"!!」


 "詠唱"を終えたミルシェが、魔法を行使した。


 "詠唱"によって溜まりに溜まった魔力が、ミルシェの体から弾かれるようにして溢れ出る。

 そしてその魔力は、黒く、重い嵐となって、上空へ向かう。


 眩しく輝く光の柱と、黒く重い嵐が激突した。


 白と黒の入り雑じった激しい爆発が上空で発生し、ぶつかり合った魔力が暴風となって冒険者達を襲う。


「う、うぉぉおぉお」

「ひ、ひいぃぃぃぃ」

「なんなんだよぉぉ!」

「…………………………」


 多くの冒険者が、その光景と自分たちを襲う暴風に圧倒されている。


「――――――――ふぅ」


 やがて、"異空間主"の放った極大の魔法を正面から受け切ったミルシェが、疲れた様子で座り込む。


「流石ですミルシェさん。完璧に相殺してしまいましたね」


 最上級魔力薬をミルシェに手渡しながら、アゼリアが言う。


「なんとかね。そう何度も通用しないから、気をつけないと」


「そうですか。ですが安心してください。しっかり私も働きますから」


「……ほんと頼りになるわね、貴女」


 相変わらずな余裕な態度を見せるアゼリアに、ミルシェは肩を竦める。


「……あれが、"異空間主"ですか。ふふ、楽しくなりそうですね」


 夜空に顔を向けたアゼリアの視線の先には、魔法陣を足場代わりにして上空に佇む"天使"と、先の魔法を行使したと思われる"精霊"。

 そして更には、遠くからこちらにゆっくりと歩を進める"巨人"の姿があった。


勢いで書いております。

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