集結的大広間(参加者)
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"紫"魔法陣による大規模転移で行きつく"異空間"。
そこに待ち受ける"異空間主"の討伐を果たすべく、今も多くの冒険者達が各大広間へ集まりつつある。
過去に大規模転移を経験した冒険者達の多くは述べる。
『あんなもの参加するだけ無駄だ。勝ち目なんてありゃしない。無駄に命を危険に晒すだけだ』と。
しかしそれでも、こうして数多くの冒険者が大広間へ集まっている理由は幾つかある。
まず名誉。
過去にはあの"王者のロワ"が在籍していた勇者パーティーでさえ"異空間主"の討伐を果たせていない。
そんな"異空間主"を、もしも自分が討伐しようものなら、一躍冒険者としての"格"は上がると言える。
そして"適性武具"。
"階層主"や"異階層主"を討伐したときに極稀に発生する"超希少戦利品"。
誰が流した噂か、"異空間主"はコレを確定で発生させると冒険者達の間で伝えられている。
そんな、冒険者達の一つの目標にもなってしまっている『"異空間主"の討伐』を果たすべく、今も少しずつ輝きを強くさせる"紫"魔法陣の下へと冒険者達は集まるのだ。
巨搭第20階層大広間。
ロワ達は輝きの強さの確認を済ませ、街へと回復薬の調達へ向かうべく大広間を後にしたが、もう充分とも言える程に輝きを強くさせている"紫"魔法陣から目を放すまいと、この大広間には多くの冒険者パーティーが集まっている。
"上層組"ではない彼等は、未だに冒険者としての経験が浅い。
それでもこの"大規模転移"に参加するのは、冒険者としての性とも言えるだろう。
しかし、話に聞く"異空間主"の恐ろしさに、皆の表情は険しく、大広間はいつもと違う物々しい雰囲気に包まれていた。
「ひゃー! お姉ちゃん! すっごい光ってる! これめっちゃ光ってるよ!? もうすぐ始まるのかな!?」
そんな重苦しい雰囲気の大広間に、場違いとも思える能天気な声が響いた。
「もう、オトネ! あんまり騒がないでよ。凄い見られてるじゃん!」
大広間に現れた2人の少女。
顔は瓜二つ、綺麗な桃色の髪が印象的な双子の少女だ。
まるで空気を読んでいないような2人の少女に、大広間に集まっていた多くの冒険者達が厳しい視線を向ける。
自分達に向けられた厳しい視線に気付きつつも、少女達はその調子を崩さない。
「ええ? 関係無いよぉ。私とお姉ちゃんなら……」
寧ろ、そんな周りの視線を真っ向から受け止め、挑戦的な笑みを浮かべながら少女は言葉を発する。
「……この場にいる全員相手にしても、勝てる気するよ」
隠す気の無い声量と、本気でそれを可能と思っている表情と余裕に、もう一人の少女は肩を竦めるだけで否定しない。
2人とも、本気でそう思っているのだ。
「早く始まらないかなぁ、やっと本気で"武具"を使えるんだから、楽しみだよね」
「そだねー。ずっと"縛りプレイ"だったもんね」
「変態のお兄さんの戦いを参考にしたら、"階層主"も楽チンだったもんね」
そう楽しそうに話す2人の少女の左手には40という数字が刻まれているのを、多くの冒険者達が目撃していた。
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巨搭第50階層大広間。
この上層と呼ばれる大広間にも、既に多くの冒険者は集まりつつある。
"上層組"と呼ばれる冒険者は、"異空間主"の強さを知っている者が多い。それでもまた"大規模転移"に参加する事にした者達は皆、経験豊富な者達であり、間違いなく強者と言えるだろう。
そんな彼等の集まるこの大広間は、20階層とは違い活気立っている。
『今度こそ俺が討伐してやるよ』
『強くなった俺の"適性"見せてやる』
『馬鹿野郎が、皆で協力しねえで倒せる訳ねぇだろ!』
などど、あちこちから話し声が聞こえてくる。
"上層組"の中で集まった彼等の表情は明るい。
そんな中、この50階層の大広間に姿を見せる者達がいた。
「お、おい! アレ見ろよ!」
1人の冒険者が狼狽えた声を上げる。
「あぁ。冒険者パーティー"流星"だ……"勇者パーティー"の次にこの巨搭の攻略を進めている連中だ」
男達が視線を向けた大広間の入り口から、5人の冒険者が姿を現している。
その5人の左手に刻まれている95という"巨搭記録"は、間違いなく彼等の実力を証明していた。
大広間へと足を踏み入れた冒険者パーティー"流星"。
その先頭を歩いていた青い髪の男性冒険者が大広間を見回しながら口を開く。
「はぁ。どうやら本当に"勇者パーティー"は参加しないようだ。まったく……"王者"がいなくなってから腑抜けてしまったものだ」
そんな彼の言葉に、後ろに続く4人の冒険者も呆れながら肩を竦めている。
「ならば、俺達が"異空間主"を討伐してしまうとしよう。"適性武具"も、俺達が手に入れる」
先頭に立った男が、後ろの仲間にそう話す。
そこに、
「「「「「おぉ!!」」」」」
数多くの冒険者達が、感銘の声を上げる。
大広間に集まっている、その冒険者達の視線の先にあるのは"白"魔法陣だ。
その"白"魔法陣から姿を現した2人の絶世の美女。
彼女達の左手に刻まれている115という"巨搭記録"は、彼女達が巨搭の攻略を新たに進めたことを意味している。
そして、この2人のうちの1人が"魔女"であることが、多くの冒険者達を驚かせる理由にもなっていた。
「ミルシェさん。貴女の魔法……素晴らしいですね。ゾクゾクしました」
頬に手を当てながら話す着物姿の絶世の美女。
そんな妖艶な姿に呆れながら、もう一人の絶世の美女が口を開く。
「アゼリア……。貴女本当にえげつないわね。"階層主"を一撃って……」
「ミルシェさんこそ、本当にえげつない魔法を使うじゃないですか」
「いやいや、少し巨搭に入るだけのつもりが、5階層も攻略を進めることになるなんて思わなかったわよ……」
そう言いながら、"魔女"は大広間の"紫"魔法陣に視線を向けた。
「……どうやら、転移の発動は明日みたいね」
「分かるのですか?」
「……こと魔法陣に関しては詳しいのよ。私とフィリアは特にね」
そう話しながら、2人の絶世の美女は大広間を後にする。
そのあまりの美しさに、多くの男性冒険者が思わず目を奪われる。
「……相変わらず嫌味な女ね」
冒険者パーティー"流星"の一人の女性冒険者が、"魔女"に視線を向けながら言葉を溢す。
大広間を後にする"魔女"と視線を僅かに交えながらも、遂にお互いに言葉を交わす事はない。
「……やれやれ。では俺達も一旦街へ戻ろう。転移は明日だ」
冒険者パーティー"流星"の青い髪の男性冒険者がそう言うと、彼等も揃って大広間を後にしたのだった。




