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女神的一行(女神パーティー)

 

「"純竜種"? 20階層(ここ)に純竜種の階層主がいたのか?」


 目が覚めて落ち着いた後、俺はユティ達から詳しい事情を聞いた。

 するとやはり俺は"能力異常"に陥ってしまい魔力の回復が行えない状態だったらしい。

 "賢者"なら俺を治療出来ると思い、ユティは50階層まで上がりフィリアを連れて来てくれたのだが、333階層級の"異階層主"に与えられた"能力異常"はフィリアですら治療出来なかったようだ。


 いやしかし、まさか昔にミルシェとフィリアの3人で見つけたあの社が、20階層の最奥の広間になっていたとは……。正直驚いた。


 となると、もしかすると1階層(アベルヘイム)50階層(スカイアベル)にも"階層主"が存在しているのかも知れないのか……。


 うん。そう考えると、夢が広がるな。


「フィリア。もう1度、その"大樹の緑葉(ユクド・フォリア)"っていうの見せてくれ」


「えー。またぁ?」


 口を尖らせて文句を言いながらも、フィリアは収納からすぐにその"緑葉"を取り出してくれた。


 ピラリと、フィリアの摘まんだ指先に1枚の小さな"緑葉"が姿を現す。


 美しく、神秘的な輝きを放つ1枚の"緑葉"。

 今回、俺の"能力異常"を完全に治療し、更に"開花"という恩恵までも与えてくれた物だ。

 その"開花"によって得られた恩恵は、今のところ魔力が上昇したくらいだが……。おそらく、それだけでは終わらない筈だ。

 と言っても、実際俺に起こった変化はそれくらいなので、今は考えても仕方ない。


 そして驚くべきはこの"緑葉"、"死"すらも治療……というか蘇生までも可能だ。

 とんでもなく貴重な代物だ。おいそれと使用することは許されないのだが……。


「わ、悪いなユティ。俺のためにこんなとんでもない物を使わせてしまって……………」


 と、傍らに視線を向けて話す。


「ううん。ロワ君のために取ってきた物だもん。いいんだよ」


 俺の腕にぴったりと引っ付いたユティが、金色の瞳を向けてくる。


 なんだろう……。

 ユティの奴、以前よりも積極的になってる気がする。

 確かに今までも俺に引っ付いてくることはあったが、人前でここまで積極的になることは無かったような……。


「それで、エリス……だよな? 君もありがとうな。ずっと俺の世話をしてくれて、おまけに"階層主"の討伐まで手伝ってくれたんだよな」


 ま、"魔力薬"はキッチリ請求されたし、このエリスという受付担当者の人件費までしっかりと支払ったけど。


「い、いえ! あまり役には立てませんでしたので!」


 いや、話を聞く限りエリスは充分に役に立ってくれた。


 だが、本人があまりソコには触れて欲しく無さそうなので俺もそれ以上は何も言わない。

 照れ臭そうにするエリスを、俺は微笑ましく見つめる。


 と、そこに。


「でもさ、リウス君とケイル君のことどうするの? まさか106階層でそんな事があったなんて思わなかったよ!」


 フィリアが鼻をフンスカさせながら話し出した。


「いや、確かに私も何かが変だとは思ってたけどね? ミルシェちゃんも凄くあの2人に対して怒ってるみたいだったし……………ってユティアちゃん!? さっきからロワ君に引っ付き過ぎだからね!? 離れてくれる!?」


 一層鼻息荒くしたフィリアの腕が伸びて、俺とユティを引き離した。


 ユティの良い香りが遠ざかってしまい、少し残念だ。


「どうする? "王者の長剣"、私とミルシェちゃんで取り返そうか?」


 ユティを視線で牽制しつつ、フィリアが言う。


「いや、別にいいや。武具は自分で取り返すよ。あまりお前達(勇者パーティー)の攻略の邪魔をしたくも無いしな」


 少し悩んだが、そう言った。


 俺のその他人行儀な言葉を聞いて、フィリアは表情を曇らせ寂しそうにする。


 仕方の無いことだ。

 もう俺は"勇者パーティー"ではないのだから。


「私も……ロワ君と一緒がいいのに」


 そんな消え入りそうなフィリアの言葉は、確かに俺の耳に届く。

 フィリアは、俺にとっては妹みたいな存在だ。

 そのフィリアの願いは出来るだけ聞いてやりたいのだが、俺はまだ20階層の冒険者だ(今は)

 そしてフィリアは110階層。

 俺と一緒に行くということは、少なくとも俺が適性武具を得るまではこの20階層から巨搭を再び攻略する。ということだ。


 50階層に到達したユティにすら、それをさせるのが申し訳なく思っているのに、フィリアまでとなると、流石に……ね。


 ……………そう言えば。


「フィリア、"大規模転移"には参加するんだよな?」


「ほえ?」


 俺のその言葉に、フィリアは興味深そうな顔を向けた。


 ~


「ロワ様。ユティア様。当旅館の長期利用、誠にありがとうございました」


 陽射し亭の玄関で、若女将が丁寧に腰を折る。


 長期利用か……。

 確かに間違ってはいないが、俺もユティアもまともに旅館を"利用"できていないんですが? 分かってるんですかねぇ、この美人女将は。


 まぁ、散々世話になったのは事実なので、この旅館には感謝しかないが。


「…………………………」


 綺麗な微笑みを浮かべる若女将の隣で、エリスが何とも言えない表情をしている。


 何か言いたいけど、言い出す勇気が無く、口を開けない。そんな顔だ。


 そんなエリスの様子に、ユティとフィリアが首を傾げていた。


「エリス。何か言いたいことが有るならちゃんと言いなさい」


「え!? い、いや……。あの、私」


 見兼ねた若女将に背中を押され、一歩前へとエリスが飛び出るが、かなり焦っている。


「エリスさん? どうしたんですか?」


 優しいユティがエリスの手を握りながら問い掛けた。


「あ、あの……私。冒険者は引退した……つもりだったんですけど、その……まだ諦め切れない……と言うか、出来ればその……私も」


 チラチラと、ユティと俺に忙しく視線を行き交わせる。


 なるほど、何となく言いたい事は分かったぞ。


 エリスの"記録"は50だ。

 実力は充分だ。しかし、もうすぐ"紫"魔法陣が発動する。

 当然俺達はそれに参加する訳だが、俺の記憶が確かならこのエリス、前回の"紫"魔法陣で仲間を失っている。

 恐らくそれが彼女が冒険者を引退していた理由だと思うが、大丈夫なのだろうか?


「もし良かったら一緒に来るか? だけど俺達は"紫"魔法陣に参加する。エリスは前回の"紫"魔法陣でよくない思いをしたんじゃないのか?」


「え?」


 エリスが目を見開いた。


「え? 前の"異空間主"の討伐戦で、会ったよな?」


「――ッ!? 覚えて……くれてたんですか!?」


 少しエリスの勢いに圧されながらも、俺は頷いた。


 すると、エリスは改めて佇まいを正してから、若女将同様に丁寧に腰を折る。


「どうか、私もご一緒させて下さい! "記録"は50。巨搭には暫く入っておりませんが、巨搭攻略を諦められません!」


 金色の髪を靡かせながらのエリスのその言葉。


『巨搭攻略を諦められない』


 俺にはその気持ちがよく分かる。


「ユティ、構わないか?」


「うん! ロワ君が良いのなら、私は勿論構わないよ」


「よろしくな! エリス!」


 俺達は、しっかりとエリスと握手を交わす。


「あぁ……ロワ君の近くにまた美少女が…………」


 自分も充分美少女のくせに、フィリアが項垂れながら呟いていた。


 ともかく、こうして俺とユティのパーティーに新たにエリスが加わったのだ。



少しの間、更新頻度が落ちるかも知れません。

お許しを……。

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