久方的出会い(再会)
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さて。
俺はどれくらい寝ていたのだろうか。
感覚的には、それはもう信じられないくらい寝ていたような。そんな感覚だ。
体の隅々まで意識を向けてみた。
体力は……全快と言っていいほどに快調だ。
魔力は……増えてる。
いや、もともと魔力量には自信があったのだが、更に増えてる。
その理由は、何となく分かる。
どうやら、俺に使用された"魔道具"による効能の"開花"という恩恵がそうさせたらしい。
で、何故俺にそんな物が使用されたのかは……何となく理解できる。
そう、俺は333階級の"異階層主"に敗けたんだ。
最後に、魔力全損の一歩手前にまで陥ったのは、よく覚えている。
そしてそれが、どうやら並大抵の事態では無かった。と言うのか今のこの光景からも窺える。
「……ぁ、あぁ。ロワ……くん? ロワくん? ロワくん!?」
俺の視界いっぱいにあるのは、俺のよく知る美しいユティの顔だが、心なしか少し逞しい……というか格好よくなっている気がする。
もとより美少女だったユティだが、その美しさに更に研きがかかっている。
目を覚まして1番に視界に写るのがユティの美しい顔とは……とんでもない幸せ者だ、俺も。
そんなユティが金色の瞳を強く輝かせながら、何度も俺の名を呼んでいる。
ひんやりと心地の良い、白い指が俺の頬を撫でた。
「おお、ユティ。おはよう」
かなり心配させてしまったようだが、俺自身の体の調子はまさに絶好調だ。
そのため、俺の口から出たのはそんな軽い一言だった。
「……ッ! うん。……おはよう」
泣いているのか笑っているのかよく分からない表情をくしゃくしゃにして、ユティが俺の手を握る。
とにかく起きよう。
体力と魔力は絶好調だが、寝過ぎは体に良くないってどこかで聞いた気がする。
上半身を起こす。
今気付いたが、この旅館の従業員の女性と若女将の顔まで部屋にある。
どうやら色んな人に心配を掛けてしまっていたらしい。
いったい何がどうなっているのやら……。
「えっと……」
と、思わず狼狽えてしまうが。
「やっほ! ロワ君! すっごく心配したんだからね!」
「うお!?」
勢いよく俺の背中に飛び付いて来た誰か。
柔らかな感触と、耳に伝わる懐かしくも安心感を与えてくるこの声は……………。
「えぇ!? フィリア!?」
茶色い髪にクリっとした大きな瞳。
見間違える訳がない。"賢者のフィリア"だ。
「うん。色々訊きたいことがあるけど、とりあえずは復活おめでとう!」
これでもかと自分の全身を俺に擦りつけてくるフィリア。
相変わらずのフィリアの態度が少し懐かしいが、ユティの前でやられると何故か居心地が悪い。
やんわりと引き離した。
「どうしてフィリアが……」
頬を膨らませるフィリアを見ながら、どうしてフィリアがここにいるのか疑問に思う。
だが、少し考えて思い至る。
ユティの左手の"記録"も50に上がっている。正直それには驚くが、おそらくフィリアはユティが連れてきたのだろう。
俺を助けるため……そんな所だ。だとしたら――
「"能力異常"か……」
それ以外ない。
あの時、魔力を奪われた俺は意識を失った。
そしてそのまま"能力異常"まで与えられてしまったんだろう。
……隣のユティに視線を向けると、まだ少し瞳を滲ませている。
本当に世話になってしまったようだ。
「ありがとう。ユティ」
しっかりとユティの目を見据え、礼を言っておく。
すると、
「御元気になられたようで何よりです。つきましては、ロワ様に御覧になって欲しい物がありまして……」
若女将が空気も読まずにそう言ってきた。
「あの……これを」
そして、受付を担当していた女性から1枚の紙を手渡され、俺はそれに視線を移す。
「…………………………」
それに目を通していく内に、俺の精神的体力は著しく消耗される。特に暑くはないが、うっすらと汗が滲んでくるのが分かる。
「……こ、これは?」
念のため、確認してみたが、
「はい。ロワ様が眠っている間に使用することになった"最上級魔力薬"45個。"上級魔力薬"355個。そしてこのエリスの人件費に対する"請求書"です。ロワ様はお得意様でしたので、少しまけておきました」
「「「…………………………」」」
眩しいくらいの笑顔を向ける若女将の声が響く部屋で、俺とユティとフィリアは言葉を失った。
エリスと呼ばれた受付の女性は、若女将の隣で苦笑いだ。
まさか、それほどまでの"魔力薬"を俺は喰ってしまっていたとは。
締めて1500万だ。
俺は、しっかりと目を見据えた。フィリアの目を。そして言った。
「フィリア! お金貸して!」
俺の全財産は1000万強。足りない……。
一瞬にして俺とユティは貧乏になってしまったらしい。




