全力的戦闘(終幕)
視線を向けた先で繰り広げられている戦闘は、冒険者の常識をいとも容易く破壊していた。
"賢者フィリア"の支援魔法は、どれも破格の恩恵を持たらしているのは分かる。
しかし、それでもユティアの動きはこの場にいる全ての者の理解の外だ。
"階層主"が出現させた魔法陣から放たれる風の刃は強力であり、恐ろしく速い。
そんな物が休む暇なく繰り返し放たれる。と言うのに、ユティアはその悉くを回避し、また弾き返した。
さらには、"階層主"の凶暴な"息吹"までを掻い潜り放たれた"剣技"は――
――"階層主"の全身を切り刻み、翼を奪い、叩き落とした。
「……す、凄い。ユティアさん……」
エリスが呆然と立ち尽くしていた。
「"女神"の適性か……。驚いたよ」
レイグとシエラに対して治癒魔法を施し終えたフィリアも、エリスに並び立ち、同様にユティアへと視線を向ける。
2人の背後には、回復したレイグとシエラが壁にもたれ座っている。ユティアと"階層主"の戦闘を、同じく見守っていた。
「とんでもねぇな。今の"剣技"といい……」
「そうね、"剣技"と"魔法"の両方を扱えるのにも驚きだけど……」
――そんなことよりも、単純にその"強さ"。
皆、ユティアの実力を目の当たりにし、息を飲む。
「アレだな。"愛"の力ってヤツだ」
「……全然面白くないのだけれど?」
そんなレイグとシエラの会話に、フィリアとエリスは苦笑いだ。
その一方で、ユティアと"階層主"も結末を迎える。
長剣を向けたユティアから、光り輝く魔力が溢れ出し、出現した魔法陣へと注がれていく。
魔力を注ぐ程に、その魔法陣は輝きを強くさせていく。
輝きが強ければ、威力も加速度的に強大になっていくユティアの魔法、"神罰"だ。
全身を切り刻まれソコに倒れ伏した"階層主"は、そんな状態であるにも関わらず、戦意を失っていない。
その理由は、"純竜種"なら必ず持っている"適能"のひとつ。"再生"。
その"適能"によって、切り刻まれた鱗や、翼、尾から手足まで、徐々に再生しつつある。
しかし、どうやら間に合わない。
充分に魔力を注いだと判断したユティアが、長剣を振り払う。
「――"断罪"」
魔法陣が激しい光を放つ。
「「「「―――――ッ!!」」」」
その光景を見守っていた4人な、堪らず目を閉じてしまう。
魔法陣から発せられた閃光が広間を明るく照らし、一切の影を消しさっていた。
閃光の源には、十字の光。
"階層主"は、その十字の光に照らされ――
――完全に消滅した。
巨搭第20階層、その階層主にして"純竜種"。
大樹の守護竜フォリオ・レーヴェンを、ユティア達は見事、討伐したのだ。
「…………………………」
ペタリと、ユティアはその場に座り込む。
その瞳は、いつも通りの美しい金色だが、先程までのような光は放っていない。
そして、"神罰"という魔法は、ユティアの体力までをも消費させていた。
緊張の解けたユティアは、"適能"の発動も止まり、途端に疲労感に襲われている。
「ユティアさーん!」
そんな時に、ユティアの下へと集まるパーティー。
「凄いですユティアさん! 驚きました!」
「ユティアちゃん凄すぎー! やったね! およ? 疲れてる? "完全治癒"」
感動するエリス。
そして、まるで呼吸するかのように上位治癒魔法を施してくるフィリアに、流石のユティアも苦笑いだ。
しかし、ありがたい。充実していく体力に、素直にそう感じている。
「ハッ! ユティアの嬢ちゃんの強さの理由。何となく分かったわ」
「レイグ、どうせしょうもないこと思ってるんじゃない?」
レイグとシエラの元気な姿に、ユティアも一安心。
階層主を討伐出来たのは勿論嬉しい。
そして、それと同じくらいに、皆が無事なのが嬉しい。
それが、今のユティアの正直な気持ちだった。
「で? "階層主"を討伐出来たのは良いが、それでどうなるんだ?」
「「「「…………………………」」」」
レイグの何気無い一言が、全員を現実に呼び寄せた。
ユティアは広間全体に視線を向ける。
"広間"だ。
階層主がいなくなった、広間。
壁に埋め込まれた水晶が、広間全体を照らしている。
扉は、ユティア達が入ってきた扉のみで、他には何もない。
嫌な空気が、全員に流れ出す。
「おいおい、冗談だろ?」
レイグが肩を竦める。
「……待って! ユティアちゃん! ソレ!」
そこに、フィリアが声を出してユティアの方へ視線向ける。
ヒラリと。1枚の緑葉が、ユティアの目の前に舞い降りる。
その緑葉は、差し出されたユティアの手のひらに、ゆっくりと吸い寄せられていった。
「「「「――ッ!」」」」
ユティアの手の上の緑葉を見て、皆が驚愕する。
これは
超希少戦利品だ。
魔道具。"大樹の緑葉"。
だが、皆が驚いたのはその効能だ。
この"大樹の緑葉"に込められた効能は、
"死"を含む全ての"異常"を消し去る。というもの。そして更に――"開花"。
その"開花"というのがユティア達には理解出来ないが、この"大樹の緑葉"は紛れも無くユティアが望む物であり、間違いなくロワを救う物であった。
更に――
「おいおいおい。マジかよ……」
同じ物が4つ。
皆の目の前に――ヒラリと。
この超希少戦利品を手に入れる権利は、パーティー全員に平等に与えられた。
"死"すらも治療してしまう破格の効能。
とても価値を測れる物ではない。
だが、これは"消耗品"であった。
一度きりの、真なる完全治癒だ。
皆の手元にソレが行き渡ったところで、背後の扉は静かに開いていた。
「……わ、私も貰っちゃっていいんでしょうか?」
直接戦闘には参加していなかったエリスは、少し気が引けている様子。
しかし、この場にいる冒険者達は、エリスがいなければ自分達がどうなっていたのかを充分に理解出来ている者達だ。
「勿論。エリスさんがいなければ、皆魔力欠乏に陥っていました。本当に助かりました」
と、ユティアは深く頭を下げる。
事実、エリスの持ってきていた魔力薬は、その数残り1つ。
エリスがいなければ、"賢者フィリア"は"階層主"の攻撃に耐えきることが出来なかった可能性がある。
充分に、パーティーに貢献したと言える。
そもそも、この広間に踏み行り、とうとう"退場"すること無く戦闘を終えたのだから、エリスも"階層主"に勝利したと言えるだろう。
「それじゃ、とにかく戻ろう。早くロワ君を助けないとね!」
フィリアのその言葉で、ユティア達は"広間"を後にした。
社から出たところで再びフィリアの転移魔法で、ユティア達は街へと転移する。
転移した先は、
高級旅館"陽射し亭"の目の前だった。




