全力的戦闘(熾烈)
放たれた息吹を避け、"階層主"目掛けて駆けるユティア。
(凄い……。これがフィリアさんの支援魔法)
様々な支援魔法を受け、身軽さを増し、魔力や体力までも増大した自身の肉体にユティアは素直に感心した。
しかし、目の前で凶暴かつ鋭い視線を向けている"階層主"は強大で、強力。
一切の油断無く、ユティアは"女神の長剣"を握るその手に力を込める。
そして、片足を軸にして体を回転させつつ長剣を振り払った。
すると、広間を一筋の剣閃が駆け抜ける。
剣技、"神閃"だ。
間合いという概念の存在しないユティアの剣閃が"階層主"の体を断つべく放たれたのだ。
しかし、
(――ッ!? 避けた!?)
"階層主"である"守護竜"は、その巨体からは考えられない身のこなしでユティアの剣閃を回避し、巨大な翼を存分に拡げ飛翔した。
"階層主"の飛翔した際の強風は、ユティア達の行動を阻害する効果が込められているが、"全状態異常耐性"を付与されている間は一切の異常を許さない。
「――くっ!」
ユティアはすかさず、長剣を握る手をすくいあげる要領で振り抜き、再び"神閃"を繰り出した。
飛翔したばかりの"階層主"目掛けた、縦方向に放たれた剣閃は、紛れも無く直撃コースである。
そもそも、この"間合い"という概念の存在しない"神閃"は、斬撃を飛ばしているのでは無く、斬っているのだ。
言ってしまえば、ユティアの目視できる景色から対象まで、その全てがこの"剣技"の攻撃対象になり得る。そして、ユティアが腕を振るってから、その剣閃が対象を断つまでの時間的猶予は……無い。
にも関わらず。
(――そんなっ!)
"階層主"は避ける。
自身のその巨体を、まさに思うがままに操り、ユティアが剣を振るうと同時に回避行動を取り、避ける。
「――――――――――!!」
"階層主"が避けてばかりな訳が無い。
ユティアに向かって、凶暴な口内を晒しての咆哮と共に"息吹"が放たれる。
それを認めたユティアは、すかさず足を動かした。
"加速"という支援魔法を得ている今、その初動は恐ろしく早い。
広間の上空で滞空し続ける"階層主"に注意を向けながら、ユティアは広間を駆ける。
(もう一度、やってやる!)
――今度こそは。
そう思いながら、ユティアは再び長剣を握る手に力を込めた。
しかし、
「ユティアちゃん駄目!」
それを阻止したのは、フィリアだ。
「"純竜種"は並の階層主じゃない! 正面から攻撃しても通用しないの!」
フィリアの言葉に、ユティアは止めかけた足を再び動かした。
少しでも動きを止めれば、"階層主"の息吹に捕らえられてしまうと判断したのだ。
走りながら、フィリアの話に耳を傾ける。
「"純竜種"は、知能が高く、魔法だって扱えるの! 少しでも油断したら、すぐに負けてしまうよ!」
ユティアは思考する。
どうするべきなのか。
目の前の"階層主"は"純竜種"だ。
翼を持ち、この広大と言える広間を自由自在に飛び回る。
自分達と"階層主"の位置取りは、常に自分達が不利だ。
(どうしたら……)
何か手は無いのだろうか?
そう、頭を悩ませていたところに、
「じゃあ! こんなのはどうだぁ!? おらぁ!!」
と、突如として響き渡る勇ましい声。
レイクが、広間の壁を利用して勢いよく跳躍し、今まさに"階層主"へと切り掛かろうとしていた。
両手で持った"戦鬼の大剣"を上段に掲げ。そのまま"階層主"の頭に振り下ろす算段のようだ。
「くらえや! "戦落とし"――」
「――――――――――!!」
レイグが、"剣技"を叩き込もうとしたその刹那。
"階層主"がレイグ目掛けて顎を大きく開き、凶悪な咆哮を木霊させた。
「――ッ! ぐぉおぉおぉぉぉお!」
至近距離で放たれた"息吹"は、寸分違わずレイグを襲う。
緑葉と花弁が、レイグの全身を切り刻み、暴風がレイグを彼方へと吹き飛ばす。
その風圧に晒されたレイグの全身の骨が、鈍い音を響かせた。
しかし、
「――へ、死んでろや。糞森林トカゲ野郎が」
レイグは確かに口角を吊り上げ、笑った。
そのレイグの笑みの意味を、"階層主"は気付かない。
その答えを知らせる言葉と共に、一人。"階層主"に忍び寄る者がいる。
「やるわねレイグ。後で褒めてあげるわよ」
"階層主"の背後からの冷たい声。
その声に込められているのは"殺意"だ。
静かに、そして冷たく、シエラは"羅刹の刀"を振るう。
"息吹"を放った直後の、"階層主"の僅かな硬直を狙っていた。
「――"斬首"」
振るわれた刀から繰り出された"剣技"は、限りなく間合いの狭い"剣技"であり、効果対象部位までもが固定されている。
しかし、決まれば必殺。
そしてその"剣技"は、確かに"階層主"の首を捉えていた。
「シエラさん!」
「――ッ!?」
が、"階層主"の首は健在であった。
巨大な翼が、シエラに向かって振るわれる。
跳躍していたシエラに、その翼を避ける術は無い。
視界を埋め尽くす程の翼を、シエラはただ見つめることしか出来ず、程なくして全身に衝撃が浴びせられ、浮遊感に襲われたかと思うと、背中に激痛が走る。
「きゃっ!」
シエラは、広間の壁に叩きつけられていた。
"斬撃特化陣"という、斬撃の強化が施されていても、シエラの"剣技"は"守護竜"の強靭な鱗を断つことは叶わなかった。
「シエラさん! レイグさん!」
慌てて、ユティアは2人の下へと駆け寄る。
見ただけで、相当な痛手を負っているのが分かる。
ユティアは、"階層主"を睨み付ける。
未だに滞空を続ける圧倒的な"守護竜"。
しかしその首には、大きな太刀傷が穿たれている。
それを見逃すユティアではない。
シエラの"剣技"は、"階層主"の首を跳ばすまでには行かなくとも、確実に深手を負わせることには成功していた。




