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最奥的社(試練)

 

 間違いなく、"賢者"は全力で治癒魔法を施してくれていた。

 "能力異常"をも治し得る治癒魔法を、"賢者"は行使してくれていたのだ。


 しかし、その治癒魔法すら……333階層級の異階層主によって持たらされた"能力異常"は干渉を許さない。


 賢者のフィリアが、魔力を酷く消費してしまったせいで力無くその場で倒れ伏す光景を、ユティアは唖然とした表情で見つめていた。


 ――希望だった。


 目の前の"賢者"なら、ロワを救ってくれると。

 そう思っていた。

 しかし、"賢者"ですら、ロワの"能力異常"を治療することは出来ない。


 その突き付けられた現実に、ユティアもその場で崩れ落ちるようにして座り込んでしまう。


「お、おい、ユティアの嬢ちゃん大丈夫か?」

「とにかく、フィリアさんに早く魔力薬を!」


 後ろから掛けられるレイグの声に、ユティアは反応することが出来ない。

 ただ呆然と、魔力薬を飲まされるフィリアの姿と、未だに目を覚ます気配の無いロワを見つめるだけだ。


 ~


「どういうことなの? ロワ君に"能力異常"を与えたのは、一体なんなの!?」


 回復したフィリアが、ユティアへ詰め寄る。


 全冒険者の先頭を走る勇者パーティーの"賢者"が、治療することの出来ない"能力異常"。

 その事実に、全員が驚いていた。しかし、一番驚いているのはフィリア自身だ。


 自身に強化を施し、"適能"までも利用し、魔力欠乏するまでの全力の治癒を行ったと言うのに何の効果も発揮しない。

 そんな"能力異常"を与えたのは、一体どんな存在なんだと、フィリアは問い詰める。


 そしてそれは、他の者も同様に思っていることでもある。


「……はい。それは――」


 ユティアが薄ら涙を浮かべて話し出す。


 あの時、不可解な"赤"魔法陣で転移した先の異階層主のことを。

 ロワは『止めておこう』と言っていたにも関わらず、自分が馬鹿な発言をしてしまったせいで、取り返しのつかないことになってしまったと。

 全て、ありのままをフィリア達に説明する。


「……333階層級」

「おいおい、どんな化物だよそりゃぁ」

「……………」


 ユティアの話を聞いた皆は、同様に顔を青くする。


 普通なら、とても信じられる話ではない。

 しかし、あの"賢者"の魔法ですら効果を発揮しない程に強力な"能力異常"は、ユティアの話を皮肉にも証明している。


 ――そんな物、もうどうしようもないのでは?


 殆どの者がそう思う。しかし、


「大樹の母……樹竜姫……。本当に、その異階層主はそんな名前だったの?」


 確認するように、フィリアが訊いてくる。


「そして、その異階層主は『試練』と……言ったの?」


 ユティアは頷く。

 あの時のことはよく覚えているため間違いない。と、キッパリと言い放ちながら。


 すると、フィリアは勢い良く立ち上がる。


 いったい、どうしたと言うのだろう?

 他の者がそんな眼差しで見つめる中、フィリアは口を開いた。


「心当たりがあるの。ついてきて欲しい。レイグさんと……シエラさんだっけ? あなた達も一緒に来て」


「あ? 勿論構わねぇが、いったいどうしたんだ――?」


 了承を得るとほぼ同時に、フィリアは錫杖に魔力を込める。

 すると、フィリアの足下を中心に"白"魔法陣が出現した。


「「「――ッ!?」」」


 紛れも無く、転移魔法陣。

 突如に出現したソレに、目を見開くユティア達。


「転移するよ」


「わ、私もっ!」


 今にも転移しそうな賢者達へ、そう名乗りを上げたのは今日まで親身になってロワの世話をし続けた受付担当の女性だった。


「……でも」


 と、ユティアは何か言いたそうな表情を見せる。


「御心配なく。ロワ様の御世話なら私が引き継ぎます。"お客様"である以上、精一杯のおもてなしをさせて頂くことを御約束します。……ただ、延長料金は割増になりますので、御早めにお帰りになることをおすすめします」


 そう言いながら丁寧に腰を折る若女将。


「ありがとうございます! 女将!」


「じゃぁ行くよ!」


 若女将に礼を言う受付担当の女性の声を聞いてから、フィリアは魔法を発動させた。


 部屋一面に迸る眩い光がユティア達を包み込み、皆を転移させた。


 ~


「賢者ってのは何でもアリかよ。まさか転移魔法まで扱えるとはな」


 周囲を見回しながらレイグが言っている。


「って言っても、同じ階層の行ったことのある所にしか転移出来ないけどね。だからその都度に構造の変わる迷宮じゃ使えないし、街位でしか使い道が無いんだ」


 ユティア達が転移してきた場所は、20階層の別の場所だった。


 だが、街からは遠く離れた場所であることは間違いない。

 人の気配など微塵も感じず、周囲は大きな大木が立ち並ぶ大森林、そのど真ん中だ。


「ご、ごめんなさい! 咄嗟に……つい!」


 と、大きな声で謝罪するのは受付担当の女性だった。

 半ば無理矢理、勢いに任せる形でついてきてしまったことに謝罪している。


「気にしないで。"戦力"は多いに越したことはないから」


 フィリアが受付の女性の左手に視線を向けながら、そう言っていた。


「? 私は、もう冒険者を引退しました。だから戦力にはとても……」


 フィリアの言っている意味がよく分からない。と言った表情を見せるが、冒険者を既に引退している女性は、自分を"戦力"に数えられては困ると言いたげだ。


「フィリアさん……ここは」


 そんな時に、ユティアがある一点を見つめながら声を出す。


「うん、ここは20階層。――その最奥にして、最大の大樹。そしてアレが……」


 そう言いながら、フィリアもユティアの視線の先に目を向けた。


 そこには、周囲の大木よりも更に、一際巨大な大樹が空に向かって伸びている。

 そしてその大樹の前には、まるで大樹を崇め、護るように、大きな(やしろ)が存在していた。


「昔にね、ミルシェちゃんと……ロワ君と、森を散策していた時に、偶然見つけたんだ。でもあの社の扉がね、ピクリとも動かなかったの。ユティアちゃん、その扉……ユティアちゃんならもしかして、開けられるんじゃない?」


 ユティアは、黙って社へと近づいてみる。


 清涼感溢れる森の中、巨大な大樹の前に聳える社。

 大きくて、存在感のあるこの扉に触れて、ユティアは確信する。


 ――この扉は開く。と。


 そして、この雰囲気は、これまでに何度か味わったことのある物だ。


 ユティアは一度振り向き、皆を見回した。


 そこにいる冒険者達は皆、"上層組"と呼ばれる者達であり、その一人は"賢者"だ。


「フィリアさん、レイグさん、シエラさん。……お願いします。私と"協力(マルチ)"をして下さい!」


 ユティアのその言葉に、レイグとシエラは全てを理解した。

 この社に待ち受ける存在を。


「面白そうじゃねぇか! 勿論、望む所だよ、なぁ!? シエラ!」

「ええ。ゾクゾクするわ」


「わ、私も! 戦力にはならないかも知れませんが、回復薬の準備は沢山あります! お願いします! 扉の近くから離れないようにしますので、どうか連れていって下さい」


「はい。是非お願いします。えっと……」


「エリスです。エリス・リアベルです」


 こうして、ユティア達は一時的なパーティーを結成する。


 皆の協力を得られたことに感謝し、決意を固めてから、その大きくて威圧的な雰囲気を孕んだ扉を、ユティアは押し開く。


 ユティアに続き、皆が社の中へと足を踏み入れていく。


 "協力(マルチ)"パーティーの全員が社へと"入場"すると、背後の扉は静かに閉ざされた。


 社の中は、"広間"だ。

 足を踏み入れた瞬間、ユティア達冒険者は確信する。


 ここは


 ――巨塔第20階層、最奥の広間であることを。


 "試練"を与えられた冒険者にしか、決して立ち入ることが許されない広間。

 そんな広間の奥に存在するのは、圧倒的な雰囲気を放つ"階層主(フロアエネミー)"。


 これまで、ユティアが見たどの"階層主"よりも巨大で、凶暴。

 鋭い眼光はしっかりとユティア達を捉え、その全身を覆うのは緑葉とも思える鱗。大きく強靭な翼と、大木を連想させる尾をドシリと床に休ませる"純竜種"。


 ――"大樹の守護竜・フォリア・レーヴェン"。


 ユティアは更に確信する。


 ロワを救う手立ては、この"階層主"が持っていると。


「―――――――――――!!」


 敵対する者を認めた守護竜の、凶暴な咆哮が木霊した。



勢いで書いております。

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