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憤怒的女神(ユティア・スターレ)

 

「……え? いや、別にリウス君の許可は必要無いよ? 私がこの人に頼まれて、私がそれを引き受けただけだよ?」


 と、"賢者"のフィリアが本気で不思議そうな表情を見せていた。


「いや、このパーティーのリーダーは"勇者"である筈の僕だ。フィリアが僕達から離れると、ソレだけまた巨塔攻略が遅れてしまう。そんなこと……リーダーとして見過ごせないよ」


 という"勇者"の言葉に、"賢者"は更に首を傾げる。


「でも、どうせさっきの人が"記録"を"110"に上げて戻ってくるまで、巨塔には入らないんでしょ? それに、リウス君は確かに私達のリーダーだけど、巨塔の"攻略中"以外まで私に命令しないで欲しいよ。ねぇ? ミルシェちゃん?」


「え!? ……え、えぇ。そうね」


 ――そこで私に振るのか。

 と、内心で焦る"魔女"。


 勇者パーティーの"賢者"は、ユティアが思っていたような弱気な女性ではない。


 確かに、普段の彼女は可愛らしい女性であり、どこか頼り無い印象……というよりは、護ってあげたくなるような雰囲気を振り撒いている。

 しかし彼女もまた、左手に"110"という"記録"を刻む冒険者であり、これまで勇者パーティーを支え続けた冒険者なのだ。

 "賢者"という、治癒や補助、支援に長けた"適性"は、パーティーの生命線を担う物。

 そんな適性を持つ彼女が"弱気"な訳が無い。


「ほらね? だから私はこの人のために"自然街"まで行ってくるよ。大丈夫だよ、用事を済ませたらすぐ戻ってくるから」


 "賢者"は、巨塔攻略においても常に、仲間や周囲の状況に気を配る存在。

 そんな彼女は、さっきまで知らん顔で食事を進めていたにも関わらず、酒場内での出来事を全て把握している。故に、冷静であり、言っていることは……正しい。


 "賢者"の発言は正しく、勇者パーティーに迷惑を掛けない範囲で、ユティアの助けを行うと申し出ている。


 しかし、それでも"勇者"は首を縦に振ろうとはしない。


「駄目だ。口でそうは言っても、本当に明日までに帰ってこれる保証なんて無いんだから」


 "勇者"の隣で笑う"無双者"以外、この"勇者"の発言の意図が全く理解出来ないでいる。


 20階層へ転移して、"能力異常"に陥っている者を治療して、同じく転移によって50階層へ帰ってくる。

 充分に、明日までに済ませられることだ。

 ましてや勇者パーティーの"賢者"だ、万が一にも何かが起こるとも思えない。

 それなのに何故、"勇者"はこれ程までに"賢者"を行かせたく無いのか、ユティアを含め殆どの者が疑問に思っていた。


 "賢者"のフィリアも、口ではあの様に言っていたが、出来ればパーティーの仲間でありリーダーである"勇者"には納得して欲しいと考えている。

 とは言え、どうしても首を縦に振らないならば、その時は勝手に行くつもりなのだが。


 そんな"勇者"と"賢者"2人の様子を見ていたユティアが、動いた。

 ユティアとしては、とにかく、何でも良いから早く"賢者"に20階層へ来て欲しいのだ。


 ユティアの取った行動、それは――


「お願いします。どうか、フィリアさんが少しの間だけ、私と行動を共にすることを許して下さい」


 深く、深く頭を下げた。


 美しく、長い銀色の髪が垂れ下がり、床に触れる。


 これでも駄目なら、その時は……土下座しかない。


 ――ロワを助けるためには、どうしても"賢者"の力が必要だ。


 ロワを想えば、土下座も苦ではない。と、ユティアは思う。


 そんなユティアの姿を見た"勇者"が口角を吊り上げ、笑う。

 一歩、二歩と、ユティアへと歩み寄り、その美しい銀色の髪に触れながら話し出した。


「はぁ、しょうがない。そこまで頼まれたなら、僕の()()な仲間であるフィリアを、少しの間だけ君に預けてあげるよ」


 ユティアの髪に不快な感触が伝わるが、ユティアは耐える。

 ロワのためなら、例え殴られようが、罵倒を浴びせられようがユティアは耐えて見せるだろう。


 しかし、ユティアの耳に聞こえて来た"勇者"の次の言葉だけは、どうやら耐えることは出来なかったようだ。


「ただし、君も僕のパーティーに入ってくれ。どうだ? 勇者()の物になれるんだ、光栄だろ?」


 不快な声が、ユティアの耳に入っていった。


 目の前が真っ白になった気がしたユティアの瞳は、眩しい程の金色に輝いている。


 咄嗟に、ユティアは自身の適性武具である"女神の長剣"を取り出していた。


「「「「――ッ!?」」」」


 ユティアが"女神の長剣"を取り出した瞬間に迸る膨大な魔力に、()()()冒険者が驚愕する。


 ――50階層に到達したばかりの冒険者が放つ魔力量ではない。あの"王者"以上とも思える魔力量に、全ての物が狼狽え恐怖する。


 さらに、そんな状況の中に響き渡る美しい声は、冷たく、感情の無い、自分以外の者に価値など見出だしていないような、そんな声だった。


「――"神罰"」


 声と共に"女神の長剣"の切っ先は――





 ――"勇者"に向けられていた。



勢いで書いております。


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