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上層的都市(スカイアベル)06

 

「ごめんね? 迷惑だったでしょ?」


 そう言いながら歩み寄る絶世の美女の左手には"110"という数字が刻まれている。

 この女性も紛れもなく"勇者パーティー"の1人なのだと、ユティアは理解する。


「貴女……私達のパーティーに加わりたい訳じゃないんでしょ?」


 少し呆れたように話す女性。

 自分達のパーティーだと言う割には、自信無さげな表情を見せる。それを少し不思議に思うユティア。


(……? どうしたんだろう。自分のパーティーのこと、好きじゃ無いのかな)


 そう思いつつも、ユティアは首を縦に振る。


 すると、ユティアの目の前の美女は「やっぱりね」と一言発してから、言葉を続けた。


「けれども、私達に何か用があるのね?」


 見透かされているような瞳が、ユティアへ向けられる。


 ――"魔女"だ。

 吸い込まれそうになる紫色の瞳。

 そして、酒場に入ってからここまでのユティアの挙動を見て、自分たち(勇者パーティー)を訪ねて来たのだと気付いた女性に、そう確信した。


「はい。パーティーへの加入は、考えもしていません。ですが……」


 と、ユティアは"魔女"に頭を下げてから、視線を横に向ける。

 そのユティアの視線の先には、1人の愛嬌溢れる女性が、さも知らん顔で食事に勤しんでいる。


 が、お構い無しにユティアはその女性に向かって歩き出す。


「え……? え、私? えっと……あの」


 すぐ傍までやって来たユティアに気付いた女性は、流石に食事を中断した。

 "勇者"や"無双者"、そして"魔女"と同じ"記録"を持つこの女性も勇者パーティーの1人。

 だが、他の3人とは違い、少しオドオドと弱気な印象だが、この女性こそがユティアがここまでやって来た目的である冒険者。


 ――"賢者"なのだ。


「え、えぇぇぇ!?」


 "賢者"が、そんな奇声を上げた理由は――


 ユティアが、勢い良く頭を下げたからだった。


「お願いします! "賢者"フィリアさん! 私の大切な人を……助けて下さい!」


 心からの懇願だった。


 この場にいる誰もが、予想できなかったユティアの言葉に驚いている。

 ユティアと共にここまでやって来たレイグとシエラでさえ、驚いた表情を見せていた。


「えっと……」


 ユティアの言葉の意味がよくわからない"賢者"は、助けを求めるように"魔女"へと視線を向ける。


「顔を上げて、ほら。どういう事か、説明してくれるのよね?」


 "魔女"に促され、顔を上げたユティアが事情を話す。


「……………」


 20階層の自然街で"能力異常"という状態に陥ってしまっているロワ(大切な人)がいること。

 勿論、それが"王者のロワ"であるということはこの場では伏せる。

 "勇者"と"無双者"は勿論だが、まだ"魔女"と"賢者"がロワに対してどの様な感情を抱いているのかが明確でない以上、ユティアはそうするべきだと判断していた。


 そんなユティアの話に多くの冒険者達が耳を傾けていたが、全ての話を終えた所で、声が聞こえてくる。


「おいおい。わざわざ"勇者パーティー"の"賢者"を、20階層(そんな所)まで出張らせようってか?」

「有り得ねぇよ。"上層組"を何だと思ってんだ? 巨塔攻略に忙しいんだよ、低層組(お前ら)とは違ってなぁ」


 そんな小馬鹿にしたような声が、酒場にいた多くの冒険者達から口々に発せられる。

 "勇者"と"無双者"の2人も、そんな彼等と同感なのか、軽い笑みを浮かべながら軽く肩を竦めるだけだ。


「図々しい女だな。ちょっと50階層に到達出来たからって、もう"上層組(俺達)"の仲間入りになったと――」


 ――ガッシャァァアン!!


 尚も続けられようとしていた冒険者達の罵倒の言葉は、唐突に響き渡った破壊音と衝撃によって、無理矢理に黙らされた。


「ごちゃごちゃと……勇者共の取り巻きがうるせえな。お前らみたいな奴を、俺は10階層で見たぜ? あれは確か……そう、階層主の"悪鬼将軍(インプ・ジェネラル)"の取り巻きの悪鬼(インプ)だ。ハハ! そっくりだな!」


 楽しそうに顔を歪める男の隣で、シエラが額を押さえながら「やれやれ」と呟いている。


 レイグだ。

 レイグが、適性武具である"戦鬼の大剣"を取り出し、酒場の扉を叩き斬っていた。


 そんな信じられない光景を目の当たりにした店主の顔は真っ青だが、この場にいる冒険者達の注目は、レイグの持つ"武具"へと向けられる。


「……な! "戦鬼"の武具……。何者だアイツ」


 珍しく強力な適性。

 ならば確実にある"適能"。自然と、冒険者としての実力も高くなる。


 そんなレイグの威嚇は、この場にいる()()な冒険者の口を塞ぐには充分過ぎる物だった。


「これ、アレの弁償料金ね」


 と、店主に金袋を渡す"魔女"の何気無い声が聞こえる。


「ハッ」


 それを見て、毒気を抜かれたレイグが軽く笑いながら大剣を収納に戻していた。


「……………。ともかく、応じるかどうかはフィーが決めることよ。ま、聞かなくても答なんて分かるけどね」


 レイグを冷たい目で一瞥した"魔女"がそう言うと、"賢者"も口を開く。


「うん。勿論私は行くよ? "能力異常"でしょ? 私に任せてよ」


 と、"賢者"の快い返事に、ユティアは胸を撫で下ろす。

 そうと決まれば、ユティアとしては今すぐにでもこの"賢者"をロワの所(20階層)まで連れて行きたい気持ちだが、この"賢者"はそんなユティアの気持ちすらもお見通しらしい。


「えっと……じゃ、今から行こうか?」


 心底感謝の気持ちで溢れそうになるユティアだったが、


「ソレを……僕が許可するとでも思ったのか?」


 という"勇者"の冷たい言葉が、ユティアの笑顔を崩してしまう。


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