上層的都市(スカイアベル)04
50階層という位置に築かれた都市はまさに、空中都市。
ここにいる全ての(元)冒険者が"上層組"であり、そんな彼等の冒険を支える武具屋や魔道具屋は、全て相応の品揃え。
勿論、1階層や20階層では手に入らない武具などを取扱う店も存在し、それを求めるには相応しい"適性"と"お金"が必要になる。
上層の攻略を進める冒険者で賑わうこの空中街は、冒険者にとっては必要不可欠な街となっている。
巨塔攻略に必要な武具や道具を揃えるため。なのは勿論だが、それ以外の、いわば巨塔攻略のための"息抜き"をするための施設も数多く存在するのだ。
「へぇー。ここが"空中街"かよ。……んで、アレが……」
50階層に初めて到達した冒険者が、大広間を出てまず目撃するのは広大な青空の中に発展した都市であり、その幻想的とも言える光景に息を飲むだろう。
そして、次に注目を集めるのが、そんな中で一際目立つ大きなドーム状の建造物だ。
巨塔のすぐ近くに建設されたその建造物には、様々な武具を表現した彫刻が施され、中からは歓声とも思える声が聞こえてくる。
「ええ、"巨塔闘技場"ね。凄い歓声と迫力。噂には聞いていたけど……」
巨塔から出てくると嫌でも目に入るその建造物に、レイグが少し興奮した声を上げたのを聞いて、シエラが肩を竦めている。
巨塔攻略は全冒険者の生きる目的でもあるが、それだけでは味気ないし、時には息抜きも必要だろう。
そんな思惑があって建設されたのかは分からないが、少なくともこの"巨塔闘技場"も今となっては冒険者にとっては必要不可欠な"娯楽施設"の一つだ。
そんな、冒険者達の"冒険"と"遊び"。そして"癒し"までをも支えるこの"空中街"だが、未だに"謎"の多い階層でもある。
1階層や20階層とは違い、50階層に到達した"上層組"が長い年月を経て発展させたこの広大な階層は、それらと比べると都市部分が小さく、未発展の大地があまりにも多い。
つまりは、まだ冒険者達が開拓できていない大地が多く存在する。
その理由は、1階層や20階層と比べると、この50階層を拠点とする冒険者が少なく、今以上の発展を必要としていないのが一つ。
そして、もう既に冒険者にとって必要な物は全て揃っている。ということだ。
とは言え、現状の空中街でも充分以上に広大ではあるし、いくら冒険者の数が少ないと言っても、それは1階層や20階層と比べればの話で、"上層組"は既に数え切れない程の数にまで達している。
そんな"上層組"の1人となったユティアは、空中街の景色に少し浮わついた気持ちになりそうになるが、その気持ちは次にロワと訪れた時まで取っておくことにした。
「しかしユティアの嬢ちゃんの目的地が50階層だったとはな。俺はてっきりこのまま100階層位まで一気に駆け上がるつもりじゃねーかと思ってたぜ」
「そうね。しかも勇者パーティーの"賢者"に大事な用があるなんてね」
ユティアの後ろについて歩く2人が、"巨塔闘技場"を興味深そうに見つめながら話す。
ユティアは、大広間から出るところで、自分の目的を2人に話していた。
ここまで来たのなら、どうせなら一緒に"賢者"を探してもらうことにしたのだ。
2人は、快く承諾してくれていた。
どうやら勇者パーティーにもかなりの興味を持っているらしい。
「はい。あまりゆっくりしている時間は無いんです」
「ま、そうだろうな。嬢ちゃんの急ぎっぷり。はっきり言って異常だわ」
「とにかく、ユティアちゃんとゆっくり話すには、その急ぎの"大事な用"を済ませてからよね。じゃあ、やっぱり聞き込みかしら……」
シエラの言葉にユティアは頷く。
まずは"賢者"がこの空中街にいるのかどうかだ。
探すのも良いが、まずは他の冒険者に尋ねてみるべきだろう。幸いにも"賢者"は勇者パーティーの1人だ。その名は"王者"同様に有名であり、この"上層"において知らぬ者はいないだろう。
「あ! あの人に尋ねてみます!」
ユティアにとって勇者パーティーとは、憎いと思える者達ではあるが、ロワと肩を並べていた者達だ。
つまりは強者。
ならば、そんな勇者パーティーのことを尋ねるなら、同じく強者の方が良いだろう。と、ユティアは視界に入る冒険者の"巨塔記録"にばかり視線をやっていた。
そんなユティアが見つけた最も高い"記録"を持つ冒険者に、ユティアは思わず駆けよって、声を掛ける。
「あの! 少し良いですか!?」
「? はい? どうしました?」
ユティアの声に、優しい微笑みを浮かべる美しい女性。
「「――ッ!?」」
程なくして追い付いて来たレイグとシエラが、その女性の"巨塔記録"を見て驚愕しているが、当然ユティアはそれに気付かない。
「"賢者のフィリア"という方を探してるんですが、知りませんか?」
「賢者……ですか。…………………………うーん。ごめんなさい。あまり他の冒険者の方については詳しく知りませんので、その"賢者のフィリア"という方が誰なのか、私には分かりません」
まさか、勇者パーティーの"賢者"を知らない者が存在しているとは思っていなかったユティアは少し驚くが、この女性は本当に知らないらしく、申し訳なさそうにユティアに頭を下げている。
「あ、いえ! こちらこそ急にごめんなさい。"勇者パーティー"の"賢者"だからって、誰でもが知ってる訳じゃないですもんね」
ユティアが自然に口にした"勇者パーティー"という言葉を聞いて、この女性はハッとした。
「あ! "賢者"とは勇者パーティーの内の誰かでしたか。その賢者の方がいらっしゃったかどうかは分かりませんが、勇者パーティーなら……この大通りを進んだ先の"蓮華"という酒場で見ましたよ?」
ユティアよりも少し背丈の低く、着物を上品に纏う美しい女性が笑顔で話す。
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
まさかの一発で、勇者パーティーの居所を知る者に声を掛けることができた幸運。
そして、勇者パーティーがこの50階層に滞在していてくれた幸運と、この女性に心底感謝するユティア。
「いいえ。是非ともその"賢者"にお会い出来ることを、私も祈っていますよ」
と、優雅な所作で告げる女性に、もう一度ユティアは礼を言ってから大通りの先へ向かい、走り出す。
それに釣られて慌てるようにレイグとシエラが続くのを、女性は笑顔で見送っていた。
そして、その女性は1人、巨塔へと足を向ける。
その左手の数字を"100"から"110"へと上げるために……。
主人公はロワ君です。




