上層的都市(スカイアベル)03
巨塔第50階層。
その大広間に今、1人の冒険者が足を踏み入れた。
美しく長い、銀色の髪を靡かせる美女。
どこか神秘的な雰囲気を漂わせているのは、彼女の瞳が美しい金色に輝いているからだろう。
(着いた……)
ユティア・スターレ。
20階層からここまで、満足な休憩も無しに駆け上がって来たユティアの表情には流石に疲れが見えている。
(――ッ! これは)
50階層の大広間で、目に飛び込んで来た光景に思わず息を飲む。
疲れが蓄積され、肩で息をするユティアが見た物。それはこの大広間にやって来れば嫌でも目に入る"光"。
"紫"魔法陣の光だ。
20階層の大広間で見た物よりも一段と輝きを強くさせ、大広間を照らし出している。
"大規模転移"の発動時刻が着実に近付いている証拠だった。
――せめて、この魔法陣が発動するまでにはロワを救いたい。
その眩しく光る、紫色の魔法陣を見てユティアはそう思う。
この"大規模転移"に参加するか否か。
それはまだ決めていない。あまり詳しくロワと相談出来ていないユティアだが、どうするかは大方予想はついている。
――ロワなら参加する筈だ。
1階層で、"紫"魔法陣が出現したという報せを聞いた時のロワの顔。
あの楽しそうな、ワクワクしているような顔を見れば、答なんて聞くまでもない。
ユティアとしては、ロワが『行く』と言うなら一緒に行くだけだ。勿論、『行かない』のなら行かない。
などとロワが快復した後の光景を思い浮かべるだけで、溜まった疲れがどこかへ消えてしまいそうになるが、50階層までやって来たのは"賢者"を探すため。
「……………」
もう一度気を引き締め直してから、ユティアは後ろの階段を振り返るが、そこからは誰も上がって来る気配はない。
(……行こう。これ以上ロワ君を待たせられないしね)
どうやら、45階層で出会った2人は、自分の速度について来れなかったようだ。
その事実が、少しだけ寂しく感じてしまうユティア。
決して"普通"ではなかった2人。どちらかと言えば"変人"の2人だった。
しかしユティアは、あの2人とは仲良くなれそうな気がしていた。
――ロワとも気が合いそう。
そう思っていた。
正直に言えば、ここで2人の到着を待っていたいユティアだが、最優先は"賢者"を見つけること。
そもそも、まだ"賢者"がこの50階層にいるのかも分からないのだから、早く街に出て聞き込みでもなんでもしなければならない。
後ろ髪を引かれる思いで、ユティアは大広間の出入口へ向かう。
しかし、幾らか進んだ所で、すがり付くように。うめき声にも似た声が、ユティアを呼び止める。
「ま……待てやぁ、こらぁ」
ユティアの耳に届く声は、紛れもなくレイグの物。
だとすれば、シエラもいる筈だと、ユティアは顔を綻ばせながら上がって来た階段へ振り向いた。
「……え、えっと。大丈夫ですか?」
そこにいたのは、正に這い上がるようにして階段からやって来たレイグとシエラの2人だ。
お互いで肩を抱きながら、ボロキレのようになりながら這いつくばる2人に、ユティアは若干引きながらも、心配そうな表情で声を掛けていた。
「ちょ、ユティアちゃん本当に……貴女何者な訳?」
青い顔のシエラの発言に、ユティアは苦笑する。
何はともあれ、2人はなんとかユティアの速度について来たらしい。
色々と質問したいことがある2人だが、まだ先を急ぎたそうな様子のユティアを見て我慢することにしたのか、それ以上は何も質問してこない。
そんな2人にユティアも感謝しつつ、改めて大広間の出口へと向かう。
少しの休憩もさせるつもりは無い様子のユティアに、2人は顔を見合わせて肩を竦めている。
ユティアとしては、休憩したければすればいい。くらいに思っている。
だが、ユティアはソレを待ってやる程の余裕は無いため、休まず歩く。それだけのことだ。
『ユティアについて行く』と言い出したのはレイグ達であり、言わば勝手についてきているだけだ。別にパーティーを組んでいる訳でもないため、ユティアは自分の目的のためだけを考えて行動している。
レイグとシエラも、そのことは充分に理解しているため何も文句は無い。
その証拠に、徐に取り出した"体力薬"を一気に飲み干してから、慌ててユティアの背中を追いかけるべく立ち上がっている。
彼等にとっても、初めての50階層なのだが、今はそんなことよりもユティアの"強さ"に興味が惹かれているのか、少しの感動もありはしないらしい。
ユティアとレイグとシエラの3人は、大広間の出口から"空中街"へと足を踏み入れた。
長くなりそうなので、分割させてもらっています。
もう少し50階層での話が続きます。




