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上層的都市(スカイアベル)01

 

 巨塔第50階層。


 現在、冒険者達が攻略を果たせている100階層と少しの間に存在する、広大な階層。それが20階層と50階層であり、その広大な大地には冒険者達によって発展された都市が築かれている。


 そのひとつの50階層(スカイアベル)は、冒険者達の中でもある種の目標地点とされていた。


 "上層組"。


 50階層という上層に築かれた都市は、正に空に存在する都市だ。

 その都市を拠点として、巨塔の攻略を進める冒険者のことは"上層組"と呼ばれている。

 冒険者達は皆、この50階層を目指し、"上層組"の仲間入りを目指す。


 冒険者達の初めの目標が、この50階層だ。


 そして、50階層に到達した冒険者達は、ここから更に上を目指すことになるのだが、この50階層で殆どの冒険者達はあることを強いられる。


 それが"パーティーの再編成"だ。


 何故、それを行うかの理由は至極単純な物。

 階層攻略の難易度の上昇だ。

 それにより、パーティー内で抜きん出て実力のある冒険者は、より強いパーティーを求めてそれまでのパーティーを抜ける者が存在する。また、逆にパーティーを追い出される者も。

 中には、50階層まで上がる過程で仲間を失い、その補充を行う冒険者達もいるだろう。

 パーティー再編成の理由は様々であるが、その全ての要因は、51階層からの難易度が高くなっているからだ。

 勿論、中にはそのままのパーティーで攻略を進める冒険者達も存在するだろうが。


 ともあれ、この50階層(スカイアベル)は、最も冒険者達のパーティー移動が盛んに行われている都市でもある。


 そんな50階層の、冒険者が集う酒場にはその手の話題に花を咲かせる冒険者が多いが、現在この50階層で最も冒険者達が興味を向けている"パーティー再編成"がある。


「駄目だな。せめて70階層までの"記録(レコード)"持ちか"適能"を持ってなきゃ、俺達のパーティーには加えられねえ。次」


 高い実力を持った冒険者達が集まる酒場の一角に、冒険者達の集まりが出来ている。

 そこに集まった冒険者達が囲んでいるテーブルに座る2人の冒険者の内の1人が冷たい言葉を浴びせると、対面に座っていた冒険者が酷く落ち込んだ様子で席を立ち、酒場から出て行った。


「マジかよ。65階層踏破者だろ? 今の」

「ったりめーだろ! 勇者パーティーへの加入だぞ!? いくら最近は攻略速度が落ちているとは言え、生半可な冒険者がパーティー入り出来るかよ!」


 虚しくも酒場を後にした冒険者の背中を見送ってから、テーブルを囲む冒険者達が話す。


 彼等の囲むテーブルに座る1人は、黒髪短髪の男前。

 "一騎当千の槍"を適性武具とし、大群相手にこそ無類の強さを発揮する"無双者"で知られる男。ケイル・アザールだ。


「ケイル、少し厳し過ぎるんじゃないか?」


 そのケイルに語りかける金髪の男。

 優しい口調ではあるが、言葉には少し自分達以外の冒険者を見下しているような雰囲気が感じられる。


 勇者パーティーのリーダー。

 "勇者の大剣"を持つ男。リウス・エタニアだ。


「そうは言うけどよリウス。新しい仲間の"記録"が低ければ、それだけ俺達の攻略も遅れるってことだぜ?」


 "パーティー再編成"における欠点がある。

 それがパーティー内で生じてしまう"巨塔記録"の差だ。

 パーティーで攻略を進めていれば、自然とパーティー全員の"巨塔記録"は揃う物だが、パーティーを再編成するとどうしてもソレに差が生じてしまうのだ。

 基本的に冒険者は、自身が到達した最高階層までしか転移することが出来ない。そのため、新しく加入した仲間の"記録"が低ければ、他の者は新規加入者のために低い階層を共に攻略するのが基本となっている。

 ソレが嫌なら、同じ"記録"の仲間を探すしか無いのだが、そう都合良く見つかる物でもないのだ。


「だからよ、俺達の仲間になりたいのなら相応の奴じゃねーとな」


 そうして新たな加入者の呼び掛けを行っている勇者パーティー。

 その呼び掛けに応じた多くの冒険者が、この酒場に集まり、自身の売り込み紛いのことをやっているのだ。


(はぁ……。既に私達の攻略は足踏みしてしまっていると言うのに、何を偉そうに話してるんだか)


 そんな彼等の光景を、隣のテーブルから冷めた視線で見つめる絶世の美女。


「ミルシェちゃん。最近元気無いよね? やっぱりロワ君がいないと楽しくない?」


「ん? いやごめんね。確かにロワがいないと少しね。でもフィーが居てくれれば私は頑張れるから」


 勇者パーティーの"魔女"と"賢者"。

 彼女達は、新たな仲間が誰であろうが、さほど興味はない。

『どうせ、ロワの代わりになる者などいない』そう諦めている。

 しかし、勇者パーティーとしては一応見届けておくべきだと思い、この場に同席していたのだが、隣のテーブルでの自身の仲間である者の発言に、終始呆れてしまっている"魔女"ミルシェ。


「おいおい! 少しはまともな奴はいねーのかよ!」


 ケイルの偉そうな声が酒場に響き渡る。


(はぁ……。ホント何様よ)


 視線は向けず、ただただ内心で呆れて果てるミルシェ。


「でしたら、私が立候補しましょうか」


 ソコに新たな声が響いた。


 酒場の入口に佇む女性。

 大人びた雰囲気を放つ美女であり、背丈は少し低めではあるが魅惑的な体つきなのが、身に纏う着物からでも分かる。

 涼しげな黒い瞳を持つ"単独冒険者"。


 酒場の皆の注目が彼女の美貌に集まるが、すぐにその意識は彼女の左手に向けられ、皆が息を飲む。


 そこに印された"100"という数字は正しく、彼女が勇者パーティーの新たな仲間であるのに相応しい物であり、その数字はどんな言葉よりも彼女の実力を証明する物だったからだ。


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