最凶的二人(戦闘狂)03
開け放たれた扉は、後に続く者がこれ以上存在しないことを察知したのか……ゆっくりと、大きな音を立てながら閉ざされた。
その間に、この広間へ足を踏み入れたのは3人の冒険者であり、挑戦者。
2人の冒険者の後ろに、ついて歩くようにして入ってきたユティアは、広間の奥に待ち構える存在に意識を向けつつ、広間を見回していた。
第45階層最奥の広間は、これまでとは少しばかり雰囲気を変えている。
まず広間を照らす光は、壁に埋め込まれた水晶ではない。
この広間には、そのような景観を損ねるような物は存在していない。
広間を明るく照らす正体は、高い天井から吊るされた煌びやかな装飾の施された水晶だ。
広間の壁には、本来存在している筈の水晶の代わりに、絵画や壺、観賞用の武具といった調度品が、まるで見せびらかすかの様に置かれている。
――趣味が悪い。
軽く広間を見回したユティアの、素直な感想だった。
それだけの感想だけで、もとより興味の無かった広間の内装への関心は即座に失われる。
そんなことよりも、"階層主"だ。と、ユティアはそちらへ視線を向ける。
この広間の主だ。と、まるで声になって聞こえてきそうな程に偉そうな態度で、広間のどんな物よりも豪華な椅子に腰を落ち着けている存在がいた。
"悪魔男爵 ニューロベル・ニグル"。黒い肌に赤い瞳が怪しく光る、小さな角を2本生やした悪魔だ。
更に、その脇に控える騎士風の魔物。
"悪魔騎士 ベリト"。面兜をかぶり、全身を鎧で覆う騎士だ。
細く長い剣と、胴体程はあるかと思われる縦長の盾を持つこの騎士は、さしずめ"悪魔男爵"の護り手と言った所だろう。
とは言え、この"悪魔騎士"も"悪魔男爵"同様に"階層主"であることには違いない。
ユティアがいつか見た、"悪鬼将軍"の取り巻きである"悪鬼"とは違うのだ。
2体の"階層主"。
これが、45階層の階層主の討伐難易度が高いと言われている理由のひとつ。
そんな状況に、異常なまでの高揚を感じる冒険者が……この場には2人、存在していた。
(ッ!? え!? ちょっとぉ!?)
ユティアが戸惑っていた。
いつの間にか、シエラとレイグの2人が階層主目指して駆け出していたからだ。
「先手必勝だなぁ! ハッハァ!」
「ユティアちゃんの実力を知りたかったけど、やっぱり無理ね。目の前に敵がいるんだから……………殺したくなっちゃう」
そう言いながら駆ける2人の瞳に込められているのは、闘争本能だ。
作戦も何も無く、ただ単に"戦闘"を楽しみたい。そんな気持ちに支配されるがままに、2人は階層主へと迫る。
そんな2人から"悪魔男爵"を護るように、"悪魔騎士"が前面に立ち塞がる。
ニィ。と、レイグが口角を吊り上げた。
「じゃぁお前からだな?」
そう言うレイグの右手には、果たしていつ取り出したのか分からない武具が握られている。
"戦鬼の大剣"。
レイグの振るう、そんな凶暴な武具に込められているのは正に……圧倒的な暴力だ。
自分の体重以上の重量物である大剣を、力いっぱいに振り下ろす。
が、その攻撃は直線的過ぎたのか、"悪魔騎士"は盾を使うべくもなく、最小限の動きで難なく回避する。
誰もいない地面を、レイグの大剣は叩き割る。
大剣による攻撃が空振りに終わったレイグは隙だらけとなるが、その顔には焦りなど微塵も感じられない。いや、寧ろその逆。より一層の不敵な笑みが浮かべられていた。
「まずは1人」
と、大剣が地面にめり込んだままのレイグが口にした。その瞬間。
どこからともなく現れたシエラが、"悪魔騎士"の傍らに着地して言い放つ。
「"斬首"」
と、シエラが言い終わる瞬間に
――"悪魔騎士"の首が跳んだ。
高く舞い上がり、やがて床に転がり、塵となって消える。
そして残された胴体も、大きな金属音を響かせながら倒れ伏して、静かに消滅した。
"剣技"だ、と。
ユティアは即座に理解した。
静かに佇むシエラの持つ武具。
禍々しくも美しいが、"殺意"の塊とも見えるその武具に、ユティアは少し体を震わせる。
"羅刹の刀"。
シエラの持つ"適性武具"は、そんな名だった。
――どうやらこの2人。少し普通ではない。
ユティアは、自分のことを棚に上げてそんな事を思っていた。




