最凶的二人(戦闘狂)02
「お前……単独かよ。……へぇ」
値踏みするかのような視線をユティアへ向ける男。
45階層という、決して低層とは言えない場所。
ここまでの道のりが簡単な物では無いことは、この場にいる2人の冒険者とて承知している。
そんな最奥の広間までやって来た単独冒険者のユティア。
男がユティアに興味を示すのも無理はなかった。
それだけ、単独冒険者というのは珍しい。
20階層以下の階層では、少ないとは言え珍しい存在ではない。しかし45階層での単独冒険者は非常に少ないと言える。
だが、それを理解している男は、落胆する。
45階層まで単独でやって来た冒険者のユティアの力量は、今ここにたった1人で立っているという、その事実だけで相当な物であることは分かる。
……だが、それだけだ。
45階層までは単独で上がってこれた。
しかし今、この冒険者は自分達に"協力"を持ち掛けて来た。
つまりは、ここの階層主は単独で討伐することが難しそうなので手伝ってくれ。と、そういった意味で"協力"を持ち掛けてきたのだと、この2人の冒険者達は邪推してしまっていた。
そう考えると、男のユティアへの興味は少しばかり薄れてしまう。
しかし、それは仕方の無いことだとも考えていた。
ここは45階層であり、この広間に待ち構える階層主を討伐すれば、50階層へは到達したも同然なのだ。
要するに、ここさえ突破すれば、晴れて"上層組"と呼ばれる冒険者の仲間入りになるのだが、この広間を越えられない者は多い。
45階層の階層主の討伐難易度は、これまでよりも高い。
それは冒険者の間では周知の事実のため、このユティアは……自分が"単独"であることに不安を感じたのだろう。と、彼等は考えていた。
とは言え、特に断る理由は無い。
どちらかと言えば、階層主は単独では手に負えないとしても、ここまではたった1人で上がってこれた冒険者のユティアには、少しばかりの興味はある。
男は、ユティアに協力することにした。
しかし、中々返事をもらえないことで断られると思ったユティアが、男よりも先に言葉を発してしまう。
「あの! もし"協力"が嫌なら、せめて私を先に広間へ行かせてもらえませんか? 大して時間はかからないと思います!」
「おう……え?」
思いもよらぬユティアの発言に、2人は一瞬思考が停止する。
「ごめんなさい。私……急いでて、出来ればすぐに広間へ入りたいんです。なので先に広間へ行かせて欲しくて……」
「「…………………………」」
2人はようやく理解する。
ユティアが"協力"を持ち掛けてきた本当の理由を。
ただ単に、広間へ早く入りたいだけなのだと。
そして更に、ユティアの口ぶりは、ここの階層主のことなど何とも思っていないことが窺える。
1人で簡単に討伐出来ると、現に言っているのだ。
「本気かよオメェ! 面白いな! 良いぜ、やろうぜ"協力"。構わねえよな? シエラ」
元から断る気など無かった男だが、ユティアの言葉の意味を理解して一層の興味が湧き、"協力"を快く受け入れる。
「勿論私も問題なし。寧ろこっちからお願いしたいくらい。貴女……強いんだ?」
「え? ……いや、どうでしょうか。あはは」
「ま、それもすぐに分かることね。私はシエラよ。こっちのチャラそうな男はレイグ。よろしくね?」
シエラのその言葉に、すぐ横に立つレイグが露骨に顔をしかめるが、そこに嫌な感情は含まれていない。
非常に仲の良い2人なのだと、ユティアは思う。
「私はユティアです。よろしくお願いします」
しっかりと2人と握手を交わして、簡単に自己紹介を済ませる。
そしてようやく、今まで固く閉ざされていた広間への門に変化が生じる。
どうやら、中での戦闘が終わったらしい。
入口から冒険者が姿を表さないということは、冒険者側が勝利したということ。
しかし、レイグがボソリと文句を口にする。
「チッ。ようやくかよ、どんだけ時間掛かってんだ? あれだけの大所帯のくせによぉ」
「まぁいいじゃん。そのおかげで私達はユティアちゃんに出会えたんだからさ」
「ハッ、それもそうか。せいぜい俺達をびっくりさせてくれや」
「…………………………」
――もしかしたら、変な人達なのかな。
2人の会話を後ろで聞いているユティアは、そんなことを考える。
しかしその2人は、ユティアの不安など露知らずに、そこにある大きな門を勢いよく開け放っていた。




