最凶的二人(戦闘狂)01
巨塔第45階層、最奥の広間へ至る廊下に響く足音。
41階層からの巨塔の有り様は、また一段と変貌している。
31階層からの道のりよりも更に、壁や床、天井は整えられた物となっている。
壁に埋め込まれた水晶の輝きも、どこか気品を漂わせているように感じる。
これまでの殺風景な雰囲気ではなく、各所には壺や絵画といった調度品が置かれている始末。
いったいそんな物を誰が置いたのかは、誰にも分からない。
一言で表すならここは、"城"だ。
"城"と言っても、ここは"巨塔"の中だが。
巨塔の内装……というより構造と雰囲気は、階層主の存在する広間を越えると、激しく変化する。
巨塔に挑む冒険者は、初めこそその変化に戸惑うのだが、階層を進むにつれて慣れてしまう者が殆どだ。
そんな事もこの"巨塔"の謎の1つだと皆が納得してしまう。最上層へ到達すれば、巨塔の数知れず存在する謎も全て判明するのだと、冒険者は最上層を目指すのだ。
そして、この45階層の最奥の広間へ到達したユティアも、目まぐるしく変化する巨塔の雰囲気に、ようやく慣れてきたところだった。
(はぁ……。また誰かいる)
ここまで満足に休めていないユティアの表情は流石に優れない。
とは言え既に45階層。
50階層はもうすぐそこだと、ユティアは自らを奮い立たせていたのだが……。
階層主の待ち構える広間へと至る門の前に、またもや冒険者の姿を見つけてしまい、流石に嫌気が差してしまうユティア。
(あれ? でもなんか雰囲気が違うかも)
また"協力"か。と思ったのだが、どうやらそういう訳では無いらしい。
ユティアの見つけた冒険者は2人。
門のすぐ近くで、壁にもたれながら親しげに談笑している男女の2人組だ。
彼等の視界には充分入る位置にまでユティアは近づいているのだが、談笑している2人はユティアに気がついていない様子。
ならば、少なくとも後続の冒険者を待っている"協力"希望の冒険者ではないと、ユティアは判断する。
(あ、そうゆうことか)
そして、広間の前にまでたどり着いているにも関わらず、広間へ入ろうとしない2人を見て、ユティアはロワに教わっていたことを思い出した。
広間に他の冒険者が入場している時は、門が開くことはない。
つまりは、中では別の冒険者が階層主と戦闘中なのだと、ユティアは思い出していた。
思い出すと同時に、ユティアは表情を曇らせる。
ここにきて、まさかの足止めだ。
少なくとも、現在広間で行われている戦闘の決着がつかなければ、この門は開かない。
そしてこの門が開けば、次に広間へ入場するのは先に到着していたこの2人の冒険者ということ。
"順番待ち"だ。
巨塔ではよくある光景のひとつだ。
そしてそれが発生するのは、30階層から70階層までが最も多い。
階層主がそれなりに強く、挑戦する冒険者の数も多い。
そういった階層では、今回のように広間の"解放待ち"が発生してしまう。
勿論待つしかないのだが、今のユティアは少しでも早く進みたい。
無駄に時間を浪費することは許されない。
今のうちに休む。という選択肢もあるのだが、50階層はすぐそこだ。そんな選択肢な即座に捨て去っていた。
「あ……あのー」
少し遠慮がちに、ユティアは談笑している2人の冒険者に声を掛ける。
「あ?」
「んー?」
その声に反応して、2人の瞳がユティアに向けられる。
男は、細身でありながらも逞しい体格。茶髪を短く切り揃え、爽やかな印象だ。左耳に3連のピアスがキラリと光り、お洒落な雰囲気を漂わせている。
女は、少し紫色の混じった黒髪を横に結び、肩に流す美女だ。
美男美女。
2人を見たユティアは、そんな感想を抱く。
「えっと、どうかした? 私達に何か用?」
なかなか言葉の続きを話さないユティアに、女性の冒険者が声を掛ける。
思い出したかのように、ユティアは口を開く。
冒険者が既に広間の中に入り、門が開かない現状はどうしようもない。
だが、少しでも早く階層を進めたい。
せめて、あの門が次に開く時は広間へ足を踏み入れたいと思ったユティアは、2人の冒険者に対して、あることを頼むつもりだった。
それは、
「あ、あの! 良かったら……"協力"させてもらえませんか!?」




