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上昇的道筋(上層へ)

 

 30階層の階層主の討伐を終え、31階層へと到達していたユティアは、魔物や魔獣の気配の無い場所を見つけて休息しようと考えていたが、事情が変わりそのまま上層を目指すことにしていた。


 魔物や魔獣の気配の無い場所は、少し探せばすぐに見つかるため、その気になればいつでも休息することはできるのだが、ユティアは足を止めずに走り続ける。


(もう! なんなのよー。ロワ君助けてよぉ)


 珍しく、内心で悪態をつくユティア。


 機嫌を悪くしているユティアは、進むべき前を見据えながらも後ろに意識を向けている。

 と言うのも、ユティアが機嫌を損ねている原因が、後ろに存在していたからだ。


「おい! 頼むから! ちょっと待ってくれよ!」


 ユティアの背中に投げ掛けられる声。

 発せられた声は1つだが、ユティアの後を追うように3人の冒険者の姿がある。


「頼む! 俺らのパーティーに加入してくれよ!」

「とりあえず話を! 話だけでも!」

「め、女神様!」


 30階層の階層主の討伐の際に、半ば無理矢理にユティアと"協力(マルチ)"を行った3人の冒険者であった。


 単独で30階層まで到達し、その階層主を正に瞬殺したユティアを自分達のパーティーへ勧誘するために、ユティアの後を追いかけている。


 階層主の討伐を終え、手頃の場所を見つけ出して休息しようとしていたユティアだったのだが、後ろから追いかけてくる彼等の存在に気付き休息を中止したのだ。


 明らかに自分のことを追いかけている彼等の様子に、ユティアは非常に面倒くさいと感じていた。


 休息はしたいが、彼等に捕まると更に時間を無駄にしてしまいそう。

 それに、ロワ以外の男とは、正直あまり話したくない。

 後、ただ単にうっとうしい。


 そんなことを考えながら、ユティアは階層を進む。


 31階層からの道のりは、ユティアにとっては進みやすい雰囲気となっていた。

 29階層までの不気味な物ではなく、石造りの整えられた壁と、高い天井。広い道幅。壁に埋め込まれた水晶はこの階層を明るく照らし出し、見通しが良い。


 だが、構造は更に複雑になっている。

 魔物や魔獣の数も多く、次第に強力になりつつある。


 そんな31階層だが、ユティアの足は止まるどころか更に速度を増している。

 ユティアにとって、この階層の魔物や魔獣も脅威になることはない。


(しつこい! もう諦めてよ!)


 目の前に出現する魔物を一閃しながらの、そのユティアの文句は、勿論魔物に向けられた物では無い。


「凄ぇ! "上位悪鬼(ハイ・インプ)"を瞬殺かよ……」


 ユティアの後を追う冒険者達に向けての文句だった。


 階層を走り抜けるユティアの後を追う冒険者も、前方に出現する魔物達をユティアが瞬殺してしまうために、戦闘状態に突入することがない。


 にも関わらず、3人の冒険者達とユティアの距離が詰まることはない。

 それどころが、その距離は少しずつ広がりつつある。


 魔物や魔獣を倒しながら走る者と、その後を追うだけの者では、すぐに後ろの者が追い付いてしまうだろう。

 しかし、前を走る者がユティアなら……そうはならない。


 ユティアの場合、この階層の魔物達との戦闘が、彼女の走行の阻害になることなど無いのだ。


 その事実が更に、『ユティアをパーティーへ加えたい』。という、この3人の冒険者達の欲求を刺激することになってしまっていた。


「頼むから止まってくれ! 少しだけでいいから!」


 もう何度目になるのか分からない、見ず知らずの冒険者の懇願の声。


「……………」


 ユティアとしては、他の冒険者に構ってる時間が勿体無いが、このままでは本当にどこまでも追ってきそうな気がする。

 勿論、本気になれば撒くことは可能だが、無駄に体力を消耗してしまう。まだ31階層であり、50階層までの道のりはまだ少し残っている。

 出来ることなら、不必要に体力を消耗してしまうことは避けたいのだ。


「……! 良かった、分かってくれたか!」

「おぉ!」


 後ろの冒険者の声が近づくのを、ユティアは感じ取る。


 ユティアは……ここでようやく足を止めた。


 それを見て、ユティアを追っていた冒険者達が喜色の笑みを浮かべる。

 話を聞いてくれる気になった。と思う者。

 果ては、自分達とパーティーを組んでくれる気になった。と思う者までも存在していたが、そんな妄想はすぐにユティア自身によって打ち砕かれた。


「止まってください!」


 長剣を向け、鋭く睨み付けるユティア。


 冒険者達は即座にその場で足を止める。


 先に見た(実際には見ていないが)階層主との戦闘と、ここまでの道のりでのユティアの戦闘で、彼等は既に実力の差を存分に味わっているため、ユティアのその言葉に逆らえない。

 更には、ユティアの鋭い眼光に射抜かれて、思わずも体が固まってしまっていた。


 ゴクリと、生唾を飲み込み、ユティアの言葉を待つのみだ。


「はっきり言っておきます!」


 そう前置きしてから、話し出した。


「まず私は、今は1人ですが……行動を共にする方が存在します。決してあなた方とパーティーを組むことはありません」


 そう話すユティアの瞳は、少し怒っているように冒険者達には見えていた。


「そして、あなた方と不必要に仲良くするつもりもありません。私には……一生を共にすると決めた方が存在します。……わかったら、もう追って来ないで下さい!」


 明確な拒絶だった。


 これまでのユティアなら、ここまで強い言葉を使っての拒絶など出来はしなかったのだが、ロワの事を想えば……他の事などどうでも良く思えてしまう。

 ユティアにとっては、ロワさえ傍に居てくれれば、他の者にどう思われようが構わないのだ。


「「「…………………」」」


 有無を言わせぬユティアの迫力に、冒険者達は何も言えずにいた。


 ただ、踵を返して再び前に走っていくユティアの背中を、呆然と見つめるだけだった。


 彼等には、既にユティアの後を追う気力は残されていない。


 どこか失恋にも似た脱力感に、彼等は晒されてしまっていたのだ……。


(ふぅ……。これで心おきなく50階層を目指せる)


 ユティアは32階層への階段へと足を運んでいた。



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