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変態的冒険者(ロワ・ミッケル)

 

 俺の視界が捉えているのは、第19階層の"階層主(フロアエネミー)"だ。

 人間の何倍もあるかと思われる巨漢。分厚い筋肉に、さらに丈夫そうな鉄鎧を着込み、まるで山のようにソコに悠然と佇んでいる。

 頭には立派な鉄兜をかぶり、大きな角が2本、兜の隙間から生えている。10階層の階層主と違い、取り巻きの魔物はいない。


 "牛鬼(ぎゅうき)"だ。

 こいつの事は覚えている。こいつが右手に持っている巨大な斧は、まさに一撃必殺の攻撃力を備えている。

 強靭な腕の力で、まさに叩きつけるように振るわれるこいつの攻撃は、まともに受けては駄目だ。

 もし喰らえば、"上層組"の冒険者でさえ、ただでは済まないだろう。


 だが、それだけ。言ってしまえば、それだけだ。


 要するに、ゴリ押しの筋肉バカだ。分厚い筋肉のおかげで、それなりの防御力はあるようだが、そのせいでこいつの攻撃は鈍重だ。


 戦闘開始と同時に鋭い角度に跳躍した俺を叩き斬るべく、階層主は右手に持つ斧を振り上げている。

 愚鈍な牛でも、真っ直ぐに向かう飛来物を狙いすませる程度の技量は持ち合わせているらしい。


 このままでは、階層主の斧は間違いなく俺を叩き斬ることに成功するだろう。

 階層主は、的確に俺に狙いを定めていた。


 そしてやはり、絶妙のタイミングでその斧は振り下ろされた。

 だが、あまりにも鈍重に感じるこいつの攻撃を、俺は体を捻り、寸での所で回避する。


 俺の間近で、重量物が振り下ろされた。

 床を抉る激しい振動と轟音。と同時に、俺の体に浴びせられる突風。

 その突風を半ば利用し、捻った体の勢いをそのままに、俺は牛鬼の鎧で護られていない所、つまりは首だ。その首に狙いを定め、回し蹴りを叩き込んだ。


 魔力を込めた回し蹴りは、確かな手応えを感じつつも、勢いを止める事なく振り抜かれる。


 まるで噴水のように、血飛沫が立ち上がる。

 僅かに離れた所に、ゴロリと転がる鉄兜。


 ――討伐完了だな。


 俺の回し蹴りは、牛鬼の首の肉を引き千切った。


 ドシリと、大きな音と僅かな振動を残しつつ、牛鬼の巨体が倒れ、塵となって消えていった。


 ……どうよ!? この鮮やかな戦闘。

 これのどこが"変態"なんだ?


 俺はドヤ顔をなんとか我慢しつつ、入場門の近くで今の戦いを見守っていた3人に振り向いた。


「さっすがロワ君だよー! 格好いい!」


 と、ユティは俺の期待を裏切らないリアクションだ。

 跳びはねながらはしゃいでいる様子が、とても可愛い。


 で、肝心のシズネとオトネの双子姉妹だが、


「「…………………………」」


 口を半開きにして固まっていた。


 なるほど、俺を変態呼ばわりしていた事を嘆いているのかも知れないな。


 間違いは、誰にでもあることだ。

 先輩冒険者として、俺は優しく許してやるさ。


 俺は腕を組み、何度も深く頷いていた。


 すると、ようやく双子が駆け寄ってきた。

 目を輝かせて子供丸出しの様子に、心が和む。


「す、凄い凄い凄い! 凄いよお兄さん! 凄いしグロい! ね! お姉ちゃん!」

「うん! 凄すぎるよ! まさか一撃で首チョンパなんて! 格好いい!」


 ……………。


 いちいち言動が危うい。この双子。


 だが、これで俺が変態ではないということは分かってもらえた筈だ。


「やっぱり噂は本当だったんだね。お兄さんが変態なんだ!」

「うん! 私達も、もっと強くならなくちゃね! 変態のお兄さんに追いつかないと!」


 ……駄目だ。

 どうあっても、この双子の中で俺は"変態"で確定してしまっているようだ。


 だが、この双子の俺を見る眼差しは、まさに尊敬の眼差しだ。

 "変態"はちょっとアレだが、可愛らしい2人を見ていると、『まぁいいか』と思ってしまう。(俺は変態ではない)


「ふふ。ロワ君すっかり懐かれちゃったね。"変態"でも良いんじゃない?」


 そこに、優しい微笑みを浮かべたユティがやって来た。


 ユティの言葉に、俺はただ苦笑いを浮かべつつ肩を竦ませるだけだった。


 ~


 何はともあれ、俺達は階層主を討伐した。

 19階層の次は20階層だ。


 20階層には"大広間"がある。

 そして、その大広間を出れば、広大な大地が広がり、"街"が発展している。


 おそらく、俺とユティは暫くはその20階層を拠点に、巨塔(アベル)の攻略を進めていくことになるだろう。


 そして勿論、20階層に大広間があるのなら。そこにも出現している筈だ。"紫"魔法陣が。

 もし、俺達も参加するのなら、今回は20階層の大広間から参加することになるだろう。

 転移が発動するまでに50階層まで上がれるかは、正直微妙なところだ。


 出来るだけ早く50階層まで駆け上がりたいと思っていたが、俺にとって"紫"魔法陣とは、それと同じくらいに重大な事なのだ。


「ほえ? すごーい! なにコレ!? でっかい魔法陣? これ」


 と、20階層の大広間へシズネ達と一緒に上がって来ると、やはり"紫"魔法陣はここにも出現している。

 それを見て、シズネとオトネが驚いていた。


 どうやら、知らなかったらしい。

 この2人は魔法陣が出現した時には既に巨塔内に潜っていたのだろう。


 俺は入念に、この"紫"魔法陣について説明してやった。


「ヤバいね! 超面白そうじゃん! 絶対私達も参加するよ! あ! 勿論ちゃんと武具は使うから安心してね!」


 ……俺の話を聴いて、流石に空間主相手に"縛りプレイ"は無理だと判断したようだ。


「じゃぁ私達は、街を見てくるよ! 親切にしてくれてありがとうね! 変態のお兄さん!」

「バイバーイ!」


「お、おう。またな……」


 余程この街を楽しみにしていたのだろうか?

 2人は物凄い勢いで大広間から出て行ってしまった。

 結局、最後まで俺の事を変態呼ばわりしていたが、不思議と悪い気がしないのが、少し怖い。


 しかも、あの2人とはまたどこかで会えそうな気もする。

 次に会う時には、変態呼ばわりはやめておいて欲しいものだ。


「ふぅ。それじゃ俺達も街へ出ようか。せめて長く滞在出来る宿は確保しておかないとな」


「うん。頼りにしてますよ? 変態のロワ君」


「……………」


「じょ、冗談だよ?」


 何故だろう。

 シズネとオトネに言われた時より、ユティに言われた時の方が、精神的にくる。



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