制限的攻略(縛りプレイ)
巨塔第19階層最奥の広間から退場してきた2人の少女。
この2人が階層主を倒せずに広間から退場してきたのは間違いないが、この表情と、この余裕を見る限り、ただ単純に"敗北"したという訳でも無いのだろうか。
……それに、さっきのこの子が言った"縛りプレイ"とはいったい。
「あれ? 違った? てっきりお兄さんも私達と同じかと思ったけど」
そう言って、俺に青い瞳を向けてくるのは、先程『お姉ちゃん』と呼ばれていた少女だ。
この2人、凄く似た顔立ちをしている。おそらく双子なのだろう。
髪の色も、揃って綺麗な桃色だ。ここまで同じだと、この2人の区別が付けられそうにないが、髪型がハッキリと違っていた。
「もう! オトネ! "武具"持ってないからって、勝手に決め付けちゃ駄目じゃん!」
「えぇ!? "縛りプレイ"? って訊いてたのお姉ちゃんじゃん!」
どうやら妹の方の名前は"オトネ"と言うらしい。
こうして少し見ているだけでも、この2人が物凄く仲良しだということが伝わってくる。
姉の方は、妹のオトネと違い、桃色の髪を肩まで伸ばしているが、妹のオトネは髪を短く切り揃えていた。
もし、髪型まで同じだと完全に同一人物にしか見えないな。この2人、それほどまでにそっくりだ。顔は勿論、身長や体格まで同じの、14歳くらいの少女達だ。
「ところで、その……"縛りプレイ"ってのはいったい何なんだ?」
107階層まで攻略を進めた俺ですら知らないその言葉に、俺は大変興味を惹かれた。
……訊かずには、いられなかった。
「え? あ、縛りプレイってのはね、私達だけで決めた言葉なんだ。この巨塔をね、敢えて制限を付けて攻略してるんだよ?」
……ん? よくわからないのだが。
「えっと、つまり……私達、適性武具を持ってるんだけど、敢えて素手でここまで攻略してきたんだ」
と、妹のオトネの言葉を補足するように姉が説明してくれた。
なるほど。敢えて武具を使わないという制限で自らを縛りつける。それで"縛りプレイ"か。
確かに、この双子の左手の甲には巨塔記録が刻まれているし、広間から退場してきたにも関わらず、この楽しそうな表情はそういう訳だったのか。
だが、どうしてそんな真似を?
と、訊いてみると。
「武具を使うと、魔物が弱すぎてさ! 弱過ぎて全然楽しくなくて、素手の方が危機感があって楽しいんだよ?」
なんとも頼もしい双子だな。
まぁ、他の冒険者がどんな攻略の仕方をしていても、俺には関係のないことだ。
広間が空いたのなら、俺達はさっさと進ませてもらおう。
「まぁ、あまり危険な真似はやめといた方がいいぞ? 死んでしまったら巨塔の攻略が楽しめなくなるからな」
と、それだけ言ってから、双子の横を通り抜けるように広間へ向かって歩き出したが。
――!?
ガシリと、力強く俺の左手首が掴まれた。
「やっぱり! お兄さん"巨塔記録"が無い! ほらお姉ちゃん! この人じゃない? "無印"で塔を上がる冒険者! 魔物を簡単に素手で千切っちゃうって噂の変態!」
……?
「え? 今なんて? なんて言ったの?」
多分聞き間違えだと思うが、念のため。そう、念のために俺はその場で足を止めて、俺の左手首をがっちり掴んだ妹のオトネに向かって問い掛けたが、答えてくれたのは姉だった。
「あ! 本当だ! お兄さんが今下層の冒険者達の間で噂になってる"あの"素手で魔物を千切っちゃう変態なの?」
……………。
聞き間違えでは無かったらしい。
「……いや、人違いだよ」
しっかりとそう答えておいた。
俺は変態ではない。
ユティが『あちゃー』といった表情で額を押さえているのが視界に入るが、俺は変態ではない。
「嘘! 無印で塔を上がろうとする人なんて、滅多にいないもん! 絶対お兄さんがそうだよ! その変態だよ!」
妹のオトネが、俺の左手首を掴む手に力を込めてくる。
赤い瞳を俺に向けていた。
どうやら、姉と妹で瞳の色が違うようだが、今はそんな事どうでもいい。
「私達、その変態に憧れて"縛りプレイ"してたんだよ? お兄さんがその変態なんでしょ!?」
その言い方はどうなんだ? 可愛らしい少女が変態に憧れては駄目だろ。
……まぁ、誰に憧れようが個人の自由だが、俺が変態と思われているこの現状は、どうにかしなければな。
「よ、よし。そこまで俺の事をその変態呼ばわりするのなら、実際にその目で確かめてみればいい」
「「――!? と、と言うと?」」
双子が、期待の眼差しを俺に向けてくる。
本当に可愛いな、この2人。
緩みそうになり顔の筋肉を、グッと堪えつつ、出来るだけ格好いい表情を作りながら言ってやる。
「ふっ。協力だよ」
~
「私はシズネだよ。こっちは妹のオトネ」
「「よろしく」」
双子が可愛らしい仕草で、ペコリと頭を下げた。
色々と危うい言動を繰り返していた少女達だったが、しっかりと礼儀は弁えているらしい。
「俺はロワ……ロワ・ミッケルだ。こっちはユティ」
「よ、よろしくね?」
一応俺の本名は伏せておく。
ユティも、さっきまでの双子の勢いに若干引いているのか、少し苦笑いだ。
とにかく、俺達はまた、階層主を討伐するためだけの"協力"を行うことにした。
俺は変態ではない。
それを証明するために、この双子には実際に俺達の戦いを見せておく必要があると思ったからだ。
"変態"などという不名誉は、払拭しなければならない。
そのために、今回の階層主は、"協力"を組んではいるが……俺一人で倒す。それも、瞬殺で、圧倒的な強さを見せ付けてやろう。
「じゃぁ、広間に"入場"するぞ?」
内心でほくそ笑みながら、問い掛ける。
3人が頷いたのを確認してから、俺は広間の門を押し開く。
広間に足を踏み入れ少し歩くと、ソコには階層主が悠然と待ち構えていた。
広間に全員が足を踏み入れた時点で、戦闘は始まっている。
その合図が、門の閉まる音。
しっかりとその音は、俺の耳に届いた。
俺は、足と腕に魔力を纏わせ、階層主の姿を確認するや否や、グッと足に力を込めて勢いよく床を蹴り、階層主目掛けて跳躍した。
先手必勝。
一撃で終わらせる。
19階層程度の階層主、俺達からしてみれば、そこら辺の魔物と大差ない。




