酔狂的双子(カワリモノ)
ユティの父親とも挨拶を済ませた俺達は、真っ直ぐ巨塔へ向かった。
向かう途中、街の様子が少し騒がしく感じたのは、やはり"紫"魔法陣が大広間に出現したからだろう。
勿論、その魔法陣のことを知らない冒険者も1階層には多いだろうが、元冒険者や、"紫"魔法陣について知っている冒険者達が騒ぎ出し、街はこれから祭でも始まりそうな雰囲気に包まれている。
……祭と言っても、命がけの祭だが。
おそらく、20階層と50階層も似たような雰囲気になっているのだろうな。
"超弩級空間主"。もし討伐できたのなら、いったい何が起こるのか、誰も知らない。
ただ、ある"噂"が、冒険者の間で流れている。
それは、"武具"の確定入手だ。
階層主は討伐されて塵となって消える時、極々稀に"武具"を残していくことがある。それは"希少戦利品"と言われているが、ソレを『超弩級空間主は確定で残す』と噂されている。
誰が流した噂かは知らないが、まだ一度も討伐できていないのに、そんな噂を信じる者が多い。
階層主が残していく武具は強力な物が多い。ならばその空間主が残す武具は……いったいどんな代物なのか。仮に自身の適性ではなくとも、手に入れたいと思う冒険者が多いのだろう。
後は、単純に強力な敵を倒したい。そう思っている冒険者が大半だ。
勿論、俺もその内の一人なんだが……。
「わぁ……綺麗」
大広間に入るなり、俺達の視界に飛び込んできた光景は、淡く紫色の耀きに包まれた大広間だった。
ユティがそう感動するのも分かる。それほどに幻想的な光だ。
大広間の床一面に、巨大な魔法陣が出現し、僅かな輝きを放っている。
……輝きから察するに、やはりコレが出現したのは今日みたいだ。
少しずつこの紫色の輝きは強くなり、転移が発動する頃は、大広間全体が眩い紫の光で溢れる程になる筈だ。
どうやら、しばらくの時間はありそうだ。
辺りを見回してみる。
やはり多くの冒険者が紫魔法陣を確認しに来ているようだ。
魔法陣の光の確認だけをして、街へ戻っていく者や、『転移までに少しでも力をつけよう』と意気込んで巨塔を上がっていく者。パーティーの勧誘を行う者など、皆、準備で忙しい様子。
……無意味だ。
今さら準備した所で、何かが変わるような相手ではない。
結局、討伐を成功させるには50階層大広間からの参加者、つまりは"上層組"がどれだけ参加するか、なのだが……正直、あまり期待は出来ない。
"上層組"は知っているからだ。空間主の強さを。
勝ち目の無い戦いに参加するより、巨塔の攻略を進める方が賢明。そう思う冒険者が多く、"上層組"の参加者は多くはないだろう。
だが、俺の考えは違う。
空間主の討伐も、巨塔の攻略の内だ。
滅多に出現しない紫魔法陣。コレに参加しないなどという選択肢は……俺にはない。
……などと強がってみるが、今の俺は"適性武具"が無いんだよな。
「……転移が発動するまで、かなりの猶予がある。それまでは階層を進めておこうか」
「え? うん。そだね」
大きなため息を吐きながら言う俺に、ユティが首を傾げていた。
大広間の片隅に並ぶ"白"魔法陣。
"紫"魔法陣の範囲外にあるソレに、俺とユティは足を踏み入れる。
白い光が俺達を包み、最後に乗った白魔法陣の所へと転移させる。
~
巨塔第11階層。
薄暗い、不気味な雰囲気を放つ洞窟が続く階層だ。
見た目では、とてもここが巨塔の中とは思えない。
だが、更に上層では、まるで"外"のような階層も存在する。この程度で驚いていたら、後が大変だぞ?
と思いつつ、ユティの様子を窺う。
「きゃっ! 急に止まらないで……」
相変わらず、俺の背中で小さくなっていた。
巨塔の構造に驚いてると言うよりも、ただ単に、この薄気味悪い雰囲気にビビってるらしい。
まぁユティのことは気にせず、進もう。
まだ11階層だし、魔物や魔獣の数も多くはない。それに弱い。
ただ、歩きづらいんだよね。
ユティがガッツリ俺の腕に絡みついてやがる。
……足下にだけ、注意して進もう。
~
たまに出会う悪鬼や、狼の魔獣や小さな鬼を倒しながら、階層を進む。
たまに出てくる虫の魔物に、ユティは腰を抜かしていたが、それでもなんとか(?)俺達は階層主の待つ広間の前までやって来れた。
だが、
「門、開かないね」
19階層、最奥の広間前にたどり着いた。
この門を潜れば、階層主のいる広間なのだが、固く閉ざされて開きそうもない。
これはつまり。
「誰かが中で階層主と戦ってるんだよ」
既に先客がいる。
別の冒険者が階層主と戦っている場合は、その広間には立ち入ることが出来ない。
この中の冒険者が無事、階層主を倒し広間から出て行けば、この門は開けることが出来るようになる。そして何故か、広間には階層主が再び待ち受けている。
……とにかく、しばらく待つしかない。
そう思い、適当な所で腰を下ろそうと思ったのだが。
目の前の門が、開け放たれた。
「いやー、ヤバかったねお姉ちゃん! 流石に今のはヤバかったよね!」
「あははは! やっぱり武具無しで階層主はキツいかぁ」
広間から、2人の冒険者が意気揚々と"退場"してきた。
開いた門の隙間から、確かに階層主の姿が覗き見えた。
階層主が立っているにも関わらず、広間から出るという事は、つまりは"退場"。敗北だ。
だが、この2人の冒険者の様子は、とても敗北した冒険者のソレでは無かった。
「あれ? お兄さん達もこの階層主に挑戦?」
「……ん? あっ! お姉ちゃん、この人の左手! 見て!」
俺達に気付いた2人の少女が、気さくな様子で話し掛けてくる。
そして、その内の1人が俺の左手を指差して、興味深そうに言葉を続けてきた。
「もしかして、お兄さんも"縛りプレイ"?」
聞き慣れない少女の言葉に、俺とユティは首を傾げるしかなかった。
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