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前兆的紫色(カウントダウン)

 

 巨塔(アベル)第50階層。

 冒険者の間でひとつの"基準"とされている階層が、この50階層だ。


 巨塔の階層の中には稀に、魔物や魔獣が一切出現せず、さらにはとてつもなく広大な大地のような階層が存在する。

 それがこの50階層や、20階層であった。

 そして、その広大な大地に、"元"冒険者や現冒険者達が、巨塔攻略の手助けや、拠点として活用するため、はたまた娯楽などのために発展した街の一つが、この50階層、"空中街(スカイアベル)"である。


 基本的に、この50階層より上の階層は"上層"と呼ばれ、その上層の攻略を進める冒険者達は、この空中街を拠点として巨塔の攻略を行っている。

 そのため、空中街にいる冒険者の実力は高く、一般的に彼等のことは"上層組"と呼ばれている。


 そんな数多くの冒険者が存在する第50階層、その大広間に今、ある冒険者パーティーが転移魔法陣によって帰還した。


 大広間の片隅に耀く、白い魔法陣の上に出現した4人の冒険者達。


 ――おぉ!


 1階層の大広間程に、この大広間を行き交う冒険者は多くは無いが、それでも数多くの冒険者達がこの大広間には存在していた。

 これから巨塔の上層の攻略を進める冒険者や、空中街へ戻ってきた冒険者、または他の冒険者と情報交換を行う冒険者など、大広間には自然と数多くの冒険者達が集まる。


 そんな中で、帰還した4人の冒険者を視界に捉えた者が、息を呑み、感銘の声を上げるのが相次いで聞こえてくる。


 それだけ、今帰還した冒険者達は有名であり、また実力が認められている証だ。

 尊敬、嫉妬、羨望。そんな様々な感情の込められた視線が、その4人の冒険者達に集まっていた。


 そのパーティーのリーダーは、金色の大剣を背に掲げる"勇者"。

 また、もう一人の男は背中に灰色の槍を背負う、大群相手に無類の強さを誇る"無双者"。


 そして、彼等の隣に佇む2人の女性。

 茶色髪の、どこか可愛げのある印象の女性は、治癒、補助、防御を完璧にこなす、このパーティーの生命線とも言える"賢者"。

 さらに、黒髪を靡かせる絶世の美女。

 どこかキツイ印象のその女性は、全冒険者中、最大火力との呼び声高い"魔女"。


 彼等こそ、今最も巨塔の攻略を進めている冒険者達、勇者パーティーだ。

 全冒険者の代表であり、彼等を知らない冒険者など、最早この世界には存在しないだろう。


 しかし、今となってはその名声にも陰りが生じていた……。


「……? なんだよ、まだ110階層か。こないだは109階層だったよな。随分ごゆっくりな攻略速度になったもんだ」


 勇者パーティーの左手に刻まれている数字を見た冒険者が、そう声を溢す。


「やっぱ"王者"の抜けた穴は、デカかったんじゃねーか?」

「"王者ロワ"、死んだって噂だろ?」


 と、どこからともなく声が聞こえてくる。


 事実、ロワが抜けてからというもの、勇者パーティーの巨塔を攻略する速度は著しく低下していた。

 当然、いつも5人パーティーだった彼等が4人になった時、冒険者達の間では大騒ぎとなり、『勇者パーティーから死人が出た』などという噂は瞬く間に空中街に広まっていった。


「チッ! やってらんねぇよ! 行こうぜリウス」

「あ、あぁ」


 話声の聞こえる方をキツく睨み付けてから、ケイルが大広間の外へ向けて歩き出す。

 その後を追うように、勇者であるリウスが続くが、すぐに立ち止まり振り返る。


「ミルシェ? 行かないのか?」


「え、ええ。行きましょう」


 少し思い詰めた様子のミルシェだったが、リウスに呼び掛けられてようやく歩き出した。


(死んでない。ロワは絶対に死んでない。例え本当に大穴へ落ちたとしても、あのロワが死ぬ筈ないんだから)


 怒りの宿るキツい眼差しを、リウスとケイルの背中に向けるミルシェ。

 隣を歩くフィリアだけが、そのミルシェの怒りを僅かに感じ取っていたが、気付かぬフリをして並んで歩き出していた。


「うぉっ! これは!」

「おぉっ!」


 まさにその時、大広間にいた冒険者達が次々と驚きの声を上げた。


(――!! これは……)


 同じく大広間にいた勇者パーティーも、他の冒険者同様に驚き、すぐにその原因である、大広間の異変に気がついた。


 全ての冒険者が、自分の足下に視線を向ける。


 彼等が見つめているのは"床"ではなく、その床に出現した魔法陣だ。


 広大な大広間全体に広がる、1つの巨大な"紫"色の魔法陣。

 だが、その輝きは弱く、その上に立つ勇者パーティーを含む全ての冒険者達に対して、なんの効果も発揮していない。


(……大規模転移魔法陣! これなら、もしかしたらロワに会えるかも)


 その、今は"まだ"輝きを放たない巨大な魔法陣を見て、ミルシェは1人、決意を固めていた。


 ~~~


「それじゃお父さん、行ってくるよ」


「ああ! 気をつけてな! いつでも帰ってくるんだぞ?」


 ユティが店主(父親)に向かって軽く手を振りながら、元気に声を出したのを、俺は隣で聞いていた。


 11階層から帰って来て、少し休むだけのつもりが、丸1日以上休んでしまった……。

 だが構わない。

 何故なら、俺はユティとパーティーを組んだ。これの意味する所は、2人で巨塔を攻略するという事だ。

 ひとまず俺達が目指すのは50階層だが、最終目的は巨塔の最上層。つまりは巨塔の攻略。『命がけ』だ。

 ならば、急いで出発するよりも、ゆっくり体を休めることの方が重要だ。


「じゃあな、ロワの兄ちゃんも、ユティのこと……よろしく頼むぜ?」


 ニカッと笑いながら親指を立てる店主に、俺も親指を立てながら頷き応えた。


 ……よし、これからが本番だ。ユティとなら、あっという間に50階層まで到達出来そうだ。


「じゃぁ、また。行ってくるよ」


 そう言って、店主に背を向けようとしたのだが、


「"紫"魔法陣だ! 大広間に、"紫"魔法陣が出現したぞー!」


 ――!!


 突如、そんな叫び声が、どこからともなく聞こえてきた。


「"紫"魔法陣?」


 ユティが首を傾げながら声を漏らしていた。


「……兄ちゃん。どうするんだ?」


 店主が俺に尋ねてくる。

 その表情は、さっきまでの気楽な物とは違い、真剣な物だ。


 "紫"魔法陣とは、"大規模転移魔法陣"のことだ。


 その"紫"魔法陣も、"赤"魔法陣と同様に、巨塔内で突如、何の前触れもなく出現するが、"赤"魔法陣と決定的に違う特徴がある。


 その1つが、まず出現頻度だ、"紫"魔法陣はその頻度が圧倒的に低い。さっきの話が本当なら、俺の知る限り今回で3度目になる。


 次に、出現する場所だ。その場所は"大広間"に固定されているらしい。そして同時。1階層、20階層、50階層の大広間に同時に出現する。

 更に、この魔法陣は出現してもすぐに転移は発動しない。転移が発動するまでにかなりの猶予がある。故に、この魔法陣を使って"転移"するかどうかは各冒険者の自由。

 ちなみに、転移がいつ発動するかは、その魔法陣の輝きを見ればだいたい分かる。徐々に輝きが強くなっていくからだ。


 そして、3つの大広間の紫魔法陣の上に立つ冒険者は、1つの同じ空間に転移させられる。

 そこに待ち受ける圧倒的な存在を、全員で討伐するために。

 それが"超弩級空間主(レイドエネミー)"。


 その強さは、ハッキリ言って規格外だ。

 だが、"異階層"とは違い、倒さなければ帰れないという訳ではなく、一定時間を経過すると帰ってこられる。

 それでもかなりの冒険者が、過去2回で死んでいる。


 ……ちなみに過去2回とも、空間主の討伐は果たせていない。


 と、"紫"魔法陣のことを何も知らないユティに、俺はしっかり説明してやった。


「そ、それはまた……とんでもない魔法陣だね」


 そう、本当にとんでもない魔法陣だ。


 おそらく今回も、数多くの冒険者達がソレに参加するだろうが、果たして討伐できるだろうか。


 いや、今回はユティがいる。

 もしかしたら……。


「まぁ、"紫"魔法陣が出現したのは今日みたいだし、まだ時間はあるだろ。ゆっくり考えるよ」


「そうか。まぁ、好きにしな。ユティも冒険者になったんだ。俺がどうこう言うことじゃねぇ。お前達2人で話し合って決めりゃいいさ」


 そう言う店主に、俺達はもう一度手を振って、今度こそ歩き出した。



とは言ったものの、この"紫"魔法陣が発動するのは、もう少し物語が進行してからになります。



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