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欠落的一行(勇者パーティー)

 

 巨塔(アベル)の最上層を目指す、数多の冒険者達。その冒険者達の中でも絶対的な力とカリスマを有し、全ての冒険者達の頂点に君臨し、誰も到達したことの無い階層の攻略を進める冒険者達がいる。


 巨塔、第110階層最奥の広間。

 その広間にて今まさに"階層主(フロアエネミー)"と激戦を繰り広げている冒険者パーティーだ。


「ケイル! 右から狙え!」


 広間の左側面を駆けながら、仲間の男に声を飛ばすのは、このパーティーのリーダーである、"勇者リウス"であった。


 その声を聞いたケイルは、即座に意図を察知して、右手に握る"一騎当千の槍"を巧みに回転させながら階層主目掛けて駆け出していた。


 階層主の左右からの同時攻撃。

 彼等はそれを狙い、目にも止まらぬ速さで階層主へと迫っていく。


 リウスは、自身の持つ武具の間合いの遥か手前で、一気に階層主との距離を詰めるべく、鋭い角度に跳躍する。

 体を捻り、回転させ、遠心力を自身の適性武具である大剣に乗せて、階層主へと振り抜いた。

 圧倒的な攻撃力に、遠心力を重ねたその斬撃は確実に階層主を捉えている。


 そのリウスの攻撃とほぼ同時に、対称的な進行方向を描きながら駆けていたケイルも、右手に持つ槍に自身の魔力を注ぎ込み、爆発的な推進力を発生させて階層主を貫くべく、"突き"を繰り出す。


 両者の必殺的な一撃は、確かに階層主を捉え……命中した。


 広間全体に轟音が鳴り響き、激しい衝撃が広間を襲う。


「――!? クッソ化け物がぁあ!」


 堪らずケイルが声を荒げていた。


 階層主が健在だったからだ。


 大人の冒険者よりも一回り程大きい人型の魔物。

 黒光りする全身鎧に身を包み、右手と左手にはそれぞれ身の丈程はありそうな大剣が握られている。

 その大剣が、リウスとケイルの攻撃を容易く受け止めていた。


 全身が鎧の姿、だが顔がある筈のソコには……何もない。

 あるのは鎧の中から時おり覗き見える青い炎。


 "魔界鎧・デュラハン"

 第110階層、階層主の"1体"だ。


「――! ケイル! 一旦下がれ!」


 このまま追撃を叩き込もうかと思案していたリウスだったが、不穏な空気を察知して、退避をケイルに促す。


 ……果たして、その判断は適切だった。


 リウスの言葉に即座に反応したケイルは、その場から飛び退く。

 同時にリウスも、やはりその場から飛び退いていた。


 その刹那。ほんの一瞬後に、デュラハンの周りに数多の雷撃が、頭上から打ち付けられた。


 正に、先程までリウスとケイルが立っていた場所を狙い打ちしているかのように、激しく太い雷撃が轟音と共に降り注いでいた。


 その雷撃の中、デュラハンの元へと歩み寄る存在がある。


 獰猛な嘶き声と共に、リウス達を睨み付ける青い眼孔。

 額には逞しく太い、雷撃を纏う一本の角。

 すらりと伸びる、美しくも逞しい首には綺麗な縦髪が風に靡き、背中まで続き、神秘的な雰囲気すらも感じさせる"魔獣"。


 もう1体の階層主"一角雷獣・ユニコーン"であった。


 ユニコーンによって発生した雷撃の嵐は、やがてデュラハンの2本の大剣へと収束していく。


 数多の雷撃を受け止め、吸収したデュラハンの大剣は、おびただしい程の魔力を纏い、眩しく発光を始めていた。溢れる魔力が雷となり、外に溢れ落ちる程だ。


 やがて、デュラハンは腰を低く落とし、両手の大剣を上段に構える。


 デュラハンの意図に感づいたリウスが、咄嗟に仲間に指示を出した。


「フィリア! 全力で魔力障壁を展開してくれ!」


「――! う、うん!」


 リウスの言葉を聞き、そう返事をするのと同時に、勇者パーティーの一人であるフィリアが、自身の適性武具である"賢者の錫杖"に魔力を注ぎ、魔法を発動させた。


 勇者パーティーの前面に、フィリアの魔力によって生み出された光の壁が出現していた。

 これまで、どんな強力な階層主の攻撃も防いできた勇者パーティー自慢の防御だった。


 だが、そんな魔力障壁など気にしていないのか、はたまた気づいてすらいないのか……デュラハンはお構い無しに大剣を振るった。


 デュラハンの振るった大剣から、眩い光を放つ波動が迸り、激しい雷撃を纏いながら、勇者パーティーへと直進していく。


 広間の床を抉りながら、空気を焼きながら突き進む斬撃が、フィリアの魔力障壁に激突した。


 轟音と閃光が広間を支配していく中、だった一人、絶望に顔を歪ませながら呟く女性がいた。


「……そんな、私の障壁が」


 フィリアが、自身の魔力で生み出した障壁が砕かれるのを感じ取っていた。


 障壁を砕いて尚、デュラハンの斬撃は勢いを弱めることなく、勇者パーティーへと迫る。

 初めての光景に目を見開くリウス達に、その斬撃は一切の容赦なく襲い掛かった。


 前方からの激しい衝撃と、雷撃を纏う斬撃を全身に浴びた勇者パーティーは、広間の後方、入場門まで吹き飛ばされた。


「う……ぐ、くそ」

「あり得ねえ……」

「はぁ……はぁ」

「……そんな、なんで」


 相当な痛手を負い、戦闘続行は不可能と判断したリウスが、決断を下す。


「て、撤退だ。広間から、退場する……」

「――!? く、くっそぉお!」


 初めての敗北。

 その悔しさに、ケイルが床に拳を叩きつけるが、反対意見などある筈もない。

 ケイル自身、これ以上戦闘を続ければ死者が出かねないと理解していた。


 やむなく、勇者パーティーは入ってきた時と同じ方向の門を押し開き、広間から……退場した。


 ~


「ちくしょうが! どうなってんだよ!? 106階層の階層主と比べ物にならねぇ程の化け物じゃねえか!」


 110階層最奥の広間の入場門の前で休んでいる中、ケイルが苛立ちを隠さずに言い放つ。


 そんなケイルに、舌打ちをしてから冷たく声を掛ける女性。


「馬鹿じゃないの? ロワがいないからに決まってるでしょ? 階層主がそんな急に強くなる訳ないじゃない。私達が弱くなってるのよ。いいえ、正しくは"元の強さ"に戻っただけよ」


 美しい声色でどこまでも冷たくそう言うのは、全冒険者の中で、最大火力と言われている"魔女"ミルシェだ。


「あ? ロワの"適能"は確かに俺達全員の、全能力を底上げしていた。けどな、その上昇(バフ)効果は大した量じゃない。これはロワ本人が言っていたことだろ?」


 ミルシェを睨み付けながら、ケイルが言う。

 それに対して、ミルシェがあからさまに呆れた素振りを見せて、馬鹿にしたように笑った。


「本当にアンタって馬鹿。"ロワにとっては"大した量じゃないってことよ。それだけ私達はロワにおんぶにだっこで、この階層まで上がって来れたってことよ。今まで気付いてなかったの?」


「「……………………」」


 ミルシェの言葉に、リウスとケイルが絶句していた。

 今まで、ロワがいたことで容易くこの階層まで上がって来れただけに、自身の本当の実力を分かっていなかったのだ。


「とにかく、決定的に攻撃力不足なのよ今の私達は。これ以上階層を進めるのは無理よ。せめて、ロワの代わりになる仲間を探す必要があるわ。50階層(スカイアベル)に戻りましょう」


 そう言って、意見も求めずに、進んできた道を引き返すミルシェ。

 その後を追うように、フィリアが小走りでついていく。

 途中ミルシェが「ま、ロワの代わりになるような奴なんて、いないけどね……」と呟いていたのは、フィリアだけが耳にしていた。


(私は信じない。あのロワが大穴に足を踏み外して落ちたなんて……あるわけない。あの片時も手離さなかった"武具"だって、どうしてその時に限って持っていなかったのよ。あり得ない)


 ただ、前を見据えるミルシェの瞳には、明確な"怒り"が宿っていた。



暇潰しに丁度良い、と思ったらブックマーク。

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