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一時的帰還01

 

「ちょ、ちょっとアンタ達! ま、待ってくれ! 少し話を――」


 冒険者達が慌てて俺達を呼び止めようとしていたが、聞こえないふりをしながら階段を上がることにした。

 ……あまり詮索されるのは好きじゃない。ましてや、1度にあんな大勢に質問攻めにされるのは後免だ。


「ロワ君いいの? あの人達呼んでるよ?」


「いいんだよ」


 チラチラと後ろを気にするユティにそう声を掛けつつ、俺は11階層へ進む。


 11階層に踏み入ると、先程までの石造りの迷宮のような雰囲気とは一変して、薄暗い洞窟が広がっていた。

 迷宮と言う程には複雑な構造にはなっていなかった筈だと、目の前に広がる不気味な光景を見て思い出した。


 とは言ったものの、今回は攻略が目的ではない。

 1階層へと戻るための転移魔法陣を見つけたい、


 ……と、歩き出そうと思ったのだが。


「ロワ君、これじゃないの? 白い魔法陣」


 チョイチョイ、と。俺の服の袖を引っ張りながらユティが言っていた。


 ユティが言う方に目を向けると……確かにあった。

 白い魔法陣だ。紛れもなく9階層で俺達が散々探し回った魔法陣が、上がってきた階段のすぐ近くで輝いていた。


 あれほど探し回っても見つからなかった魔法陣が、階層を変えるとすぐに見つかる。なんて事はこの巨塔(アベル)ではよくあることだ。


 そういったこともユティに説明しつつ、俺達はその転移魔法陣の上に意気揚々と乗り込んだ。

 対象を認識した魔法陣が、白い輝きを放ち、薄暗い洞窟の一角が眩しい光に包まれる。

 視界がグニャリと歪み、瞬く間に景色が移り変わっていった。


 そして程なくして、俺達が立っていた場所は一階層(大広間)の片隅に幾つか並ぶ魔法陣の上に変わっていた。


「……おぉ! 帰ってきたんだ!」


 大広間を見回しながら、ユティが感動した声を上げる。


「……おぉ! 左手の数字も変わってない!」


 と、そのまま左手を目の前に掲げて、数字を確認するユティ。

 そこには今も変わらずに、11という数字が輝いている。


 その数字は最高到達階層を表す数字なのだから、変わらないのは当たり前だろと、俺は笑いながら呆れる。


 とにかく、ユティの父親が心配しているかも知れない、早く武具屋に戻ろう。

 そう思い、ユティを連れて歩き出した。


 巨塔の外に出ると、空は薄暗く、東の空がうっすらと白み出していた。

 どうやら明け方まで俺達は巨塔に入っていたようだ。

 そう思うと、急に眠気が襲ってきた。隣を歩くユティも同様らしく、時たまボーっとなりよろけそうになっていた。


 ……帰ったらまずは、一休みさせる必要があるな。


 ユティを送ってから、俺は宿でも探そうか。


 眠そうなユティを見てそんな事を考えながら、俺達はユティの家である武具屋を目指して歩いた。


 ~


「……………な、なななな、なんだよ! このとんでもねぇ武具はぁ!!?」


 翌日、というかその日の午後。


 ユティの適性武具である"女神の長剣"を見て、店主(ユティの父親)がひっくり返る勢いで驚いていた。


 無理もないな。確かにこの武具はとんでもない代物だ。


 ちなみに、ユティの提案により、俺はこの家に泊まらせてもらった。

 余っている部屋が無かったために、ユティと同じ部屋で寝たが、勿論床に寝袋を敷いて寝た。


 で、午後に目を覚まし、今は店主に巨塔での出来事の説明をしているところだ。


「これが……ユティの適性武具だと」


 おっかなびっくり顔を震わせながら、店主がユティへと視線を向ける。


「ふっふーん」


 と、得意気な表情でユティが左手の甲を店主へと向けた。

 当然、その手には"巨塔記録(アベルレコード)"が刻まれている。


「で、この武具は兄ちゃんが106階層で見つけた物で、兄ちゃんがあの、勇者パーティーの一人の"王者のロワ"だって?」


 少し遠慮ぎみに、俺は頷いた。


「……とても信じられねぇが、こんな恐ろしい武具を見せ付けられちゃ、信じざるを得ねぇか」


 軽く頭を振りながら、店主がため息を吐いた。


「なるほど、兄ちゃんがあの時100万ベルなんて大金をポンと出せたのはそういう理由か。100層到達者なら、金なんていくらでもあるわな」


 まぁそういうことだ。

 巨塔内の魔物の落とす素材や武具なんかは、売ればお金になる。

 100層まで上がれば、それなりに珍しい物も手に入ったりした訳だ。当然、必要無いものは売る。自然とお金は貯まる。


「で? その全冒険者の頂点に君臨する勇者パーティーの一人である、"王者のロワ"と呼ばれるまでになった冒険者の兄ちゃんが、どうして1階層の前で野垂れ死にそうになってたんだ? しかも、"適性武具"まで失っちまってるようだしな」


 店主が表情を厳しくして問いかける。

 当然、そのことについて気にしていたユティも、興味津々と言った表情で俺を見つめている。


 ……ま、いずれユティには全て説明するつもりだった。

 その父親であるこの店主にも話しておくべきだろう。何より、ユティとこの父親には世話になった。


「実は……」


 俺は包み隠さず全てを話した。

 106階層の階層主が残した希少戦利品がその"女神の長剣"ということ。

 そこから進んだ先の107階層で……仲間に裏切られ、適性武具を奪われた挙げ句に大穴へ突き落とされたことを。


「「…………………………」」


 俺の話を聞き終えた二人は言葉を失っていた。

 が、すぐにユティが声を荒く上げる。


「ひ………ひどい!! ひどすぎるよ! そんなの仲間じゃないよ! 冒険者でもない!」


「あぁ。もうアイツらのことを俺は仲間なんて思っていない。そして、必ず俺は奴等から適性武具を取り返す。そのためにも、出来るだけ早く50階層へ上がりたいんだ」


「なるほどな。それでオメェは適性武具も無しに巨塔を上がろうとしていた訳だな」


 店主が納得したように頷いていた。


「お父さん。 私も冒険者になったんだから、巨塔を上りたい。ロワ君と一緒に巨塔を上がるよ!」


 唐突なユティの宣言だったが、店主は特に驚いた様子はない。

 そもそも冒険者とは巨塔を上がる者だし、ユティは常日頃から冒険者になりたいと言っていたらしい。店主としてはユティがこう言い出すのは予想していたことなのだろう。


 そしてユティは、俺の適性武具を取り返す手伝いをしたいと、そう言っているのだ。


「そうだな。その"女神の長剣"は兄ちゃんが持っていた物だし、とても金で買える代物でもない。ユティを冒険者にしてくれた兄ちゃんには感謝しかねぇが……兄ちゃんはいったい、どこまで巨塔を上がるつもりしてるんだ?」


 店主の力強い眼差しが俺に突き刺さる。

 まるで、俺の覚悟を確かめているかの様な目だ。

 だが俺は、この店主の質問に対する答を持ち合わせている。


「まずは、適性武具を取り返す。そして俺は勿論」


 店主のその目よりさらに力強い眼差しを突き付け返しながら、俺は言った。


「最上層。巨塔(アベル)の最上層に誰よりも早く、俺が到達する。その俺のパーティーに、ユティを加えさせてくれ」


 そもそもユティが"女神"の適性を持っていたのを知った時点で、俺はユティの面倒を見るつもりだった。

 どのみちユティは巨塔を上る。とんでもない"武具"を渡してしまった責任として、ユティの面倒は俺が最後まで見るつもりだ。そう、本当に最後まで。


「……ユティを、俺にくれ!」


 と、思わず口を突いて出た。

 だが、別に間違っていない気もしたために、特に訂正することはしなかった。


「え゛ぇ!?」


 店主が妙な声を上げる。


「ちょ! ロワ君!? …………あの、はい。よろしくお願いします」


 ユティは一瞬驚くが、すぐに顔を赤らめながらも、丁寧にお辞儀までして了承してくれた。

 本人が良いと言ってくれたのなら、大丈夫……だと思ったが、店主が白目をむいていた。



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