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協力的攻略(マルチ)

 

 階層主の広間へ続く門の前にたむろしている冒険者達は、全部で10人だった。


 ……低層を攻略している今の冒険者達は、10層程度の階層主すらも、協力しないと攻略出来ないのかと内心で呆れた。


 階層主のいる広間は、基本的に出入りは自由だ。つまり、負けそうになれば逃げるということも出来る。

 当然、再挑戦する時は階層主の体力は全快しているし、仲間が戦闘中の時に自分だけ広間から逃げ出した場合は、広間での戦闘が終わるまで再入場することは出来ない。


 とは言え、階層主との戦闘で命を落とす冒険者が多いのは事実だ。


『巨塔攻略は命がけ』


 それはどの階層にいても変わらない。

 それに、俺だってさっき死にかけたのだから、この冒険者達に対して何かを思うのも、馬鹿な話だな。


「お前達は2人パーティーか? なら良かったら階層主を攻略するための協力(マルチ)パーティーを組まないか? 12人なら、この階層の攻略はより確実なものになる」


 やって来た俺達に対してそう声を掛けてくる一人の冒険者。

 見たところ、この10人をまとめているのがこの冒険者のようだが……。


「待てよ。後ろの嬢ちゃんは冒険者で間違いねぇが、コイツは"無印"だせ? 足手まといだろ? 俺達はコイツを"協力(マルチ)"に加えるのは後免だね」

「私達もソイツに同意見ね。階層主との戦闘中に下手に動き回られても迷惑だわ」


 なるほど、この10人の冒険者達は3つのパーティーが集まった物らしい。

 男4人のパーティーと男3人のパーティー。それに女3人のパーティーという構図だ。


 ……面倒くさいな。

 さっさとユティと2人で階層主の広間に入ってしまおうか? と思い無視して進もうとしたが、


「ちょっと貴方達! ロワ君はね、貴方達よりも強いんですから! 勝手な事を言わないで下さいよ!」


「……………」


 後ろのユティが怒りを露にして声を上げた。


 それを聞いていた冒険者達がキョトンとした表情を浮かべるが、すぐに


「ぶはっ! いやいや! "無印"だろ? 馬鹿にするつもりはねぇが、冒険者よりも強いなんてことはねぇよ!」

「確かに、この階層まで上がって来れたのは凄いかも知れないが、嬢ちゃんが護ってやってたんだろ?」

「悪い事は言わねぇから、もうやめとけ。階層主は流石に倒せねえよ"無印"じゃ」


 爆笑が辺りを包み込む。

 まぁ、彼等の言っている事は概ね正しい。

 "無印"とは適性武具を持たない証拠でもある。つまり決定的に攻撃力が不足しているのだ。冒険者と比べると、その戦力差は圧倒的。とも言える。


「~~~! ロワ君はね! 無印でも強いんです! なんてったって"あの"ロワ・クロ――むぎゅ!」


 顔を赤面させるユティが、さらに怒り出し、俺のフルネームを口にしようとしていた。慌てて俺はユティの口を塞ぐ。


「しーっ! ユティ! 俺の事はあまり知られたくない。出来るだけ黙っておいてくれ」


 ユティに顔を寄せて、小声でそう注意する。

 俺の迫力に、ユティは目を白黒させながらも何度も頷いていた。


 正直、俺が"ロワ・クローネ"だと信じてもらえるかがまず怪しい。証拠も無い。信じてもらえなければ、また馬鹿にされるだけだ。そうなると、またユティが怒ってしまうだろう。

 それに、仮に信じてもらえた時が正直言ってうっとうしい。

 107階層での出来事とか、その他色々と説明するのが面倒だ。


 俺は、ユティが俺の事を信じてくれているだけで充分だ。


「コホン! とにかく、俺は足手まといにはならない。なんならこのまま12人で階層主の広間に入り、アンタ達はただ見てれば良い。階層主は俺達2人だけでぶっ倒してやるよ」


 咳払いで誤魔化してから、そう言ってやった。

 初めは無視して進もうと思っていたが、気が変わった。

 ユティが俺のために怒ってくれて、ソレをコイツらは馬鹿にしたような態度を取った。

 少しは見返してやらないと気が済まなくなってしまったんだ。


 俺の言葉がいまいち理解出来ていないのか、10人の冒険者が唖然とした表情をしている。

 アレだ。理解出来ていないと言うよりは、『何言ってるんだ? コイツは』って顔か。


「アンタ達にとっては良い話だろ? 俺達が無事に階層主を倒せれば、そのまま階層を進められるし、俺達が負けてもアンタ達は何の被害も無く階層主についての情報を得られる。そのまま階層主を倒すか、出直すかは、その時決めれば良いんだから」


 俺のこの提案を断る冒険者なんていない。

 言葉通りに、コイツらにとって断る理由が無いんだからな。


「お前馬鹿か? もしかして、ヤバくなったら俺達が助けてくれると思って言ってんのか?」


 一人の冒険者のその言葉に、俺は肩を竦めながら首を横に振る。


「いいんじゃない? その"無印"のお兄さんの言うとおり、私達には何のリスクも無いんだからね」


 その女冒険者の言葉で、話はまとまったらしい。

 それ以上、俺の提案に反対する冒険者はいなかった。


 冒険者達が、俺達に道を空ける。


 その道を通り、俺達は門の前にたどり着く。

 途中、ユティが冒険者達を睨み付けていたが、俺は気付かないふりをしておいた。


「さてと。ユティ? 準備はいいよな?」


「うん。多分……大丈夫」


 適性武具を手にしたとは言え、ユティはまだ戦闘経験が全然無いからな、緊張してしまうのも仕方がない。


 この門を開けて、中に全員が入れば、戦闘は始まる。


 俺は門に手を掛けて、開こうとするが、


「お、おい。本当に大丈夫なのか? 俺達なら協力してやるぞ?」


 と、門を開く前に、最初に俺達へ声を掛けてきた冒険者がそう言っていた。

 この冒険者は、初めから俺が"無印"だと気付いて声を掛けてきた。


 もしかしたら、"無印"の俺の事を心配して"協力(マルチ)"に誘ってくれたのかも知れないな。


「大丈夫だ。心配はいらない」


 そう言葉を返してから、俺はその門を力いっぱい開け放った。



続きが気になったら、ブックマーク!


暇潰しにはなる……多分ね。

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