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過去的最強(ロワ・クローネ)

 

「………!? え? これ、私がやったの?」


 異階層主の上半身と下半身が塵となって消え、ようやく周囲の状況に気が付いたらしいユティ。


 ペタリと、その場でへたり込むように座って顔を俺の方に向けてきた。


「あぁ。全部ユティの"剣技"によるものだ」


 "異階層(ワンダリング)大広間(スクウェア)"第9.075階層が、端から端まで……正に一直線に抉られている。


 とんでもない"剣技"だ。

 これが、たった今適性武具を手にいれた冒険者がやってのけたのだから、俺だって信じられない。

 もし、ユティが今よりも更に適性武具を使いこなすようになれば、"魔法"や"剣技"の威力も効力も、強力な物になっていく。


 ユティは、紛れもなく"最強の冒険者"だ。


 だが、例えどれだけ強い冒険者でも


巨塔(アベル)攻略は命がけ』


 これは変わらない。


 計らずも適性武具を与えて、ユティを現時点で最強の冒険者にしてしまった……。

 これからユティは、その実力で巨塔を駆け上がっていくだろう。

 そしてユティの活躍と、圧倒的な実力は瞬く間に世界に広まる筈だ。

 押し寄せられるであろう、『塔の最上層へ到達してくれる』という世界からの期待。


 さらに、上層組はこぞってユティをパーティーへと勧誘してくる筈、自分の利益のため、名誉のために、お人好しのユティを利用しようとする冒険者が、私利私欲に煽られてユティに迫る光景が目に浮かぶ。


 今この瞬間、ユティの人生は……大きく変わってしまった。


 それが良い物になるのか、悪い物になるのかは分からない。

 最強の冒険者という立場に、ユティが耐えられるのかも……俺には分からない。


 ……やはり、"女神の長剣"は安易に出すべきではなかった。


 いや、違うか。

 もしユティが"女神"の適性を持っていなければ、

 もし俺があの時"女神の長剣"を取り出していなければ、俺達は異階層主に殺されていたんだ。


 また、ユティに助けられた。


 だったら、これからは俺がユティを護り、導こう。


 適性武具を失った俺はユティよりも弱いが、この謎だらけな巨塔については、他の冒険者よりも詳しいつもりだ。


 "元"最強の冒険者として、先輩として、ユティを冒険者にしてしまった俺が、ユティを支えよう。


 ……ユティが不幸にならないように。


 目をパチクリさせているユティを見ながら、俺はそんな事を思っていた。


 勿論、俺だって巨塔の最上層を目指す。

 奪われた適性武具を取り戻すことだって諦めていない。


「ロワ君、私……冒険者になったんだよね?」


「あぁ。左手の甲を見てみろよ」


 自分の左手の甲を確認するユティ。

 そこには確かに、適性武具を手に入れて冒険者となった証の数字が、今も白く輝いている。


「"巨塔記録(アベルレコード)"だ。その数字は、巨塔の階層を進めていく程に上がっていく。つまり、ユティが巨塔の攻略を進める冒険者の一人になった証拠がソレだ」


「これが……」


 左手を目の高さまで持ってきては、様々な角度から眺めている。


「ロワ君。この長剣は?」


 そこでようやく、右手に持っていた長剣について俺に説明を求めてきた。


「ソレは"女神の長剣"だ。第106階層の階層主が残していった武具だ」


 俺はもうユティに隠し事はしないことにした。例え信じてもらえないとしても。


「106階層……………」


 驚いたような、でもどこかで納得しているような、そんな顔をしていた。

 106階層という遥か上層。90階層より上にたどり着いた冒険者は、勇者パーティーのみ。

 つまり、俺は勇者パーティーの一人だと言っているも同じだ。


「ロワ君。もう一度、名前……教えてくれる?」


 ユティの金色の瞳が俺を見上げている。


 その真っ直ぐな視線に射抜かれた俺は、少し心臓が高鳴った気がして、自然と頬は緩み、笑っていた。


「ロワだ。ロワ・クローネ」


 ユティの目を見据え、名乗る。

 前にも言ったが、その時は信じてもらえなかった名をもう一度。


「……うん。今なら、分かるよ。信じてあげられなくてごめんね。ロワ君」


 優しい女神のような微笑みを浮かべ、ユティが答える。


「どうして俺が、1階層(アベルヘイム)にいたのかは、また改めて話すよ。そんなことよりも、とにかく今は戻ろう」


 手を伸ばすと、ユティがその手を取り、立ち上がる。


 そのまま俺達は、輝きを取り戻した魔法陣に乗り、9階層へと戻った。


 ~


 ユティが冒険者となった。

 その実力は、少なくとも100階層級であることは間違いない。

 ならば、このまま10階層へ上がり、階層主を倒して11階層まで進む選択肢もあるだろう。


 10階層へ上がる階段は既に見つけてある。

 このまま9階層で"白い"転移魔法陣を探すか、10階層へ進みそのまま階層を進めつつ転移魔法陣を探すかのどちらかだ。


 いくらユティが冒険者となったとは言え、このままアベルヘイムへ戻らずに階層を進める選択肢は無い。


 まず、冒険者となったユティの気持ちを確認するのと、"店主(ユティの父親)"に事情を説明するためにもアベルヘイムへは戻る必要がある。


「ユティ。10階層には階層主と呼ばれる強力な魔物が存在するけど、上がるか? このまま9階層をさ迷うという選択肢もあるが?」


 既に俺よりもユティの方が単純戦力は上だ。

 ユティの意見も聞いておく必要があると思い、尋ねた。


「え? 私はロワ君についていくだけだよー」


「……………」


 駄目だ。

 ユティの奴、冒険者になれたのが余程嬉しかったのだろう。"巨塔記録"が刻まれた左手を頬擦りしてやがる。


「そんなに頬擦りしたところで、刻まれた数字は変わらないぞ?」


「わ、わかってるよ!」


 まぁついでだ、このまま10階層を目指そう。

 途中に転移魔法陣を見つけたら、街に戻る。それで行こう。


 俺の中でそう方針を決めて歩き出した。10階層を目指して。


 ~


 ユティの左手に刻まれた数字が"10"へと変わった。


 巨塔第10階層だ。

 俺達の目の前に、真っ直ぐと通路が伸びている。この階層は単純だ。

 この通路を真っ直ぐ進めば大きな扉があり、その向こうには階層主が待ち構える広間があるだけだ。


 まぁ10階層だし、大したことでもない。

 俺は気楽に歩き出す。

 その後ろに続くユティは、少し緊張している様子だった。


 俺とユティの足音が反響する。


 暫く歩き、門の前にたどり着いたかと思うと。


 ……なるほど。"協力(マルチ)"狙いか。


「お、あんた達! ここに来たってことは、階層主を討伐するつもりなんだよな?」


 階層主の待ち構える広間へと続く、巨大な門。

 その門の前に、幾人かの冒険者達がたむろしていた。


 おそらく、階層主を確実に倒すために、ここにたどり着いた冒険者を待って、数が集まってから全員で階層主を倒そうという算段らしい。


 ……気持ちは分からなくもないが、面倒だな。


 後ろで状況が理解出来ていないユティとは裏腹に、俺は内心でため息を吐いた。



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