少女達は今日も生きている①
「先輩、こんにちは。」
「あ、郡山さん
これからよろしくね。」
私は園芸部に参加した。
正直、部活には興味がない
これまでの私も、今の郡山葵も、どっちも。
悔しかった。
「先輩はやめたほうがいいよ」
あの吉崎さんの言葉が悔しかった。
先輩が人気なのは分かった
けど、これまでの私なら
私になら先輩を振り向かせられる気がする
私は
郡山葵は出来る。
当然私の入部には賛否の声が上がった
園芸部の子に陰口を叩かれることは気にしていないと言えば嘘になるけど、クラスも学年も違う
住む世界も違う人の陰口は少しも響かなかった
「よろしくね。郡山さん」
先輩は、今までと何も変わらぬような
素知らぬ顔で私に微笑みかけてくれる
「郡山さん」
昼休みに話しかけてきたのは吉崎さんだった。
「んー?」
言われることは薄々検討がついている
私は気づいてないフリをした。
「5分だけ時間くれる?」
いつになく真剣な眼差しの彼女に、私は頷かざるを得なかった
「一つだけ。一つだけお願いがあって」
今日の彼女の姿は、これまで私を惑わしてきた一面は微塵も感じられない
「先輩とのことにはもう口出ししない。
出来ることなら何でも協力する。
だから貴方達3人の仲間に入れてもらえないかな?」
……
私は絶句した。
結局…
結局この子もそういう人だったのか
私はかつての地位を築いてから、
嫌な人間の内側を垣間見ることがあった
「葵ー。私達友達じゃん?」
王道な切り口で意中の男性を牽制する女
「郡山さんって彼氏とか作らないの?」
真っ直ぐぶつかる勇気もないのに上からくる男
「葵って好きな人いる? 私はね!…」
恋バナという名目で協力させてくる女
みんなみんなみんなみんな
自分のことしか頭にない
社会人の時によくネズミ講のビジネス話を持ちかけられたことがあった
「郡山さんは絶対稼げると思う」
「葵ちゃんも一緒にやってみようよ」
「郡山もアーリーリタイアしよう」
どいつもこいつも馬鹿だ馬鹿しかいない
本当に辟易とする
虫唾が走る
いつだってこういう奴らは私のことを
『友達』だという。
友達だから
友達でしょ?
友達には是非
貴方達の言う友達は、貴方のおもちゃじゃない
第一ネズミ講の奴らもかつての歩み寄ってくる奴らも
1人では何も出来ないんだ
誰かに寄生して、ハムスターのように滑車をクルクル走り続けてる愚か者だ
私はそうならないためにここまで努力をしてきた。なのに…
楽して簡単に私を利用してくる
私はそんな奴らが、死ぬほど嫌いだ
「あのさ」
私は吉崎さんに掴みかかる
「私はあなたの必要性を感じない」
鬼気迫る私の顔が、目の前の彼女の瞳に映る
「あなたが私達の関係に関わるのを決めるのは私じゃないし、別にどっちでもいい」
これまで誰にも言えなかった心の中の濁りが沸々と湧いてきている
「ただ、偉そうに言葉並べてんなよ!
頼んでるんでしょ?頭下げて頼みなよ
惨めな自分を救って欲しいんでしょ?
何対等みたいな面で物を言ってんの」
もう誰に向けた言葉か分からない
「あんたみたいな…
あんたみたいな奴がまた私を切り捨てるんだ!」
最終的に不要になったら切り捨てる
それが貴方達のいう『友達』ですか?
私は『友達』は要らない
以前先輩の秘め事を目撃した空き教室に
私の罵声だけが響いている。
私の心模様を表すかのように
以前より少し荒れたこの空き教室は
私の声を少しだけ大きくしていた
「ごめん…なさい」
吉崎さんは泣き出した。
本当にこういう……
いや、もういいや
「別に謝って欲しい訳じゃないの。
吉崎さんがそういうつもりなら私は関わらない。
それだけだから許す許さないは無いの。」
寄れた彼女の服を直しながら話す私の目は
もう彼女を捉えていなかった。
「……なの」
吉崎さんが何か言ってるけど、聞き返す気も起きなかった
「じゃあ、私行くから」
「私だって必死なの!!」
突然の彼女の大声に私は足を止めた
「あなたが大変なのは分かってるよく分かってる!!でも、私はあなた以上に大変だったの!分かる?分からないよね!!」
もう何を言ってるのか分からない
「あなたも苦しかったんでしょ?助けて欲しかったんでしょ?だから相トくんに近づいたんでしょ!?何が違うって言うのよ!!」
本当にこの子は何を言ってるんだろう
「全部知ってる全部見てたから」
振り返ると彼女の涙は止まっていた
「あなたのこれまでを私は全部見てたから!!」
「…え?」
「あなたに明日が無いように。私にも明日は来ないの!!あなたに未来が無いように私にも未来は無いの!!あなたが相トくんに縋ってるように私もあなたに縋るしかないの!!」
彼女は涙を流していなかった。
ただ私には分かる。
彼女の心は悲鳴をあげているのだと
心からの彼女の叫びなのだと
彼女の瞳に私が映ってたのではなかった
彼女と私が重なって見えただけだったのだ
「嘘…?あなたもなの?」
私は膝から崩れ落ちた。
私の目に涙が浮かんでいた
「馬鹿にしないでくれる?私、あなたより長く生きてるのよ。」
吉崎さんも堪えてたものが溢れるように涙が溢れた
「え、ええ…でも……えぇ?」
もう私の言葉は脳を通っていない
「ねぇ。郡山さん。いや、葵ちゃん」
吉崎さんは優しい目で私を見た。
「お友達になってくれますか?」
私はこの世界で初めて
友達が出来た。




