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少女に明日はない⑩


それからというもの

郡山葵としての生活は恙無く進んでいった



これまでの郡山葵と違うのは

どうもユウキにはしっくりハマらないということだ。



ただ、月日は流れている



きっとこれが正解なんだ。




そう思うことにしていた。






そして、彼女と出会った。


「こ、こんにちは。郡山さん」



同じクラスの吉崎さん


えっと…下の名前なんだったかな。

まぁいいや。



「こんにちは。吉崎さん」


いつも通り笑顔を振りまく





「あ、あの…今大丈夫?」


おどおどしている彼女の姿に昔の自分を重ね合わせて無性に腹が立った。


「うん。何?」


いけない。郡山葵はこんな風に怒らない。

落ち着け私




「郡山さんは小島くんと付き合って…ないんだよね?」




あーー思い出した。

この子小島くんのファンの子だ


なるほどそれで今更声をかけてきたのね。




「うん。良い友達だと思ってるよ」


嘘はついてない。

友達かどうかなんて、結局結果論だから


男女の友情は、最終的に男女の関係になるかならないか

その差異でしかないと思う




「そ、そっか…良かった。」


安堵の表情を浮かべる吉崎さん


「なーに?吉崎さん小島くんのことが好きなの!?」



分かっているが、あえて声大きく発した




「ちょ、ちょっと郡山さんやめてよー!」


凄く揶揄い甲斐のある反応だった。

なんか面白いな。この子



「郡山さんはさ。」


ふと彼女を纏う空気が変わったように感じた。



「きっと、日向先輩より相トくんの方がいいと思うよ。」




私は思わず目を見張った。



「え?吉崎さん??」



彼女は不敵な笑みをこぼしていた。


「私は、その方がいいと思うよ。」




なんだろうこの子

怖い…




「えっと…ユウキはともかく、なんで先輩のこと知ってるの??」



手が汗ばんできた

彼女から目が離せない




「細かいことは一旦置いておこうよ。

私は、2人がお似合いだと思うんだよね」




「吉崎さん…私の何を知ってるの?」



正直感情剥き出しで敵意を向けてしまった自覚はなかった。




「郡山さんのことはそこまで知らないけど

郡山さん以上に、今の郡山さんの状況は知ってるかな。」




何言ってるのこの子




「ご、ごめん私用事あるから」


言い表せない恐怖感から私はその場を逃げるように去った。












次の日、突然吉崎さんに呼び出された。



「昨日はごめんなさい。」



「え?」



突然の彼女の謝罪に狼狽えてしまった



「郡山さんのこと考えずに自分の意見を押し付けちゃってごめんなさい。」



こうして見る分には普通の女の子に見える

昨日のあれはなんだったんだろう…




「今日は見て欲しいものがあって。」


彼女が指差す先にいたのは




「…日向先輩?」



女の子と対峙する先輩だった



何か渡されてる…何だろうあれ




「先輩モテモテだね。」


耳元で囁かれ、背筋に悪寒が走った



「え!!あ、そ、そうだね。」



やっぱりこの子なんか読めないなぁ




「実はあの子、私の友達なの」



胸がちくりと痛くなった



「先輩と同じ園芸部なんだけど、こないだ手伝ってくれたお礼ってことで今日お菓子を作ってきたんだって。」



「そ、そうなんだ…」



なるほどそれで先輩を牽制してるのかこの子は




「でも、先月振られてるんだ。先輩に」



「え?」



私はまた彼女と目を合わせた



「なんでも、昔付き合ってた人が忘れられないんだって。」



……



「そ、そうなんだ。」


「うん」






知らなかった。


いや、知らないのも当然かもしれない

私はあの日の先輩と部活をしてる先輩しか知らない

昔っていうと、中学の時なのかな?




「あ…」


頭の中でピースが繋がった




だから、小島くんは私のこと応援できないって



「なるほどね」



私は少し心が晴れた気分になっていた

一つ問題が解決したというべきなのだろうか

誤解は一つ解けたみたいだ。




「教えてくれてありがとう吉崎さん」


「ううん。違うの」



違うの?



「な、何が?」


思わず聞き返した



「最後まで見てて」


彼女に言われるがままもう一度覗き込んだ




ガバッ


その擬音の通り、お菓子を渡した女の子は先輩に抱きついた



先輩は、それを優しく抱き返していた





「……」



胸が痛い





「こ、これを見せたかったの?」


「うん」


「なんでなの?」



彼女は少し黙った。



「…うまく言えないんだけど、あの子先輩にいいように弄ばれてるの。 だから…郡山さんには同じ過ちをしてほしくなくて…その…」





先輩が、弄んでる?




あの先輩が?



「私には先輩がそんなことする人には見えないんだけど。今だってあの子の方から向かってたし」


私は少しムキになってしまった




「そうだよね。信じられないよね。ごめん…」


彼女はまた黙り込んだ。





「まぁでも、なんとなくだけど」


私は心を落ち着かせた


「吉崎さんが私のこと心配してくれてるんだなってのは伝わったよ。ありがとう」



もう早くこの場を去ろう




「郡山さん」


彼女が呼び止める


「放課後、もう一回だけここに来てくれる?これが最後だから。」



「……」



仕方がない…



「わかった。放課後ね。それじゃ」




なんで1日に何回も空き教室に行かなきゃ行けないんだか…






午後の授業は頭に入って来なかった

頭に靄がかかったように集中できない






先輩…



放課後


私は意を決してまたあの場所に戻った。




「え?」



教室の前に先輩…と知らない女の子が立っている


思わず物陰に姿を潜めた



話し声は聞こえないけど、

なんか凄くいちゃついてるように見える



先輩が女の子の手を引いて、教室に入っていった








「ごめんね。郡山さん…」


気がつくと背後に吉崎さんが立っていた。




「あ、あなたこのこと知ってたの?」


彼女は黙って頷く




「あの人は先輩の…」



「彼女じゃないよ」


吉崎さんの声が鋭く胸を抉った






「最後にもう一度だけ言わせて。」


彼女の声が少し悲しそうに聞こえる



「先輩はやめといた方がいいよ。」








その日、私はそのまま先輩と会った公園にいた


もしかしたら先輩が来るかもしれない

どこかで、期待をして。








結局、先輩は何時間待っても来ることはなかった。












「先生!」


「ど、どうした郡山。藪から棒に」


次の日、私は職員室に乗り込んだ







「入部します!」



そして園芸部の門を叩いた

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