愛と勇気と小匙程度の優しさと③
葵がこの静寂を切り裂くまでは、
私は自分が置かれている現状を忘れて
幼児のようにはしゃいでいた。
結局
結局この流れに引き戻されるのか。
内心肩を落とし
それでも体裁を整えて葵に返事をした。
「どうしたの?」
葵の目は、これまでの告白めいたことを言う目ではなかった。
何か私の身を案じるようなそんな
優しい目をしていた。
「翠ちゃんと何があったの?」
私は少し面食らった。
当然と言えば当然のことである。
皆の前であれだけ盛大にやり合ったあとに
和気藹々とボウリングに興じていたのだから。
それにしても、彼女はなんで真っ直ぐな女性なのだろうか。
当然触れづらい話題となっていたのは間違いないが、こんな親身になってくれるとは思っていなかった。
何より当初の彼女の印象とは雲泥ほどの差を感じる。
あの時の彼女は、なんだか冷え切ったような感じがしていた
まるで
まるで…
まるで………
私の思考は一つの解にたどり着いた。
心のどこかに引っかかっていたしこりは
この解に結びつくことで自然と入ってきた。
「郡山さん」
「ど、どうしたの?改まって。」
「僕の姿に何か心当たりある?」
その刹那
再び二人の間に静寂が訪れた。
緊張感漂う二人の空気感に緊張感のないカラスの鳴き声が響き渡る
しばらく互いを見つめ合ったのちに
彼女は口を開いた。
「…つまり、ユウキもそうだってこと?」
彼女は多くを語らなかった。
ただ多くを語るまでもなく二人の間には共通認識として意図が伝わった。
「うん」
この一言の返事が二人の間に見えなかった橋をかけた。
次の瞬間には郡山葵は泣き崩れた。
それはもう見事なまでに
声をあげて泣いた。
私にはその涙の意味が半分しか分かっていなかったが、私は彼女に言葉をかけることが出来なかった。
「郡山さん。大変だったんだね。」
一言
私が彼女にかけられる労いの言葉を振り絞った。
「辛かったーー本当に辛かったよ」
涙ながらに叫ぶ彼女が今までの何よりも可愛らしく
愛おしく思えた。
彼女もまた
私と出会ってから終業式までの日々を
幾度となく繰り返してきた
数少ない同胞の一人であった。
それがこの数ラリーの会話で分かった。
私はそっと彼女を抱きしめた
より一層大きくなる彼女の泣き声をただただ
見守りながら




