翠晃冠は向日葵になれない⑩
「な、なんでユウキが泣くの…」
彼女もつられて涙を流した。
分からない。
この涙の意味は正直わからない。
ただ、多分
疲れたんだと思う。
変わらない結末に
変わらず美しい女の子からの告白
一喜一憂を繰り返すこの時間の流れがたまらなく神経をすり減らす。
「違うんだ…その、う、嬉しくて」
苦し紛れの嘘をついた
この嘘が彼女にバレているかどうかは
図る術がない。
ただ今はこの時間のことよりも
次の1日のために試せることを
考えている自分に腹が立つ。
「ねぇ」
涙を拭いながら彼女は歩み寄ってきた。
「ユウキは私のこと好き?」
この展開は初めてだった。
告白の返事を追求されることは
普通の人生でもなかなかないのではないか
いや、そもそも普通の人生における
告白の返事を私は知らない。
「……」
好きだというべきなのだろう。
きっとこれがゲームの世界で
きっとこれが物語の世界で
第三者の目線でいたのなら
間違いなく相手の好意に答えているのだろう
正直なところ
一つこのループが終わらない理由に心当たりがあった。
ただ、その心当たりは約束に反することで
それは口に出せば全てが決壊するような
そんな気がして心の奥に閉じ込めていた。
「郡山さんは」
私は彼女の目を見て
「僕のどこが好きなの?」
遂には聞けないでいた質問に触れた
「……だし、凄く私のことわかってくれるし……」
正直この解答に意味は無かった。
ただの時間稼ぎと段階を踏む行為だ。
これで試しに私が好意を受け入れたらどうなるのだろう。
「ありがとう。なんだか照れるね」
「僕も郡山さんのそういうとこが好きだよ。」
さぁ…どうなる
「…嬉しい」
再び目に涙を浮かべた彼女が微笑む。
私は彼女に歩み寄り、そっと涙を拭いとった
今思えば一介の高校生がとる所作にしては
あまりに大人びたことをしてしまった。
これで
これでいいんだ
「……!」
突然彼女がたじろいだ。
「み、翠ちゃん。」
そこには吉崎翠がぽつんと立ってこちらを伺っていた。
彼女は、
何も言うこともせずただただこちらを見ていた。
私は
これでいいんだろ?
と言わんばかりの笑顔で会釈した。
彼女は会釈を返すと
やはり何も言わずにその場を後にした。
そのまま郡山葵と私の交際は始まり
そして、
また
今日が来た。




