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翠晃冠は向日葵になれない⑨




笑い声が建物に響く。



今日も今日とて

郡山葵はいつ見ても可愛い女の子だ。

何度も何度も人生を繰り返してきたその渦中であっても

彼女とこれだけ密な時間を過ごしたのは、

後にも先にもこの日くらいだったように感じる。





「ユウキくん?」


フードコートで茫然と立つ私を心配して吉崎翠が声をかけてきた



「あ、ごめん。なんでもない。」



当然なんでもないことなどない

なんでもない人間は空を見つめないし

こういう時も上手く返事できるものだ






「…うまくいってるよ?」



今回の計画の是非を心配してか、

申し訳なさそうに労いの言葉をかけてくれる




「うん。今回も問題ないはずなんだよね…」





翠は先ほどまで私が見つめていた天井に目線をやり、再度私の目を覗き込んだ。



何かを感じ取ったのだろう

私の正面に回り込み顔を覗き込むようにして



「今日…何回目なの?」



周りの喧騒にかき消されそうな声で話しかけてきた





同じ境遇っていうのは本当に助かる。

説明すれば伝わるし、今回のように説明しなくても伝わることすらある

尤も他の人間ではまず信じてすらもらえないだろう




「……2……」



「2回目ってことは…普通のデートしてちゃダメってことか。」



翠は困った表情で考え込んだ。




私はそっと首を横に振った。


一言彼女に伝えた






彼女の困り顔が見る見る青ざめていくのを私でなくても分かることだろう




「心配してくれてありがとう。


今回も頑張れそう。」




私は何も買わずに席に戻った










「52回かぁ…流石に参っちゃうよなぁ」


誰もいないその空間で彼女は呟いた






「ってことは」



彼女は皆が座る席を振り返る



「51回の私は、君の助けになれなかったんだね。」


少し寂しい表情を私に向けていたことを私は知らなかった。












「実はね…相談したいことがあって」



この流れだけは何回違う行動を取っても終着点として待っている。




「好きな人が…できたの」



この後の展開もいくつか試してきた。




『僕も実は好きな人ができた』


『そっか…上手くいくといいね。』


『郡山さんなんだ』


『ありがとう。でもごめんなさい。』







『意を決して告白してみようと思うの』


『やめておきな。』


『どうして?ユウキは気にならないの?』


『気にならなくない。けど…』


『どうしてそんなこと言うの…』


『違うんだ。僕は君のこと…』


『なに?』


『君のこと大切だから…傷ついて欲しくないんだ』


『……だめなの?』


『僕が知る限りでは上手くいかないよ。』


『なんでそんな他人事なの』


『?』


『私は…!』


『…』


『…』



『ごめん。今日はやっぱり帰るね』


『あ…郡山さん』


『引き留めてごめんね。またね。』


『…』











考えうるすべての手を試したわけではない。


ただ人間51回も同じことを繰り返してくると何をして何をしてないかもう把握しきれない







彼女の告白を受けた私は


自然と涙をこぼしていた。




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