翠晃冠は向日葵になれない⑧
その夜
私は久しぶりに夢を見た。
私は広い広い河川敷に1人座っていた。
向こう岸では高校生がダンスをしていた。
同じ岸の遠くの方では野球の練習をしている音が聞こえる。
そんな中私は
広い広い河川敷で1人座っていた。
隣の芝生は青い。
よく耳にする言葉だがその隣は想像以上に遠い場所のようだ。
振り返ると堤防の上では運動部がランニングをしている。
これは。
長閑な夢だ。
夢を見ながらこれが夢だと分かった。
私は
座っているその位置から動くことができなかった。
視界は動かせる
ただ身体は石のようで動く気配がない。
遠くで手を振る人の姿が見える
あれは…誰だろう
男か女か
それすらもはっきりしない
手を振る人影は動きを変えた
両腕を上に上げて飛び跳ねている
なんだ?何をしているんだ。
よく目を凝らすもやはり誰だか分からない。
しまいには動きが止まった。
そして背を向けて遠くへ歩き去ってしまった
その背中は何故だか寂しそうに見えた
その人物の性別も判別がつかなかったのに
そのことだけは私に強く印象づいた。
また
私は1人の時間に呼び戻された。
いつしか運動部の姿も無くなっていた。
静寂
耳鳴りがするほどの静寂が包む
空虚さを描いたような空の色
誰もいない空間
濁った川の流れ
この情景からこの夢が何を意味しているのか
そもそも夢に意味をつけるのが野暮なのか
まるで分からないが
ただ早くこの空間を出たいという気持ちが
ふつふつと浮かんできた。
時間の経過はよく分からない
ただとても長い時間ここにいたような気がする。
「疲れた」
夢の中で発した初めての言葉
そうだね。
まるでそんな言葉が聞こえたようだった。
気がつくと私の頬を涙が伝っていた。
優しさに包まれたような
そんな。
目を覚ました。
熱帯夜のせいか変な時間に目が覚めた。
まだ夜明けにもならない午前2時
寝苦しさを覚えた私の目は冴えてしまった。
ふー
大きな溜息を吐いた。
「ありがとう。」
葵の告白を受けた私の答えはこの言葉だった。
何も言葉が浮かばなかった。
何故僕なのか。日向先輩ではないのか。
様々な疑問が頭をよぎった。
そしてそれらを処理できなかった脳が
引き出しから取り出した回答は
感謝だった。
紛れもない感謝の気持ちだった。
何に対しての感謝か分からなかったが
もしかすると、これまでの自分の心が
報われた瞬間だったのかもしれない。
彼女は少し笑った
そして空を見上げ、そして背中を向けた。
「どういたしまして。」
少し目が潤んだ彼女は、彼女らしい返答を私に見せつけてきた。
告白の返事をするでもなく
それを催促されるわけでもなく
私達は帰路についた
私は疲れがどっと出たのか
そのまま布団に伏して寝てしまった。
私は
どうするべきだったのだろうか。
黙って抱きしめるべきだったのか
お付き合いを打診するべきだったのか
もう今となっては関係のない話である。
「…寝よ」
私は再び目を閉じた。
また明日、翠に聞こう
今後どうすれば良いのか
私が取るべき行動を
朝
外は雨模様だった。
記憶は定かではないが
昨日の予報では今日は晴れていたはず
重たい腰を上げ
居間に着きテレビをつけた。
「…」
私は時計を確認した。
急いで着替えて、家を飛び出した。
電車に揺られながら
私の頭の中では様々な考えが頭を巡った。
が、
とても私1人で解決に辿り着くのは敵わないと踏んだ。
「弱ったなぁ…」
正直朝起きてから、
いやなんなら夢の中から頭がろくに働いてない気がする。
頭の中での言葉の組み立てですら
何か違和感を覚えてしまう。
「おそーい!」
彼女の甲高い声が改札の外から響いた。
私は苦笑いを郡山葵に返す。
さて、と。
今日もダブルデート頑張ります。か…
次は明日を迎えられるように。
人間一週間考えることをやめると別人みたいな発想になりますね。
男子三日会わざれば、刮目してみよとはこの事なのかもしれませんね。
自分で言うことではないけれど
少し今までの自分らしくない語調とリズムを使ってみました。
と、言うよりは書いてみたらこうなったと言うべきか。
此度、私事で良いニュースと悪いニュースが10月に訪れまして、なんやかんや時間が空いてしまいました。
またぼちぼち続きを書いていこうと思いますので、暇な時にでも読んでいただけたらと思います。
長くなりましたがこれで。




