翠晃冠は向日葵になれない⑥
「楽しいね。」
プリクラの落書きを他の3人に任せて休んでいた私の元に、翠が冷ややかな笑顔を携えてやってきた。
「そう言ってくれたなら何よりだよ。」
私は澄ました顔をしてみせる。
尤も彼女の前で私の取り繕う姿など
あの20数年共にした時間のうちにとうに見破られているのである。
「どう?葵ちゃんとはうまくやれてる?」
彼女も今回のデートにおいて私達の様子を伺っていたのは見てとれた。
聞かずともだが己の口から言わせる魂胆なのだろうか。ここは従おう。
「うん。まぁ…ぼちぼちかな」
決して悪いわけではない。
ただ主導権は握れてない。
良いか悪いか判断に困るラインである。
「ここからはさ帰りは私達2人で帰るから、そっちもちゃんと家に送ってあげてね。」
奇しくもこの二手に分かれて帰る作戦は
葵も翠も同じことを考えていたようだ。
仲良くしていたのだし話し合っていたとしても不思議ではないが…
つまり、全く知らないのはハルキストなのだろう。
いや、もしかするとあの時話しかけてきたのはハルキストなりの私への配慮なのか?
葵との距離を縮めようとしていると察して協力してくれようとしていたのか?
なるほど合点が行く。
詰まるところ私の為に組まれたステージ上で、私以外の思惑でことが進んでいるといったところか。
「あ、それとさ。」
彼女は私の耳元に顔を寄せた。
つくづく思うがこの距離で話さなくてもいいんじゃないかな。
「ちゃんと葵ちゃんを助けてあげてね。
覚えてるよねこの後の展開は。」
忘れられなかった。
日向先輩との出来事はとても。
そういえば今回は日向先輩にデパートで会ってない
すると、初対面であの現場に出会すのか…
気が重いなぁ。
「それじゃ私達はこれで!」
そういうと葵は私を連れてそそくさと歩き出した。
勿論、向こうの2人を別行動にする為に事前に翠と打ち合わせをしたのだろう。
初めて2人で帰った時は
どうやって2人で帰る口実を作ったか
葵の呼び方
そんなことを青春のスパイスを添えて話してたっけなぁ
今となっては私が未来を知っている為
野暮な質問をすることもなく
また翠も順応していたことから恙無く
かえってこの場で話す内容を削ってしまっていた。
と、するとあれか…
「翠さんはうまくやってるかな?」
名前の呼び方を引っ張り出すことに決めた。
「大丈夫じゃない?翠ちゃんと小島くんかなりいい感じだったし。」
思ってた以上に素っ気ない回答が葵の口から出てきた。
前回のように名前の件が出てくると踏んでいたが特に音沙汰がない…
「そ、そういえば話ってなんなの?郡山さん」
朝言っていた話に流れを変えてみた。
彼女は突然立ち止まった。
彼女は辺りを見回した。
すぐそばに屋根付きのベンチがあるのを発見し、私をそこに誘った。
そこから数分間特に彼女は口を開かなかった。
私は近くの自動販売機でお茶とジュースを買って戻る。
「ありがとう。いくらだった?」
「いや、いいよ。今日はお疲れ様」
「ありがとう。」
世界中で擦り倒されている王道の展開を繰り広げて私達はベンチに腰を落とした。
空模様は彼女の心のように
雲行きが読めない状態であった。
引き続き降り続く雨はこのベンチに座る私達2人を外界から隔離しているようであった。
個人的に。
ですが、
セリフから情景描写を映し出す手法が好きです。
今回3話ともその入りで入っているのは
ただのこだわりです。
世の中では様々な人々が苦労している訳なのですが
十代のうちは、そんなことつゆ知らず
自分たちの世界を精一杯生きていたように思えます。
最近tiktokをぼーっと見て時間をつぶすことが多いのですが、高校生。特にJKの子たちが己の市場価値を最大限に活用して人気を博している様を見かけます。
きっと将来的には埋もれていくとは考えず
目先の愉悦に身を任せているのだろうと。
だからなんだ。ということはありませんが
十代特有のこの世界観を「ティーンエイジャー」と称して括っているのだろうと私は感じました。
今時はティーンエイジャーとも言わないのかな?
きっと恋愛をし続けている子にもその子の世界があって、
きっと引きこもっている人にもその人の世界があって、
きっとバツイチでこんな文章書いてる人間にも、
その人の世界観があるんだ。
そんな風な目線でこの作品や後書きを読んで頂けると嬉しいです。
最後にはなりますが、
世の中の恋愛漫画独特のなんやかんや展開が読める作品
これらからの脱却を自分なりに著した作品がこれになります。
ゆくゆくは誰かと添い遂げるお話になると思います。
そんな目線でお楽しみください。




