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向日葵が咲き乱れる夏に④


翌朝の空は、私の憂鬱とは裏腹に

見事なまでの晴天であった。



まぁ、最もこんな夏の蝉時雨の頃に天気の崩れを期待している時点で


己の愚かさを認めざるを得ない。






昨日の一件が頭をよぎる。


・郡山葵の発言には、どんな意味があったのか。

察するに、「私の弱みを握ったというところから始まる裏パシリライフ」というところだろうか・・・


いや、彼女のブランディングを考えると

彼女の前でピエロとして生きることを強いられることの方が考えられる。



はたまた、俺に乱暴されたとか吹聴して社会的に殺しに来る可能性も・・・





「はぁぁー。」



考えることに疲れた・・・



「よし、休もう。」


私は顔に力を込めて、寝間着のまま母親の前に立ち向かった。











ダメだった。

シンプルにダメだった。


仮病が通づる家庭であれば、それなりの愛を感じられたであろう。


最もその決断が愛故であることを、今の私には分かっている。

当時の幼かった私には理解できなかったとしても、今の私には。


ただ、それを差し引いても、今日は休みたかった。




制服を身に纏い、重い腰を引きづるように家を出た。


道中、己が歩く姿をガラス越しに見つけ、色々な意味で頭が痛くなった。



教室の前

自然と手が、足が、頭が。


この教室に入ることを止めていた。



無理もない。今後の人生の道筋は、彼女の采配ひとつと言っても遜色ない。



「おっす。ユウキ! なーに教室の前で突っ立ってんだよ!」

ハルキストの鞄が身体を強く打った。


鈍い痛みが、肩甲骨に響き渡った。

いや。こんな状況だからかハルキストの軽いノリすら

救いとして手厚く重宝するレベルであった。


私は空笑いをこぼしながらドアを開けた。




周りの視線が私の方に注がれる・・・


ことはなかった。



「良かった・・・」


思わず口から出た言葉と大きな溜息



さすがに私の考えすぎであったのだろう。

昨日のマドンナの対応は、ひとときの思いつき

彼女の指揮の元にクラス単位のイジメを覚悟していたのが、今になって少し恥ずかしい。




「ふふ」



笑い声の先で、葵が悪戯な笑顔を浮かべこちらを見ていた。


私は気づかないふりをして自分の席に着いた。




この間、わずか10秒にも満たない出来事だが、私には永遠すら感じた。


そしてまた、変わらない日々が待っていた。



友人とそこそこ話す日々で、聞き飽きた会話の応酬

異性の介入する余地のないこの生活が当たり前であったのだが


今回に至っては、己に染み入るように幸せに感じた。






昼休みにトイレに立った頃に動きがあった。




「ん?」


教室に戻った際に、異変を感じた。


クラスの大半の人間の視線が私の方向に注がれている




なんだ?

とりあえず社会の窓に開閉を確認するも異常はない。


ふと、教室の一部の喧騒が耳に入った

「・・・さー!どんな人なの?」


聞き覚えのある声だった

最も、聞き馴染みがあるというのは癪なので

あくまで覚えがあるとさせて頂こう。



「え、えぇ・・・ユウキは普通にいいやつだと・・」


「ずっと気になってたんだけど、なんで相トくんは『ユウキ』って呼ばれてるの??」


たじろぐハルキストに対して、郡山葵は矢継ぎ早に畳み掛ける。

「悟 だよね?名前。 勇気の要素が分からないんだよなぁ。」


そういうと、首を傾げて見せる姿は控えめに言って目を奪われる。



「あぁ、それね! あいつの名前、相トって漢字だけどさ


うらって字が片仮名の『ト』だろ?

アイ ト って来たら、愛と勇気だけが友達さ♪でしょ? んで、ユウキなわけよ!」



ハルキストは名付け親として誇らしかったのか、鼻高々に説明した。

全くもって恥ずかしいが、実に技ありなあだ名だと認めざるを得ない。


「なーるほど。それじゃ あたしもユウキくんって呼んじゃおー!」



皆の目線の正体はこれか・・・

日陰の存在の男がマドンナに注目されている。


ましてやハルキストが声高に説明をする

これだけでも悪目立ちするというのに、郡山葵が加わったことで

主に男たちの目線が集まってくるのは否めない。



「あ、ユウキくんおかえりー!」

私の存在に気づいた葵が呼びかける。


「え、あ、どうも。」

ここは目立たない絶妙な返事で逃げよう・・・



「えー?葵、趣味悪くない?」

「郡山さん。なんで・・あいつなんかを」

「葵ったらドーテーくんいじめちゃ可哀想だよ!」

「・・・ってかあいつ誰だよまじで」


私にも聞こえるくらいの声で噂話が飛び交う。



最悪だ。

この展開は読めなかった。



「これからよろしくね。ユウキくん」

そっと私の元に葵が駆け寄り耳元で囁いた。


私は反応することもできず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。



後日、ハルキストに事の成り行きを聞かれたが、知らぬ存ぜぬで通し続けた。


ハルキストの追求がやむ頃には

郡山葵との関係性は、自然なものになりつつあった。


これまでの人生から考えると非現実が流れていたが

「彼女にとっての私の存在」これを把握するよりも先に事態は急速に進んでいくのだった。

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