翠晃冠は向日葵になれない④
今日はやはり雨だった。
生憎の天気に気持ちが上がらない。
いや、きっとこのデートを境に私達の関係に変化が起きる未来を
そしてその後に待ち受ける事のあらましを
知る私にとっては、今日という日は億劫以外の何ものでもないのである。
「おそーい!」
改札の外から甲高い声が聞こえる
相変わらず、葵の膨れっ面は可愛らしい。
何よりもこの感覚を久しぶりに味わえていることに感動さえしている。
「今日の服、すごい似合ってるね。可愛い」
私の予習とメンタル状況は
模範解答をすらすらと言えるほどまでに私を鍛え上げていたのかもしれない。
流石の彼女も頬を赤らめていた。
尤も前回のようなセリフは出てこずただただ私の脇腹を突いてくるだけだった。
「今日は、みんなで服見たりゲーセン行ったりプラプラしよっか。」
彼女の想定デートプランは20年経とうと記憶に新しいとすら感じる。
私はただそのプランを暗唱するだけ
ただそれだけである。
「う、うん。そうしよっか」
今日の彼女は嫌にしおらしく感じる。
茶化すことも悪態をつくこともせず
まるで…
そうまるでただのデートのようである。
いやデートに違いはないのだが…
本質的なデートそのものをしているようにしか見えない雰囲気を纏った私達2人は
後の2人の到着を待っていた。
「ゆーき…実はさ。」
彼女があの目をしながら私に話しかけてきた。
私の記憶が正しければここでハルキストが到着して話が遮られるはず…
なのだが彼が現れる気配はない。
「私、ユウキに話したいことがあるんだけど…その今日解散したら時間ある?」
恐らくこの展開は前回はなかったであろう
未来が変わっているのだろうか
いや、それでいて帰着するのは同じところなのだろうか
少し毛並みを変えた運命が私を悪戯に弄んでいるだけかもしれない。
「うん。分かった」
私は小さく返事をした。
「おーーい!悪い悪い遅くなっちまった。」
改札を潜る前から陽気なハルキストがこちらに叫んでいた。
ハルキストの影からひょっこり顔を覗かせた吉崎翠は、私達を一瞥した後、またハルキストの影に引っ込んだ。
私達は前回と異なり男女のペアで洋服を見て回り出した。
あの時は色々と動揺して彼女の洋服に良いリアクションが取れていなかった気がする
いや…そもそも服を見て回った記憶すら危うい。
「じゃーーん!どう?可愛い?」
葵は試着室からセルフ効果音を携えて
見目麗しい水着姿で現れた。
正直健全な男子高校生に対してその挑発的な格好は来るものがある。
やはりというべきか私も1高校生男子。
反応を隠さずにいられなかった。
「に、似合ってるよすごく…」
彼女は悪戯な笑顔を浮かべた。
「やだ。ユーキ何考えてたのー??えっち」葵はもう少し自分のポテンシャルとそれが周りに及ぼす影響について見つめ直した方が良いと思った。
いや、もう本当…勘弁してください。
私達を尻目にハルキストたちもうまくやっているようであった。
やはり翠は長年の経験か、男性にエスコートされ男性を立てる振る舞いが非常に上手いのだが、その翠が敷いたレールの上でなお
ハルキストは己の色を全開に出していた。
完璧に見える翠だったが
その表情はやはりどこか楽しげで
1人の女性の顔としてとても眩しく見えた。
「ねぇユウキ。」
不意に葵に話しかけられ我にかえる
「な、なに?」
「私達、必要なかったかもね。」
私も同感である。
恐らく翠は前回までの流れを踏襲する為に今回もダブルデートを提案したのだと思う。
ただ、今や私達2人の手助けなどいらぬほどに彼女達はうまくやっていた。
恐らく、ハルキストもいずれ彼女の魅力に気づくのだろう。
そしたら2人は…
「ユウキ もしかして嫉妬してる?」
耳元で葵が囁いた。
思わずたじろいでしまった。
「な、ななな、何言ってるんだよ。」
動揺を隠せなかった。
否定出来なかった。
ひと時とはいえ彼女に思いを寄せていた身としては
この状況を傍目で見ているのは居た堪れない。
そんな私を見透かしたのだろう。
葵は少し寂しそうな目で私を見つめていた。
「ふーん。」
彼女はその一言と私をこの場に残して、2人の輪に入っていった。
私は試着室の前に1人立ち尽くした。
鏡の中にいる男は酷く情けない顔でカーテンレールを無心に眺めていたばかりだった。




