翠晃冠は向日葵になれない③
「翠ちゃんとユウキってほんと仲良いんだね。」
とある日の放課後
二人で入ったマクドナルドにて彼女が突然切り出した。
「え?そ、そう?」
あの日
吉崎翠と再会を果たしたあの日から
彼女の筋書き通りの人生が始まった。
彼女の指示通り、郡山葵に近づきハルキストと吉崎翠を混ぜた4人の仲良しグループが完成した。
一度経験していたこともあり彼女のイジメ問題にもこのグループの存在によって早々に対処が出来た。
尤も彼女の地位が下がったこともあり
カースト上位の彼女らがあまり見向きもしなかったことも要因に挙げられる。
そして
「なぁ…あの2人本当に付き合ってんのかな」
最近よく耳にする噂である。
私と葵が付き合っている噂を、それとなく翠が吹聴し、噂が尾鰭をつけて広まりを見せた頃には、厄介払いと言わんばかりにカースト上位達は彼女に関わることをしなくなっていた。
全て翠の計画通りであった。
正直、自分の人生を他人のコマンドでプレイされる経験はそれだけでも異端だが
それが狙い通りハマっていくのは
それはそれで快感でもあった。
「なーんか思うんだよねー。
2人は特別な絆があるって感じでさー。」
彼女が鋭いのか私達がバレバレなのか
正直どちらも可能性がある分どちらとも言えない。
翠はここまで想定通りなのだろうか
「そうかなぁ…吉崎さんはハルキストに夢中って感じがぷんぷんするけど」
私は冷や汗をかきながらポテトを口に運ぶ。
彼女が真っ直ぐな目でこちらを見ているのが横目に分かった。
私は気にせずポテトを食べる。
「ねぇユウキ」
彼女の言葉に私の手は止まった。
「な、なに?」
動揺を精一杯隠して笑顔で彼女に視線を向ける
「2人のこと応援してあげようね。」
彼女は悪戯な笑顔を私に見せた。
この顔を私は知っている。
何かを楽しみにするようなそんな
偏に2人を応援することだけを目的としない
何か小悪魔じみたその笑顔を
私は知っている。
私の心に小さなトゲが刺さったような感覚が襲い、私はその痛みに気づかないフリをして再びポテトに手を伸ばした。
「ユウキくん。これだけは何があってもやってほしいんだけど」
あの日翠に言われた言葉を思い出した。
「もし、葵ちゃんかその他の何かどちらかを選ばなきゃいけなくなった時は
迷わず葵ちゃんを優先してあげて。」
「約束だからね。」
「そうだね。協力してくれる?」
私は毅然とした態度で改めて葵に視線を向けた。
彼女は少し驚いた顔を見せて
その後にまた微笑んだ。
「やっぱりユウキくんは面白い人だね。」
彼女の言葉にどんな意味が込められていたのかはわからずじまいであるが
少なくとも本当に私に面白さを感じたわけではなかったことを、この時の私も重々承知していた。
こうして私達による
ダブルデートの幕が再び切って落とされた。




