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無機質な部屋で少年は何を思う⑥



それから何度目の春を迎えたのだろうか。




私はというと、


特に何かが変わったわけではなかった。




翠との関係性はなんと呼ぶべきなのか


夫婦?…ではないな。

恋人…というには他人行儀だ。

セフ…



まぁ考えたところでこの時間に意味などないのだ。



翠はとても良くできた女性だった。

家事炊事はもちろんのこと

色々なことに対する気配りが素晴らしい。

私には勿体無い女性だ。


…尤も私の女性ではないのだが。





いつしか翠に問うたことがあった。


「仮に今回の二人の生活が、ハッピーエンドを迎えて元の時間に戻ったとしたらどうする?」



彼女は首を傾げてこう返した。



「そもそも私達って元の時間に戻ることを目指してたのかな?」



「違うの?」



「だって…あなたは元の時間に戻っても40歳で死を迎える現実に立ち返るだけでしょ?」


「そしたらこれは何の為の時間なのか分からないじゃない。」



確かに…


いつの間にかこのループする時間に対して辟易していて、元の時間に戻ることを考えていたが


私は行き着く先は闇に他ならないのだ。



「それに…私達はあなたがこの世界の鍵だと思ってるの。そんなあなたがただ死ぬ前の足掻きのためだけにこの世界を過ごしてるとは考えられないんだよね。」



私のための世界、か…


とてもこれまでの経験を振り返ってもそうは思えないのだが

頑なにハルキストや翠はそう思っているのは何故なのだろうか。


私の死と共にループするから?



なら何故40歳までの死は、死にならないのか




「んーー…分からないなぁ」


私は頭を抱えた。



「大丈夫」


彼女はそんな私の身体を抱き寄せた。



「多分あなたが死なない未来のためにこの時間が存在してる。そんな気がするの。」


「だからあなたは、気楽にいきましょう。」




彼女の言っている意味はよく分からなかった。




ただその言葉の優しさと

身体を包む温もりが私を安心させた。






そして40回目の冬を迎えた。




彼女はこんなヒモのような私を甲斐甲斐しくもこの年まで面倒を見てくれていた。



クリスマスの夜に彼女に尋ねた。



「次の時間が始まったら君の願いを一つ叶えると約束しよう。僕のやれる限りで。



君は何を望む?」





彼女は少し考えてこう答えた。



「じゃあ、ひとつだけお願いを聞いてもらえるかな?」



「どうぞ。」




「私を…彼と仲良くなるのを手伝って欲しいの。ループの初めから」




私は手に持っていたシャンパンをそっと机に置いた。


分かっていた。

やはり彼女の心には、彼が居たのだ。

何年の時を重ねようと

幾度と身体を重ねようとも

彼への想いには勝てなかったのだ。




「わかった。約束しよう。」


私はやるせなさを最大限まで隠し、絞り出した笑顔で彼女に返した。







そして迎えた問題の日




朝になって私は気づいた。



「あれ?病気になってない?」


私が死に至る要素が考えられない。




今までは必ず病院で息を引き取っていた。


今回はこの空間から出られないことからもここで病死すると踏んでいた。



が、


死ぬ気がしない…




「入るね。」


翠が私の部屋に入ってきた




「いよいよ今日だね。」

翠はなんとも言えない表情で私を見る。



「あ、ああ…」


「約束したよね?彼とのこと」


「うん」



私が返事をするや否や彼女は私の部屋の窓を開けた。



「まだ教えてなかったことがあってね。」


「今日からはこの部屋から出られるみたいなの」


「ただね」



「前も言ったように外の世界ではあなたは死んでることになってるから


ここの部屋から出たらあなたは死ぬことになるの。」



背筋に嫌な汗が伝った


部屋から出たら死ぬ。

つまりそれを起点にやり直しが始まるということだろう。



「出なかったら死なないのかもしれない。

でも、私の時はこの孤独の時間に居たくなくてすぐこの部屋から出たの。」




「ただあなたは違う。私がいるから」


彼女は寂しそうな目で私を見た。


「ごめんなさい。ここであなたが私との生活を継続する可能性を考えてしまったの。


でもあなたはここに残っていてはダメなの」




私は何かを察してしまった。



「ま…まさかその為に私と関係を持って約束をさせたのか?


確実に次のループに行く為に‼︎」




思わず感情的になってしまった。

彼女は顔色を変えずに答えた。



「半分正解だけど半分不正解。

それだけだと口約束でしょ?

あなたが拒否する権利があるもの。」



そういうと彼女はベランダに足を踏み出した。



「あなたの心の中に私の存在を、

私の目的を、私の意思を植え付ける必要があったの。」



彼女はベランダの手すりに手をかけた。




「お、おい何してるんだよ…」



「あなたが『やり直さざるを得ない』環境をつくる為に、私はあなたの心に入り込んだの。


あなたの最後の救いを私自身の手で無くすことであなたをやり直しに向かわせるの。」




「ごめんなさい。でも」



彼女は手すりに足をかけた。




「約束…信じてるね。」












酷い衝突音が響いた。


鈍い骨の砕ける音と液体が飛び出す音


私はその音を知っていた



この時間軸に来て何度か耳にしていた。





「あ、あぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ」


あの時の記憶がフラッシュバックして蘇ってきた。


ハルキストの死

葵による転落

そして、己から落ちた死



その全てが再び頭の中に躍動した。



ひたすら部屋の中で暴れまわった。

暴れて暴れて物を壊した。

体力が尽きるまで暴れた頃には外は夕暮れ模様だった。


不思議と私の心は穏やかになっていた。




「…よし。」



私は覚悟を決めた。


「行ってきます。」



私は玄関の扉を開けて

過去へと

一歩足を踏み出した。




視界が夕焼け色に染まり、そして











私はまたあの河川敷に立っていた。




今回長くなったなぁ…


詰め込みすぎて、気がついたらアップ予定の20時を過ぎてました。




次回から、また高校生の夏編になります。


ちょっとこの物語の尺が読めなくなってきたなぁ





あ、それと誤字訂正していただけてありがとうございます。


それとブックマークも。



いやはや嬉しいですね。



また不定期な投稿になるやもしれませんが

よろしくお願いします。



長くなりましたがこれで。

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