無機質な部屋で少年は何を思う④
退屈だ。
あまりにも退屈な日々だった。
夏が終わり秋が過ぎた頃には
『休暇』という感覚を過ぎていた。
テレビであったりテレビゲームもあったので時間を潰すことには事欠かなかったのだが
圧倒的に退屈であった。
一般的な引き篭もりの人の意見を私は聞いたことがないが
やはりコンビニに買い物に行ったりするのだろうか。
だから続けて行けているのだろうか。
苦しい。
目の前の余暇活動に気持ちが向かない。
頭に霞がかかったような気分だ。
幸いにも彼女、吉崎翠が話し相手になってくれることで人寂しさのようなものは紛れている。
季節は巡り、冬になり
年を跨ぎ、世の中が越冬を待ちわびる3月
吉崎翠も高校3年生になる。
私も齢の上では3年生なのだが
もう時間感覚、季節感覚が薄れている。
部屋の中にいるので、エアコン完備
暑さ寒さの感覚がない。
彼女が家を出る時帰る時に人と接するので
それ以外の時間は私にとって意味を為さない
彼女は飽きもせず、毎日学校が終わる時間に家に帰ってきては私と接してくれていた。
尤も彼女は、私との接触にこの輪廻の終わりを期待していただけにその期待が外れてしまった手前やるせない思いなのかもしれない。
「春か…」
恐らく誰もいない部屋で独り言を発するのに抵抗も無くなってきだす頃であろうか
「外に出れない人達はどんな気持ちでこの季節を迎えるんだろうか」
私は良くも悪くも目立たない人生を送っていたこともあり、いじめとは無縁の人生であった。
なので所謂「引き篭もり」や「ニート」の気持ちというのは、計り知れない。
いつだったか何回目かの人生で
別のクラスのいじめられっ子と関わる時があった。
「生きているのがしんどいや」
彼は私の存在に気づかず校舎の目立たないところで蹲っていた。
「これ。」
私は彼に缶コーヒーを差し出していた。
彼は酷く驚き、警戒をしていたが
最終的には私の差し出したコーヒーを受け取った。
話を聞いてみると
彼は友人が少なく、クラス替えで友達のいないクラスになってしまったそうだ。
新しいクラスでキャラクターを偽り明るく振る舞うことで、クラスの中心メンバーとの接触を図ったのだという。
「なんで中心メンバーかって?目立たない奴らとつるんで見下されたくないからに決まってるだろか」
私は思わずムッとしてしまった。
結果的に、彼はそこで馴染めず
イジリという形で笑いを取っていたそうだ。
ただ彼のプライドがそれを『いじめ』に感じており、小突かれる日々に嫌気をさして俯いていたのだという。
「本当…あいつらムカつくんだよ。人を馬鹿にして嘲笑いやがって…」
彼は酷く暗い表情で憎しみの灯火を燃やしていた。
私は結局大した言葉もかけずに
適当に相槌を打ってその場を立ち去った。
その後、その彼が不登校になったという話を聞いた。
私は結局、何も分からなかった。
彼をいじめていた人々に注意喚起が入るのだろうか?
弄られていた彼が嘲笑われているのだろうか?
そもそも不登校の今の方が彼は幸せなのか?
私には全く分からなかった。
ただ、今この状態になって
一つだけわかることがあった。
彼はきっと、クラスの中心メンバーに救いを求めたのだろう。
今の私が吉崎翠に依存しているように。
例えば私が今吉崎翠にいじめられていたとしても、私は寂しさの為に、嫌われないように
抵抗はしないのかもしれない。
同じように考えてはいけないだろうが
もしかしたら彼もそんな感じに近いのではないだろうか?
もしその感じと同じなのであったら
やはりいじめというのは私には分からない。
今の私の状態が生き得る上での最大の苦行と感じている。
それから見ると逃げ道のある状況
表現は良くないが最悪死を選べること
それらと比較してみると
「人生なんて意外と優しいんだな…」
死の選択肢を奪われ
自由を奪われ
生を強要される。
まさに『生き地獄』である。
「そういえば彼は何て名前だったかなぁ」
私はみかんの皮を剥きながら窓の外を眺め
ただ春を
その先に待つ季節を
まんじりともせず待ちわびていた。
「ただいまー。」
私の唯一の理解者の帰りを待ちながら




