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螺旋の運命を辿るあなたは⑤


「アイウラさん。採決の時間ですよー。」



私の余命わずかな入院生活の唯一の楽しみは

彼女との会話だった。



「アイウラさん彼女さんとかいらっしゃらないんですか?」


「アイウラさんって女の子の気持ちとか分からなそうですよねー。」


「私は独身ですよー。もー出会いがなくて困ってるんですよー。」


「アイウラさん…頑張ってください。」


「アイウラさん、聞こえますか?」




彼女の喜怒哀楽を見て、無いはずの父性を感じていたのかもしれない。



私は彼女に生きる楽しみをもらっていたのかもしれない。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「翠さん…翠さんなのか?本当に」



私の目から涙が止めどなく溢れていた。

仕事とはいえ私の余生を支えてくれた彼女が今、私の目の前にいるのか。

感動と興奮でうまく言葉が出てこない。





「はい。お世話になってます。」


この笑顔は今となっては癒しに感じる。




そうか…私と翠さんは同級生だったのか……



「ん?」


いや、おかしい。

私が40の時、翠さんはどう見ても20代かいって30代前半の様子だったはず

何故同い年で彼女と私はここにいるのだ?



いや、そもそも何故彼女は私の看護師をしていたことを覚えている?



「君は一体…」


そう言い切る前に彼女は立ち上がり、窓際に身体を寄せた。




「相トさん。私ね」



外の木を眺めながら彼女は言った。




「この時代にここに居ない存在なんですよ。元の世界では。ね」


彼女の笑顔は曇っていた。




「相トさん。信じれないかもしれないけど、私全部知ってるんですよ。

あなたのこれまでの長い長い人生を。


もっとも。元の世界で会った時からのことですけどね。」





元気のない笑顔でこちらに微笑みかける彼女は、今にも消えそうな寂しさを背負っているように感じた。




「相トさん…いや、ユウキくんでいいや。


ユウキくんはさ、なんで人生がループしてると思う?」




目の前の事実が入ってこない私は彼女の問答に答えられなかった。



「正直、私もわかんないんだよねー。

いい迷惑だよ本当にー。

私に何も関係ない時間の中で私もあなたと同じ高校生として生活して、40歳になったらまた高校生に戻って…。」



彼女の足は震えていた。




「私さ。本当に


なんでこんなことになってるのかなー」


彼女は涙を流していた。

彼女にどんな事情があったのか

私には理解はできなかった。


ただ一つだけ分かったことがあった。





彼女もまた

私と同じく人生を何回も過ごしてきているのだった。



「もうやだよ…」



彼女の感情のダムが決壊したのか

彼女は脇目も振らず大声で泣いた。

私は彼女を安心させる、慰める術を持たず、知らず。

ただ彼女を眺めるに他なかった。




「ごめんなさい取り乱しちゃって。」


しばらくして照れながらお礼を述べられた。


「いや、いいんだ別に。それより…」

「この現象について、私が過ごしていく中で分かったことが何個かあるんです。」



彼女はいつになく真剣な顔をして話を続けた。



「まず、このループはユウキくん。

あなたが鍵になっているということ。」


「そしてもう一つ。

あなたが死ぬとまたこの年の夏に時間が戻ってくるということ。


寿命の最長は40歳であること。




このくらいかな。」



淡々と話す彼女に私はついていけず

間抜けな表情で彼女を見つめていた




「理由も目的も何も分からないです。

ただ、私はあなたに関する記憶が全て残ってます。他の人たちの記憶は分岐点で消えるものもあったのかも知れないです。」


非常に曖昧で抽象的な話をするおかげで状況を飲み込むのにここからさらに30分経過した時のことだった。









「私はあなたが昏睡状態になった時にこの時代に飛ばされたの。

私の縁もゆかりもないこの時代にね。」




彼女はあっけらかんと話し始めた。

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