止まらない止まらない止まらない⑥
「おーーきたきた葵!」
はしゃぐハルキストを脇目に私は彼女の方が向けなかった。
「こいつだよ。ユウキってのは!面白ぇやつなんだよー。」
「へー。あのユウキくん」
「あの」とはハルキストから噂に聞く
あのユウキくんなのだろう。
私の横で近く足音が止まる。
「はじめまして。私、郡山葵って言います。」
私は知りたくない事実に耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
「は、はじめまして。」
ゆっくりと居直り、彼女に顔を向けた。
間違いない。
私の知る郡山葵に他ならなかった。
ただ、初めて会った時の「あの」地味な郡山葵の姿がそこにはあったのだった。
「春樹の友達?なんですよね。春樹がしょっちゅう話してますよ。」
やはり私の顔を見ても反応が変わらないところからも彼女も私のことは存じ上げないのだろう。
着ている制服…もうちのものではない。
どうやら私が変えた運命は、想像より大きかったようだ。
「あ、えっと…ハルキスト…じゃなくて春樹の高校の同級生の相トと申します。」
見慣れた顔にも動揺から言葉がつっかえしてまう。
「ユウキ」
楽しそうに口を開くハルキストに、
この時ばかりは空気を読んで欲しかった。
「これ、俺の彼女な!」
私の中の感情の何かが崩れる音が聞こえた。
「どうよ。可愛いだろ?地味だけど」
「ちょっとー失礼なこと言わないでよ。」
二人の和気藹々とした会話も私の耳に届くことはなかった。
「お前に紹介したくて今日は呼んじまったよ!
…ユウキ?どうしたんだよお前?」
「え?」
頬に涙が伝う感触があった。
「あ、いやこれは、その違くて。」
必死に取り繕うが不自然極まりないのは火を見るより明らかだ。
「嬉しくて。お前が強く生きてるのと
それを支えてくれる人がいるのが分かって。」
私は嘘をついた。
半分は本当だが、単純に強がってしまった。
彼には死期を悟った時に
そばにいてくれる女性がいたのだ。
そのことが単に羨ましく、そして己のちっぽけなプライドでそんな彼の人生を歪めてしまったことが自身を呵責の念に急き立てるのだ。
いや、もっと言えば
かつて好きだった女性が友人と幸せになっているのが腹立たしかったのだろう。
あぁ…もう見たくない。
久しぶりの3ショットがこんな形になるとは夢にも思わなかった。
「すいませーん。」
私をこの場所から救う女神が病室のドアを開けた。
私は経験ないのですが、
自分のかつて好きだった人が友人とお付き合いしていたことはありますでしょうか?
どんな気持ちなのでしょうか。
友人がそれを知ってて付き合っていた場合
どんな気持ちなのでしょうか。
それを祝うことができるのか
それを憎く思うのか
何よりその時点で、自分より友人の方が魅力的に映ったことが証明されるわけで
虚しくなるのでしょうか。
どうなんでしょうね笑




