止まらない止まらない止まらない①
目を覚ますと、すっかり部屋は暗くなっていた。
何時間、あるいは何日寝てしまっていたのだろうか。私は自身の病床についていた。
隣の椅子で茜が可愛い寝息を立てて眠っていた。
「…あ」
彼女の名前を呼びかけようと思い途中で踏みとどまった。
今は寝させてあげよう。
間違いなく私が突然倒れたことで彼女が側にいてくれたのだから。今は
すっかり目が冴えた私は改めて現状を振り返ることにした。
小島春樹
ハルキストは存在した。
ただ私の知っている姿や記憶は存在せず
茜曰く、入学して間もない頃に入院してしまったと。
それでもその名前を知っているのは、それだけ入学の時から印象が強かったからだろう。
恐らくバタフライエフェクトなのだろうか。
Bの時間軸では私はハルキストと過ごしていない、隅っこにいる学生だったのかもしれない。
そう考えると小さな違和感も納得がいく。
元々学生時代では、
最も今も学生なのではじめての学生時代と称するが、
その時は私はハルキストのおかげで多少なりとも同性との交流はあった。
勿論友達が多いわけではないが、同じく人前に目立ちにいくタイプでない友人が親しみ仲良くしてくれていた。
恐らく私の性分だとハルキストがいなければかなり内気な青春を送っていたことであろう。
葵もハルキストもいない時間軸であれば、なおのことである。
問題は、ハルキストの病室に来ていた彼女
『郡山 葵』である。
彼女は、茜と面識がない様子だったし、無論私のことも記憶にない様子だった。
その彼女が本来なら更に関わりの薄いハルキストの病室に見舞いに来たというのだろうか
この時間軸では葵とハルキストは知り合い?友人?……あるいは恋人…なのだろうか。
分からないことだらけだ。
分からないことの中でひとつだけ分かったことがあった。
直接顔を合わせた訳ではないが、葵の声を聞いて痛感した。
私は葵のことが好きであった。
そして、同時に横で素敵な寝顔を見せている茜にも同じように好意を抱いている。
記憶が回復したことで感情が追いつかない整理できない。
側から見れば不義理極まりない考えなのだが、こればっかりは言い訳をさせていただきたい。二人の女性に対して常に正直な気持ちでぶつかっていたのだ。
茜に対しては関わっている月日が短いからと言って、感情の乗り方で劣ることもない。
葵に対しては今まで忘れていたからと言って、劣ることもない。
私からすればまさに今の恋情で二人に気持ちが動いているのである。
…二股をかける人間もこういうことを言うのであろうか。
同じように思われたくない…が側から見たらそうなのであろう。
困ったものだ。
世界で一番憎んでいた二股チャラ男に、
自分がなってみるとびっくりするくらいマニュアル通りの言い訳しか出てこないのである。
「…もう寝よう」
明日。
明日ハルキストに会いに行こう。
会って事情を聞けば全てが分かることだろう。
私は茜の寝顔を安眠剤に、そっとまぶたを閉じた。




