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錯綜する世界と進み続ける時間⑩



病室に戻った私たちの間には心地よい静寂が流れていた。



この感覚に覚えがあった。

そう葵との最後の思い出の日もこんな感じだったような気がする


あの日

私は葵に思いを伝えて

二人思い通じ合って

そして



そして私と茜以外、葵を知らない世界線へと来てしまった。


もうあんな思いはしたくない…


もう茜を見失いたくない





「あ、あのさ!」

寝台のそばの椅子に掛けている茜の方に居直った。



「んー?」

眠かったのだろうか

意表を突かれた寝ぼけ声で返事する声が可愛かった。



ん?

待てよ…



「ど、どうしたの??そんなに見つめられると恥ずかしいんだけど…」




茜はこんなに可愛かっただろうか。


今の表現は語弊が生じうるので正しく言い直すと

『こんな女の子らしい反応を見せる子』だったろうか。



思えば己の昔話に触れてからというもの

しおらしく女性らしい振る舞いが増えてきたと思っていて

それを過去懐古による副作用と捉えていた。



だが本当にそうなのだろうか?



もっと核心を突く言い方をすれば


『第4の時間軸』に来てしまったのではなかろうか




しばらく病室に顔を見せなかったこともそれで納得が行くといえば行く。


それにハルキストのことを思い出したのも新しい時間軸になったと考えれば辻褄が合う気がする




「ちょっと。呼んだだけ?」


「あ、いやそうじゃなくてさ…」

目の前の彼女のことを忘れるほどに思考を張り巡らせていたことに今になって気づいた



そうか。

私は一つ確認することにした



「茜はハルキスト…小島春樹のこと知ってる?」

一縷の賭けだった。

この私の推論が正しければハルキストのことを知ってる人間がいてもおかしくない


同じクラスの茜もその如何ではない



「きゅ、急に名前呼び定着するのかよ。びっくりした。」


言われてみれば距離を詰めすぎたかもしれない

「あ、ご、ごめん有馬さん…」


「いいよ。茜で。」



優しい笑顔で答える彼女が眩しくて直視できない。


「で。なんだっけ」


「春樹!小島春樹につい…」

私の舌の根も乾かぬ刹那





「ちょーーナースさん冗談きついですって!腹よじれますわ!!」


聞き覚えのある情けない声が隣の病室から響いてきた。

冷房の効いた室内にいながら私の額には汗が滲んでいた




「春樹…」

茜に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた


次の瞬間には私は勢いよくベッドを飛び出し隣の病室に向かった。


「ちょっと悟!急に動いたらダメだよ!」

茜の制止する声を振り払い歩き続け

開いている病室のドアの前に立った。




「もうそんな急いでどこ行くんだよ!


あれ?あぁ小島もこの病院だったんだな。」


茜は眼前に広がる光景に驚きもせず淡々と話した。



「こ、小島はなんで入院してるの?」

恐る恐る私は彼女に問いかけた。




少し間が空いて、呆れた表情で彼女はこう言った。


「なんで…ってあいつ、小島は入学してすぐに白血病で入院しただろ?

やかましい奴の重病だって事でみんな知ってる事じゃん。どうしたの今更。」




私達の会話に気づかないではしゃぐハルキストの顔は痩せこけており、頭にはニット帽を被り所々チューブで繋がれていた。


私の知っているハルキストの面影は無かった

このやかましさだけが私の心に響き、それがまたとても辛かった。





つくづく嫌になる

これが俗に言うバタフライエフェクトというやつだろうか

何かを変えようと奮起すればするほど

世界は残酷な現実を私に突きつけてくる


この感覚も、きっと何回味わっても慣れるものでもないだろう…



私は膝から崩れ落ちた


「お、おい!大丈夫か! 悟!」

気がつけばいつも通り荒々しい口調の茜が私を心配していた。



そうか…

茜も女の子だってことか。


意識的に言葉遣いを気をつけていたのだろう



やはり有馬 茜は可愛い子で違わなかったようだ。





「あのー?大丈夫ですか?」



もう顔を声の方に向けずして分かってしまった。

またしても聞き覚えのある声に私の目から涙が溢れてきた。



「あ、あぁすいません!ちょっとこいつ急に具合悪くなっちゃったみたいで…ほら悟!病室戻るぞ!」


慌てた茜に担がれて私は歩き出した




心配して声をかけてきた郡山 葵と目を合わせることもなく。






改めまして

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

いつも勢いで執筆していた事もあり、大して確認もせず書き連ねていたもので中々酷い文章になっていたら申し訳ありません。




元来、シリアスな映画や重たい作品が好きな事もありそういったコンセプトで書き始めた本小説ですが


気がつくとここまで書き進めることができておりました。



突発的にアクセスがついたりブックマークして頂けている環境のお陰で今まで書き続けられています。

改めてこの場を借りてお礼申し上げます。





なんか最終話みたいな雰囲気になりましたが

2章はこの話を持って終了いたします。



3章をここから書いていくのですが

節目という事もあり真面目な文章でまとめさせていただきました。




宜しければ今後ともよろしくお願いします。


ユピ

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