錯綜する世界と進み続ける時間⑤
「よ!」
かけられた一言はとても簡素で、なんだか味気の無さが出ていた。
「久しぶり…かな?」
最初の挨拶とは打って変わってしおらしい声色で茜は病室に入ってきた。
「あの日以来だからそんなに…」
私は言いながらあの日の泣きじゃくる茜を思い出して顔を赤くした。
事を察した茜も顔を赤くして目を逸らした。
「元気そうで何よりだよ。リハビリは?」
「これからってところ。心配かけてごめんね。」
私達は他愛ない話をした。
二人ともどこかぎこちなさはあったもののそこそこの友人らしい会話を繰り広げていた
ついこの間までは茜とこんなに話すとは思ってもいなかったが、茜の過去を知ったからだろうか
今では偏見を取り除いた距離で話を出来ている。
「ところでさ」
ひとしきりの雑談の後に茜が口火を切った。
「あおい…さん?って誰?」
分かっていた。
勿論私も分かっていた。
あおいーー郡山 葵が誰なのか
私がその名前を口から零していたこと
この騒動で頭が落ち着いてからそのことばかり脳内を支配していたことを。
「……」
答えることができなかった。
勿論、その問いに対しては答えは出ていた
だがそれを言うのは憚られた。
私は様々な思いがこみ上げては、それらの思いを下唇と共に噛み締め、唾と共に飲み込んでしまった。
静寂が場を支配した
一体、茜がどういう意図で今の質問を発したのか
それを考えるには十分な程に時間は流れていた。
「教えてはくれないんだな…」
俯きがちに彼女は言葉を零した。
「いや、ちがくて!ただ…その…」
焦って発した言葉はあまりにも薄っぺらく
とても彼女の納得する言葉とは思えず、再び口を噤んだ。
「そっか。」
彼女はゆっくりと立ち上がった。
「じゃ、私はもう帰るね。また見に来るよ」
少し悲しい顔をして病室を後にした。
病室に差す暑い日差しに今日は苛立ちを覚え、私は乱暴にカーテンを閉じた。
言えるだろうか…
彼女に好意を告白した後に出た葵の名を。
彼女との思い出を
今この世界に存在を確かとしない彼女の存在を
私は有馬茜に言えるのだろうか…
けたたましい蝉の鳴き声と共に子供達の無邪気な笑い声が窓の外から響いていたが
私の耳にそれらの音が届くことはなかった。
暑いですね…
30度って梅雨明けたんですかね?
雨降らないに越したことはないですが。
今回から少し回りくどい展開になりますが
よく分からん!という人はちょこちょこ読み返して頂けると幸いです!
ようやくやりたかった展開を書けたー!
って感じで少し高揚して文書打ったので誤字あるかもしれませんがご自愛ください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




