鈍色の思い出①
私の父親は大人しい人だった。
臆病というか貧弱というか
今の私が、こんな人と付き合いたいかと聞かれると
間髪入れずにお断りするだろう。
そんな父は、思えば何かに怯えるかのような
それでいて虚無に苛まれているかのような
捉えようのない雰囲気を醸し出す父は
どこかミステリアスに映ったのだろうか。
よくよく考えても母親が父と結婚した理由が分からなかった。
今でも覚えている私が6つの時だった。
小学校が億劫でズル休みをしようと思い立った朝のことだった。
両親の前で初めて仮病を演じた時、
父親の目が輝いたのが印象的だった。
母は私に甘かったのですぐに休みを容認してくれた。父は何故かとてもとても嬉しそうだった。
仮病とは退屈を要するものであることをこの時私は初めて知ることになるのだけれども、それ以上に子供のように騒ぎ始めた父親の姿が声が家の中に響いており眠れなかったことが起因だと私は当時思っていた。
その夜も父は、学校の友達のようによく喋るようになっていた。流石の私もこれには気味が悪くなりだしていた。
母もそこには同意見だったようで、夜に父と話し込んでいた。
私は昼間の睡眠不足がたたってかすぐに眠りに落ちた。深夜にトイレに立った際に両親の話し声が聞こえて、こんな時間まで話してることに気味が悪くなり布団に飛び込んだ。
その時酷く父親は興奮しているようで、母親は泣いているようにさえ感じた。
正直私はあの日を境に父親に言葉にできない恐怖を覚えたのだった。
翌日、母親は元気だった。
父親は引き続きとても元気だった。
それからというもの今まで一度も来たことのない父兄参観に父親が参加をした。
「茜ー!頑張れー!」って。
運動会の応援ばりに声をかけてくるもんだから周りの保護者に笑われちゃってさ…
私が父親を鬱陶しく感じるのにそう時間はかからなかった。
友達からはひょうきん者の娘ってからかわれた。
ひょうきん者の意味は分からなかったけどとても悲しかったんだ。
家に帰ってその話をすると、父親は豪快に笑い、母親は微笑んでいた。
私は全然笑えなかったのに
私はとても悲しかったのに
二人の反応に行き場をなくした私の感情は、
涙として大きく世に放たれた。
わんわんわんわん泣いた。
それから二ヶ月ほどして、
父は突然私と母を置いて家を出て行った。
茜の小さな小さな過去懐古編です。
今日に限っていつもと違う時間に投稿してますが、なんとなくこのストーリーは同じ日にすべてあげたかったので分割しました。
余談ですが、夜の仕事をされている女性は男心をくすぐるのが上手いなって思いました。
なんの話でしょうね笑




