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茜空に何を思う⑩


「あんたさ。」


先を歩く彼女が、前を向いたまま話しかけてくる。

ふと目を向け彼女の姿は夕焼けが後光となり

神聖なもののように私の眼に焼きついた。


「ほんと。変な奴だな。」

振り返り笑顔を浮かべる彼女は、さしづめ女神であろうか。聖母マリアであろうか。


普段とのギャップからとても尊く美しい姿に覚えた。



「変って…酷いなぁ」

久方ぶりに開いた私の口元は、そんな彼女の姿に見惚れていたのを表すかのように薄く緩んでいた。



私はきっと、青春というものをフィクションだと認識していたのだろう。

世間的には溢れているこういった光景に、何故だか涙が数滴零れ落ちた。

そしてその涙に気づいた彼女は悪戯な笑顔を浮かべ、また笑ったのだ。


そんな彼女の姿に私もつられて笑った。



彼女が多摩川沿いを寄り道して帰るよう提案してきたときは、頭が回っていなかったのだが

きっと彼女は今、歩み寄ろうとしてくれているのだろう。


私のここまでの失敗も彼女の心を動かす何かになったのだ。





私は己の長年の積み重ねが報われた気持ちと

緊張感の緩和から流れた涙を拭うことはしなかった。

きっとこれはしばらく止まらないだろう。

致し方なく私はこの涙を受け入れることに決めた







『「好きです。」』



突然、私の脳裏に浮かんだ一言は

そのまま何の抵抗もなく声帯を揺らして世に解き放たれた。


引き続き涙は留まることを知らず溢れ続けていた。



私の頭はろくに機能していなかった。

突然の愛の告白染みた一言に驚いていないと言えば嘘になる。

ただそれが原因ではない


あの一瞬で蘇ってきた光景、風景。

そして感情。


人間は脳の処理限界を超える情報を詰め込まれると本当に思考が止まってしまうのだ。ということを身をもって体感した。


その時の私は、ただ一点を見つめながら涙を流す空っぽな生物に他ならなかった。



「は!?え、えぇ好きって…いや、ちょ、ちょっと待てよ!

突然すぎるだろーが…」


顔を夕焼けより紅く染める茜の可愛らしさは言葉に形容できるものでは無かった。



だが、その可愛さが私の心に響くことは無かった。







「あおい」


私達のシチュエーションを揶揄した訳でなく

私のケツの色を呟いた訳でもなく

ましてや空の色は言語道断であろう。







私の涙腺以外の感覚を支配したのは

目の前の「有馬茜」ではなく



記憶の中にいる「郡山葵」その人だった。



ようやく区切り一つ目に到達出来た。

サブタイトルの回収が出来て一安心というところでしょうか。


こんばんは。



本日2話投稿ということでしたが、

現状次のストックはありません!


また少し日にちが空くことが想定されます。

こんな小説を見ていただけてる方には本当に感謝です。



余談になりますが、本日は私の兄の誕生日でした。

まぁ年齢も年齢なものですし、ましてや男兄弟の誕生日。


殊更パーティを開くだなんだはございませんでした。


ただまぁ「プレゼント」くらいは…と思い

朝方LINEをしてみました。



『高価すぎんもんで欲しいのあったら買ったるで。』

何年東京に住んでんだよ!って突っ込まれる程のゴテゴテの言語で送信。



待つこと数時間…



「休み」

シンプルな一言に、社会人の真髄を垣間見ました。


皆さんも休める日は休んでおきましょうね。



しょうもないあとがきですが、

長いこと読んでいただきありがとうございます。

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