茜空に何を思う⑨
「ねぇ…」
怪訝そうな表情の彼女が私を小突いてきた。
「昨日からあんたどうしたの?気持ち悪いよ…」
あの鉄仮面な茜にこんな表情をさせた人間が他にいただろうか?
…まぁ両親は除いて
私の中のチョロい女の子像がどう形成されているかは、私の対応で察しがつくことだろうが、
『とにかく押しに弱い』と考えている。
「ひどいなぁ!そんなことより好きなもの選んで!」
私は段々と自己陶酔の剥落による恥ずかしさが身体を蝕んでいることに気がつくも、己を鼓舞させるように引き続きキャラを演じ続けた。
「……これのセットで…」
何だかんだ言ってちゃんと期間限定バーガーのセットを頼んでいるあたり、私の奮起も無駄ではなかったのだと安堵した。
「で!何なのよ本当に!」
ハンバーガーをひとしきり平らげた後に茜は声を荒らげてきた。
恐怖心を微塵も感じないのは、頬についたソースに気づかず可愛らしい顔で声を荒げる様に見惚れていたからに違いない。
「ただ、こうして一緒に話をしたかっただけだよ。」
決まった…
幾年もの月日を過ごす中で唯一良かったことといえば、何年経っても甘い言葉は形を変えないという事だ。
きっとこの先、電話という機能が発達して言語を発さずしてコミュニケーションが取れるようになったとしても
ホモ・サピエンス ヒト科の男女の恋愛というのは未来永劫青臭く見えるものなのだろう。
つまり、人は正面からの感情を自然と受け入れていく生き物な…
「は?気持ち悪いんだけど本当に…」
自己陶酔の化けの皮が遂に剥がれきった。
羞恥心が全身を虫酸のように駆け巡った。
今すぐ飛び出して多摩川に叫びたい衝動を必死に抑え、バツの悪い表情は隠しきれず
ただただ寒々しい空気が二人の空間を支配した。
端の方から笑いをこらえる声が聞こえる。
傍目に見ると、同級生が私の撃沈を見ていたようだ。
「…そっか。気持ち悪いか…」
深く息を吐き、天井を仰いだ。
「え…あ、いや、なんつうかその…」
言い過ぎだと思ったのか彼女は場を取り繕おうと慌てふためいている。
基本的に有馬茜は、良い子なのであろう。
世間に見せる顔は、自分を弱く見せないための強がりなのか。はたまたドスをきかせるキャラクターに対する憧れなのか。
真偽は定かではないが、彼女の本質は
人を傷つけることに対する罪悪感を持っている
『普通の女の子』なのであろう。
「ごめんね。僕は仲の良い女の子とかほとんど居なかったから距離感というか…女の子の対応が分からなくて…」
項垂れながら呟いた。
「あ、あー!そうだったんだな。いやいや、そういう事なら許容するから。な!元気出せって。」
先程までの塩対応が嘘のように彼女が忙しなくなる。
つくづく弱った人間に弱い人なのだろう
ただ私の全身を蝕んでいる虫酸は私にその思考を与えなかった。
鉄仮面の慌てようと
直前までお調子者の凹んだ姿という
余程のことが無いと見れない光景に、先程まで笑っていた者達は手を止め固唾を飲んで見つめていた。
いよいよ、その日は初回同様ろくに会話も弾まずにお開きになった。
あの時と違う点は、有馬茜の視線が私に向けられているという事実だった。
6月2日になってたーーーーー。
こんにちは。日曜日の微睡みの中、こうしてあとがきを書いてあるわけなのですが
4.5月、怒涛の二ヶ月でした。
個人的に。と付け加えさせていただきますが
本当に怒涛の二ヶ月でした。
多分人生で、これを超える二ヶ月は子供が出来たり、その子供が1/2成人式で感謝の手紙を読んだり、その子供が結婚するとか
そのくらいでないと越えられないほど怒涛の二ヶ月でした。
正直言い訳ですが
「人生ってなんやねん!」って言いたくなるくらい色々と物事に対する活力を失っていました。
皆さん。
学生の皆さんは、学校が辛かったり人間関係がうまくいかなかったりすると
「病み」「無理」「死ぬ」と表現することがあるかと思います。
ただ、皆さんはまだ学生で己の「人生の目標」にはまだ遠く、選択肢はまだ多い年齢です。
これから社会に出て行くと、恐らく当時の辛さがコンスタントに襲ってくることもあるでしょう。
ただ、一つだけ言わせてください。
正直、怒涛の二ヶ月を経た私でさえ6月入ってこんな風に何かをしてるくらい人間は丈夫です。
大抵は自分で自分にブレーキをかけてるだけです
「いや、僕の悩みは」「いや、私の悩みは」とブツブツ思う人は直接聞きましょう!
だいたい話してくうちにスッキリしますから。
何が言いたいかと言うと、
ほんとマヂ病み。って感じ
いつも以上に尺を取って申し訳ありませんでした。
本日は、夕方にもう1話を。
それではまた。




