茜空に何を思う②
「有馬お前調子乗ってんだろ。」
補習後に体育館裏に呼び出された彼女は
クラスのリーダー格の女子3人に囲まれていた。
私は今思うと不思議だが、体育館裏の様子が見える位置からその光景を見ていた。
補習終わりに連れて行かれる彼女に情が湧いたのか。
はたまた面白がって見に来たのか。
自分でもその理由は分からない。ただ、今こうして覗きを働いているのは事実だ。
「おい。有馬!なんか言えよ。」
彼女は全く口を開かない。
ただただ空を眺めていた。
彼女の目には、まるで周りを囲む女子が見えていないかのようだった。
その光景はあまりにも異様で彼女と他3人が関係ない集まりに見えるほどである。
「無視すんなよ!」
1人が彼女の胸ぐらに摑みかかる。
ゆっくりと彼女の首は動き真っ直ぐに掴みかかったものを見つめた。
ゴードンに睨まれたように3人は動かなかった。
いや、動けなかったのだろう。
遠巻きに見ていても彼女の立ち振る舞いには恐怖を隠し得なかった。
「お、お前気持ち悪いんだよ…行こう!」
終いには捨て台詞を吐いて去って行った。
彼女は乱れたブラウスを整えて歩き出した。
「こ、こえぇ…」
何が怖いか表現は出来なかったが、この場の異様さを身をもって感じた私の足はしばらく動かなかった。
ん?
あれ?こっちに向かってくるの?
彼女に意識が行き過ぎていて忘れていたがここから出るには私の前を通るしかない。
先ほどの3人は一目散に去って行って気づかなかったが、このままだと…
「ん?」
見つかった。いや、見つかるべくして見つかったと言うべきか
私の動かない足は影に隠れることさえも許さなかった。
「あ、いや…えっと…」
百何年も生きてる私が17歳の少女に怯える様は誠に滑稽であった。
「相トこんなところで何してんの?」
さっきまでのゴードンのようなオーラは無く
普通の女の子のような彼女と目が合う。
な、何してるかと聞かれると答えづらいなぁ…本当に私は何をしているのだろう。
「『あぁ。有馬さんだよね。変な現場覗いちゃってごめんね。悪気は…』」
勝手に動く口と謎の既視感に襲われた。
先ほどまで腰を抜かす寸前だった人間と思えない流暢な言葉で私は話していた。
口だけ動いて目は己の状況に驚嘆している様を表している、一見すると奇妙な表情を作り出していた。
「はぁ…人気者って、言ってくれるじゃん」
明らかに怒りを露わにしている彼女を前に、遂には口も閉ざされた。
何を言ってるんだ私は…
「…ってあんた今の見てたのかよ。趣味悪いなあんた。」
少しバツの悪そうな表情を浮かべる彼女に新鮮さを感じてしまった。
「なんで抵抗しないんだ?」
柄にもなく正義感を振りかざした。
「あんた頭悪いでしょ。補習にもいたし。」
し、失礼なことを言う奴だ。
てか、お前も補習いたんだから同類だろ…
などと発することを声帯は許さず、乾いた笑いで返してしまった。
「はぁ…抵抗するのと、今回の対処。
どっちが早く終わるかなんて目に見えてんだろ。最善の手を取ったまでだよ…」
多分この説明が彼女の合理性に沿わないのだろうと分かっていながら聞き入ってしまった
彼女は一般的に言えば『面倒な奴』という部類に入るであろう。
合理性を突き詰めると他者から非合理的烙印を押されるのだから、この世界はどうかしている。
だが彼女の合理的な考え方は、不思議と親しいものを感じた。
「なんか、虚しいな…」
口からぽっと出たセリフはこの場に似つかわしくない。
彼女の生き方を蔑むような遇らうような
酷く人間らしい一言が私の口から出た。
「…別に誰にも迷惑かけてないだろーが」
「そうだね。」
気がつくと先程までの恐怖心はどこかへ行っていた。
「お前、お節介の面倒くさい奴だな。」
一瞬、彼女が笑っていたような気がした
その言葉を最後に彼女は去って行った。
「面倒くさい。か…」
不思議と悪い気はしなかった。
長い人生サイクルの中で自分が変わってきた証拠なのだろうか…
『悟くんってさ…人間味がないよね。』
遠い過去に揶揄された記憶がふと蘇った
学生時代の記憶…
当時から楽しんでいるアピールをしなければ生きていけない同級生に辟易していた。
体育祭では一致団結して頑張ってるフリ
文化祭では休み返上で青春しているフリ
人々は団体の中で己が個を消して
皆の総意を自分に落とし込んで生きている
私はその考えがたまらなく嫌いだった
文化祭で準備を黙々と行っていた時に
同級生から投げかけられた一言は
当時の私にとって衝撃的な一言だった。
『みんな違ってみんないい。』とはよく言ったものだ
みんな順位で区別しない時代が、
私の肌には合わなかったようだ。
そんな人間は『みんな』の輪から外す
排他的で平等主義の世界が
たまらなく嫌いだったはずなのに…
同類項な彼女を見て
一丁前に手を差し伸べている気になっている自分は
成長という言葉で表していいのか
自惚れと称すべきなのか
まだこの時は分からなかった。
ついに平成最後の日ですね。
こんばんは。
GW早々に旅行に行っており昨晩帰宅してボーーーーーっとしてたらこんな時間に。
正直、10連休明けに会社に行くのが億劫です。
直近で、友人に彼女が出来るというめでたい報告がありました。
彼とは高校一年生からの付き合いになりますが、
いない歴=年齢だった彼の報告は不思議と自分のことのように嬉しい気持ちがありました。
彼は良くも悪くも個を重んじるタイプであった為に色々苦労が多い人でした(誰でもそうか)
そんな彼から旅行の道中に打ち明けられた時に
いつもはふざけた会話しかしないのに
急に真面目なトークをしている状況があり
なんだか恥ずかしくも大人になったと実感出来ました。
皆さんも周りの友人の成長を感じた瞬間はありませんか?
上から目線になるから現地では言えないことでも、顔と顔を付き合わせないSNSだからこそ言えることを、どこかの場でぶちまけてみるのも面白いかもしれませんね。
小説には何も関係ない話でした。
それではまた
令和でお会いしましょう。




