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いつだって向日葵は太陽に向く⑩


日が傾いてくることで、少しばかりの涼しさを感じれるこの時間が好きだ。

相変わらずの蒸し暑さは残っているものの、夏の終わりを感じさせるひと時の瞬間がたまらなく好きだ。


学校の屋上は風通りが良く、蒸し暑さを少し忘れさせてくれる。

私は以前より、この屋上が好きだった。


私の学校は川から吹き上げるつむじ風によって、下から上に吹く風が多いことから

「女泣かせのつむじ風」とまで称されるほどであった。


女子生徒は、学校付近に近づくと

己の制服のスカートの裾を抑えながら登校してくる。

無論、帰りも然りだ。


その弊害もあり、屋上に女子が来ることは滅多にない。

それは女子の中でも共通認識だったのであろう。



人払いになることを理由にしたのか、

彼女はこの場所を選んだ。

屋上のベンチに2人で腰掛けるまで彼女はおろか私でさえ口を開くのを憚られた。


しっかりと泣きはらした2人が大事な話を控えているのだから

当然、冗談の介入余地はない。



「あのね…」

意を決した葵が口を開いた。


「今まで本当に迷惑かけてごめんなさい。」


彼女が私に向けた最初の一言は

これまでの『謝罪』であった。

私としてはその言葉が堪らなく刺さった


「さっき、話聞いてたから知ってると思うけど、私ね…先輩のことが好きだったの。」


彼女はこれまでの懺悔を始めるかのように全てを語り始めた。


「正直、顔がタイプだってのもあるんだけど、部活で見ていくうちに段々好きになっていったの。」


聞きたくない気持ちと、聞くと決めた覚悟の両方がある中で

この情報があまりに不要に思えた。


「先輩は優しいから色んな子にも優しさを振り撒いてて、それが気に入らなくて。

それで思ったの。私が破茶滅茶な女の子だったら誰よりも気にかけてくれるんじゃないかって。」


なるほど、

これまでの『郡山葵』の人格形成は、

承認欲求の表れだったのか…


「幸いにも人付き合いは得意な方だから、気になるくらいの存在感を出すのは簡単だったの。

それに社交性も出すようにしてたから他の男子にチヤホヤされるようになってね。

あわよくば嫉妬してくれたらとか思ってた」



また一つ合点がいった。

何故、告白を受けていた彼女の目は空虚なものだったのか…

何故、私がぶつけた『性格否定』を受けて怒らなかったのか…



彼女は演じたい自分の達成の対価として

『好意』と『嫌悪』が発生したことに

己の擬態の完成度の高さを確信したのであろう。

ただ『好意』は、取り扱いが困難なもので下手に触れば先輩に誤解を与えかねない。

彼女としても抑えたいところであったろう。



そこで白羽の矢が立ったのが『私』だった。

教室で目立たない、冴えない私は

彼女にとって、程良い当て馬になったのだ。

大人しい同級生に対して『マイペースな陽気者』という偏見を与えつつ、そこに『恋愛が発生し得にくい』相手である必要があったのだ。



そこで、喧嘩を売ってきて教室で目立たない

私を採用した…というところだろうか。



正直、話を聞くとは言ったが、改めて彼女の口から出てくる言葉に、流石に傷ついている自分がいた。



「そ、そっかそっか…

まぁ僕と葵だと、特に当時は月とスッポンだったからね。」

自虐を交えてしか、平静を装って喋ることができなかった。



「本当にごめんなさい。」

下げた頭がとても痛々しく感じるほどに

彼女は真っ直ぐ謝罪を述べた。


「でもね。ゆーきは…相トくんは違うなって思ったの。他の男子とは違う人だと思った」


「覚えてるかな?小島くんとゆーきが私に話し掛けてくれた日。」

「あの日は取り巻きの子達に…ね。

クラスで締め出しを食らったのもその人達が絡んでるみたいで。」


そうかそういうことだったのか。

確かに私も郡山葵がクラスの女子に一位を奪われたくらいであそこまで凹むとは思ってはいなかった。

『マイペース』な『マドンナ』キャラとしてはあまりに安直である



「あの日に気づいたんだ。


あ、私のやってきた事って上辺だけの取り繕いでしかなかったんだ。ってね…

皮肉にも君に最初に言われた通りだったよ。」


私は苦々しい顔で笑った。


「で、思ったの。

この2人は多分、友達になってくれる人達なんだって。

形式張った友達じゃなくて、常日頃から一緒に居なきゃいけない友達じゃなくて」



葵は真っ直ぐに私を見つめた。


「そういう保証を担保にしなくてもいい一番素敵な『友情』を知ってる人なんだ。」


やや気恥ずかしい所はあるが、

こう何十年何百年と生きていると学生の交友関係が続かないことは手に取るように分かる

期待をしてないと言うと失礼にあたるが、

実のところそうである。

だが現役の彼らはその事を知らない

知らないからこそ平気で人を傷つけるのだ

10年後、自分の首を締めるとも知らずに。



そういった情から手を差し伸べたのも過言ではない。ただ、それ以上に崩れていく彼女を見過ごせなかったのも事実だ。



「私ね、嬉しかったの!

こうやって誰かに自分の存在を真に受け入れてもらえるってことが。とっても!」


「〝弾除けの相トくん〟じゃなくて、〝頼もしいユウキ〟のことが、気になってきたの」


「ううん…気になってる。」


言い直した彼女の言葉の意味を追求する事はこの場を纏う空気を変えてしまいかねない

私は黙って俯いた。


「でもやっぱり先輩の事は好きだったみたいでね。こないだPARCOでお菓子選んでる先輩見たときにさ…「あーそういう手もあるのか。」って思っちゃったんだよね。

なんて言うの?女の子らしさで勝負というか。」


「柄にもなくお菓子作ってたもんな。」


「ひっどーい。」


しばしの談笑が挟まれた。

あの時の〝誰かさん〟が私でない事に気付き、やはり自分は成長してないのだと己を嘆いた。



「そうこうしてるうちに思ったんだよね。」


「なんで、ユウキはあたしの側に居てくれるんだろう。って…」


「私のこと意識してくれてるのかな?って」



奇しくも彼女の言う通りだ。お菓子を自分のものと過信したり、常に連れそう彼女を色目で見たり。

上から目線でいるようで、その実私は彼女のことを意識していたのだ。



「先輩のこともあったからちょっと確かめたくて。ちょうど翠ちゃんとも仲良くなったから、遠巻きでユウキの事観察してたの。」



なるほど…

それで翠さんは私と葵の仲に何かを感じとったのか。

女の勘とは恐ろしいものだな…


「みんなで遊びに行った日ね…正直、凄く緊張してたの。

ユウキがどう思ってるのか確かめていけばいくほど、より意識しちゃって。

あの日は変に当たっちゃってごめんね。」


「あ、いや…僕こそ…」


次いで出る言葉は呑み込んだ


「口実作りだってユウキは言ったけど、

私は本当に2人で帰りたかったの。


あなたの真意を確かめたくて。」



真意…か。


「ユウキの言い分聞いてたら、なんかムカムカしちゃって。

それに翠ちゃんは下の名前で呼ぶしさ!」


「それは、ごめんて…。」


「ううん。いいの。」


真面目な話をしたかと思えば、茶化してみたり。かと思えば突然大人びた表情になる。


女の子とはなんと素敵な生き物なのだろう。



「おかげで、自分の真意に気づけたから」



こんな神々しいものだとは今まで100年かけても分からなかったのが恥ずかしい。


「だから今この場で言わせて欲しい。」

ベンチから立ち上がり、飜るスカートを気にもとめず真剣な面持ちだった。


思わず私も立ち上がる。


「好きです。」



あまりにも単純に

あまりにも直線的に

あまりにも悲しい告白だった


彼女の目は西陽に輝いていた。

溢れる雫はつむじ風に乗って姿を消した。


「僕も好きです。」


私も泣いていた

この告白が何を意味するのか。

この涙が何を物語っているのか。

この時間がどれだけ尊いものなのか。


全ての思考を放棄して私は泣いていた。



それから私達は、屋上で語り合った。

これまでのように、日常を共にする友達のように。

目の腫れが落ち着くまで私達は。



笑顔で語り合ったのだった。








ようやく起承転結の結を書けました。

今回は心情よりもスピード感を出すためにセリフメインな構成でしたが、感覚が違くて慣れないですね。


また一つ勉強になりました。

というか、恋愛経験に乏しい自分が

男女の心の機敏さについて描く時点で慣れない事この上ないのですが…


先日、ラーメン屋の列に並んでいる時に前でカップルが喧嘩をしている現場を見ました。

往来の多い道にも関わらず、そこそこな声量で喧嘩をしており、終いには女の子は泣き出しました。


泣いて間もなく店内に案内され、列にいた私含め他のお客さんも少しざわついている状況でした。


私が店に入る頃、2人は笑顔でラーメンを食べていました。

「食事で怒りを忘れる」とは聞いたことありますがここまであっさりすると怪しささえ感じました。


後日、友人にこの話をしたところ一言

「その程度のことだったんでしょ。」と一蹴。



改めて自分は恋人、夫婦の関係性・概念について勉強が足りないなと思いました。





なんの話をしてるんでしょう…笑




次回(もしくは次々回)が一章最終話になります

ここまで読んで頂き、またブックマークして頂けた方もありがとうございます。


2章の構図が固まり次第進めていくかと思いますが、一旦1日1投稿は途切れそうです。


それと次の最終話のサブタイトルもいいのが思いつきません!



そこも踏まえて、また読んで頂けると幸いです。


長くなりましたが、いつもありがとうございます。


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