いつだって向日葵は太陽に向く⑨
「良かったら先に話を聞かせて貰っても良いかな?葵さん。」
涼しげな笑顔で、ただいつもと違う雰囲気を纏った日向先輩がそこにいた。
「先輩は、私のこと好きですか?」
あまりに単刀直入に切り込む彼女の一言には溢れんばかりの彼女の思いが詰まっていた。
「好きって言えば満足する?」
いつものオロオロしている先輩の姿はそこには無かった。
まるで正体を見破られた悪党が開き直るような、そんな姿にすら見えてしまう。
「ちが…私は!私はただ…」
「ただ。どうしたんだい?」
潤む彼女の顔にそっと手を掛ける。
どうやらこっちが、日向先輩の本当の顔のようだ。
鈍臭そうな冴えない雰囲気の先輩像は影も形もない。
「私はただ…先輩に見て欲しかったんです…それだけでした…。」
もういい。もういいよ。
「でも先輩は私みたいな子を他所でも作ってますよね。お菓子をくれた子みたいに」
……
「それでも先輩は彼女いないって言うし、何より私にすごく優しくて…。だから、期待しちゃいけないって思いながらも期待してる自分がいました。
お陰で他の女子からの嫌がらせは増えましたけど耐えられました。」
分かった…もう分かった。
「そんな今のあたしを受け入れてくれる友達も出来て、段々と先輩への自分の気持ちを誤魔化して、日常に溶け込むようになりました…」
「今、新しく気になる人が出来たんです。凄く真っ直ぐあたしに喧嘩を売ってきた変な奴なんです。
でも、でもやっぱり先輩のことが引っかかって。忘れられなくて…」
「そしたらこないだの朝、先輩から呼ばれたあの日。
決心して先輩に気持ちだけ伝えて終わりにしようと思ってたのに…」
「どういうつもりで、あんなことをしたんですか…」
私の目からは涙が絶えなかった。
悔し涙なのか悲し涙なのか。はまたま両方か
「そしたら私も期待しちゃうじゃないですか。あ、もしかしたら先輩がこっち見てくれたのかな。って」
「でも実際はそんな事は無くて…
放課後に、他の女の子と空き教室に入る先輩を見つけました。」
「私は、何も出来ませんでした。
ただただ、先輩の背中を目で追うことしか出来ませんでした。
終わっちゃったんだって…」
「その日の帰り、彼はいつも通り私に接してくれました。
私は嬉しくて恥ずかしくて泣きたくて…
ただ彼の差し出す優しさに甘えていたくなりました。」
「それと同時に怖くもなりました。
彼は違う。彼は先輩とは違う。
そう思おうとしている自分がたまらなく嫌でした。」
「だから、勇気を出して聞いてみたんです
私の事をどう思っているのか。」
もう…もういいって…
「彼は言葉に詰まらせてました。
そんな彼を見て、私は自分勝手な自分が心底嫌いになりました。
今までもそう。自分勝手に彼を振り回してきて好き勝手連れ回して…でも、そんな環境が居心地が良くて…」
「彼に申し訳ない気持ちで一杯になりました。もう正面から彼の顔を見れないと思いました。」
「相トくんだね」
ようやく日向先輩は重い口を開いた。
葵は、泣きながら頷いた。
「彼を巻き込んだのは私の責任です。だから、今日先輩と話し終わったらこれまでの事を全部話して謝ります。」
「だから先輩も、本当の気持ちを教えてください。先輩にとって、私って一体なんだったんですか?」
日向先輩は、ゆっくりと簡潔に
自分の思いを淡々と告げた。
それはあまりに残酷な
あまりに慈悲のない
あまりに無機質な回答だった。
遠巻きに聞いている私でさえ、今まで見てきた日向先輩の虚像と実像のギャップに恐れおののいているというのに
彼女はなんて勇敢なんだろう。
「…ずっと好きでした。」
深呼吸を挟んで、葵は日向先輩を正面から見つめた。
「さようなら」
彼女は宣言通り思いを告げ、
その場を後にした。
私は息を殺して存在を消した。
前回と違って今回はここで見つかる訳にはいかない。
神がいるのなら、きっと私は愛されなかったのだろう。
「……! また、ここで会っちゃったね。」
涙で顔がくしゃくしゃになった葵が精一杯強がって見せた。
「ごめん。」
私の顔も酷いものだったろう
「聞いてた…よね。この後、時間貰える?」
「ああ。」
2人並んで、でも言葉を交わすことはなく
静かに静かに
屋上へと足を運んだ。
先にお詫びさせて頂くと
⑩にて1章終わるかと思っていましたが、
終わりませんでした!笑
話の切りどころが分からなくて分からなくて。
特に最近1日1話を上げることを意識しすぎて
文章のチェックが甘くなってたかなぁ…
ようやく。
今回の1章の大事なポイントまで書くことが出来ました。
正直、伏線回収というほど大したものでもないし
むしろ頭の中では「ここのがこう!」って考えてたけど実際文章にしてないものもあったり
いやー難しいですね。
今回の章タイトルにもあたる向日葵ですが、
花言葉は「憧れ」「あなただけを見つめる」みたいです。
ヒロイン枠を定めてゴールを想定して書き始めたので、憧れの対象をどうするか決めておらず強引な形になってしまったのが悔やまれます。
また、大輪の花には「偽りの愛」という意味もあるらしく一章にこのテーマを放り込むのはちょっと重たかったかな。
持論ですが、恋愛において
見返りを求めるのが「恋」で、存在を求めるのが「愛」だと考えています。
そういう意味でいうと、葵にとっての「偽りの愛」がどういうものなのか。
読んでいただいている方々に伝わると、世の中を僕のように少し穿った目線で見れるのかなと思います。
サブタイトル後一つだけ出ますが、そろそろフィナーレです。
改めまして長いこと読んで頂きありがとうございます。




