いつだって向日葵は太陽に向く⑦
帰り途中の昇降口で
下駄箱をじっと眺めている彼女を見かけた。
こーれは話しかけるべきか否かを迷える状況でも無いな…
ただ、中々次の一歩が踏み出せないでいた。
「はーー…」
辛気臭い顔で彼女は、ロングブレスの練習と言わんばかりの長尺のため息を吐いた。
この光景…
あの日の、彼女の牙城が陥落した翌朝の彼女の姿に重なるものがあった。
私は奥歯を噛み締めて歩き出した。
「よ。」
自分でも驚くほどに冷静な挨拶ができた。
「え!?あ、ゆーき…」
突然の出来事に驚き、私の顔を見て複雑な表情で顔を背けた。
「帰ろっか。」
「うん。」
顔を伏したまま彼女は頷いた。
今日に限っては、会話のない時間に苦痛を覚えることはなかった。
通学路の商店街の喧騒
運動部のランニングの足取り
わずかな距離の通学路でさえ、その一つ一つを噛み締めてみるとノスタルジーを感じるものである。
駅前のマクドナルドに差し掛かり私は足を止めた。
店内には、翠さんとハルキストが仲良く話している光景があった。
「あの2人…」
ふいに彼女が口を開いた。
「あの後、付き合ったらしいよ。」
なるほど。
小さな謎の正体が分かった。
月曜の夕方、お見舞いに来た彼の表情は
彼女が出来た喜びを伝えたいもどかしさと
友人を見舞う感情が入り交じった
言葉に形容できない状態の産物だったのか。
「そっか。そりゃめでたいな。」
「うん。」
「郡山さんの頑張った甲斐があるってもんだ。」
「うん。」
あ、名前で呼ぶの忘れてた。
申し訳のなさを示すように彼女の方を向くも
いつものように茶化す彼女の姿はそこには無かった。
ただ、その横顔を見つめる私の姿があった。
「ねぇ…」
「え!?」
やばい気持ち悪かったか…
「あたしたちって」
「なんなのかな?」
自分の唾を飲み込む音だけが耳に残った。
色々な感情が張り巡らされた。
きっと、様々な選択肢が出てきた際に
彼女のこと、自分の気持ちを優先して
消去法で消していき、残ったものが正直な気持ちなのだろう。頭では分かる。
ただなんだろうこの違和感は。
何処かに引っかかりを残して拭いきれない
この違和感の正体はなんだろう。
「多分……」
その先の言葉が出なかった。
この後に出る言葉はきっと彼女が望んではいない解答であろうと分かったから。
どんな意図があって今の質問をしたのか、
正直私には分からない。分からない。
この一夏で女性の機敏な変化に気づけるほど私は成長したとは思えない。
遂には、頭が考えることを止めてしまった。
「…ごめんね。あたし何言ってるんだろうね。忘れて!」
彼女は涙を浮かべた笑顔でこっちを向いた。
そしてそのまま駅へと走り去って行った。
私はその後ろ姿を見つめることしか出来ず、
自分の身体を締め付ける感情を『恋』という一言で片付けることが出来なくなっていた。
駅の植木鉢に咲いていた向日葵は
そんな私を笑うかの如く、上へ上へと
花を開いていた。




