いつだって向日葵は太陽に向く⑤
『月曜日:朝』
大半の労働者が重い腰を上げて背広を纏い世に放たれる。
学生も例外なく週の初めはどこか憂鬱な気分になるもので、それは充実しているいないを問わず起こりうる事象である。
先日の一件があった私は一味違う
…事はなかった。
例に漏れず、いやそれ以上の深刻な面持ちで
母親の前に寝間着姿で立ちはだかった。
学校を休んだ。
体調を崩したのだ。
雨の中出かけただけで体を冷やした訳でもないのに体調を崩した。
母親はパートの関係で俺が家を出る時間と同じくらいに出かける。
1限目が始まる頃には
家の中は一人きりの空間であった。
母親の家訓で猛暑日を超えないとエアコンを使わせない環境で育った為
扇風機の心許ない風で過ごしているが
中々寝つけない
この機会に今日までの日を振り返ってみることにした。
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あの日、
体育館裏で郡山葵の告白現場を見た。
覗き見を見つかり、体裁の良い振る舞いで乗り切ろうとする彼女に苛立ちを覚え
感性の赴くままに言葉をぶつけた。
今考えると不思議なのだが、あれから彼女は私に友達宣言を掲げてきた。
それからハルキスト経由で私の事を探りを入れてきた。思えばあの日から私の生活に郡山葵の存在が当たり前になっていた。
それから学校にいる時間の大半をハルキストと郡山葵と過ごしていた。
それは、周りの人間に冷やかされるほどに。
当時は、あまり話した事ない男子からも冷やかしと嫉妬の言葉をぶつけられていたものだ
まぁ、こういう時は無駄に人生を生きてみるものだな。一切気にならなくなる。
それから矛先は郡山葵のマドンナとしての立ち位置に向けられた。
そして、牙城の決壊。孤立。
今思うとこの孤立は他の男子からしたらつけ入る機会としてまたとない好機であったに違いない。ただ結果として彼女に近づくものは私とハルキスト以外に居なかった。
知らないところでいたかも知れないが、あの日あの瞬間で言うと私達2人に相違ないだろう。
そしてそれを皮切りに私と郡山葵の距離に変化が起きた。
最も物理的距離だけで言うのならば彼女のパーソナルスペースの関係から、常に良い匂いを感じれる距離ではあった。
そして、ハルキストのファンこと吉崎翠の存在により更なる変調が生まれた。
気がつくと私達という括りが男女4人の青春組になっていた。
私はと言うと、長年培われた猜疑心の賜物とでも言わん保守的立ち振る舞いを取っていることから、あくまで『客観視』していることを自分に言い聞かせこの4人の構図を見守っていた。
そして一昨日
私達4人の関係に一石を投じる形となった。
私自身のことで言うと、現状を『客観視』することができなくなってしまった。
それはこれまでの幾度の私を裏切る結果となったが、傍観者で居続けることがこのやり直し人生の正解とも限らない。
色々な言い訳は浮かぶが、一言で言うなら理性を飛び越したものが芽生えたのだろう。
それは過去の私が何度も経験して
そして何度も芽を摘まれてきた感情。
きっと神がいるのなら私の愚行に頭を抱えているに違いない。
だけど今回の覚悟はこれまでのものとは違うつもりである。
荊が待つと分かった道を歩むのだから生半可な覚悟では歩めない。
だからこそ……今回こそは…
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ピンポーン
インターホンの音で目を覚ます
いつの間にか眠っていたようだ。
母さんが、ドア先で応対してくれていた。
「そんなに寝ていたのか…」
すっかり日は傾いていた。
「悟ー!お友達がお見舞いにきてくれたよ」
廊下に顔を出すと、ハルキストが立っていた
「おー悪い悪い!わざわざプリントでも届けに来てくれたのか?」
母親と入れ替わりに玄関に向かった。
「元気そうで何よりだね。」
隣には郡山葵が立っていた。
「あ、え!?ど、どうも。」
分かりやすく動揺する私を遠巻きに伺っていた母親が笑い飛ばしてきた。
あのババァ…
ハルキストの事を「お友達が来た」なんて丁寧な表現をしてる時点で異性の存在に気付くべきだった…
「あの人は無視していいから…
プ、プリントありがとね。」
穴があったら入りたい。
要件を済ませて終わらせようと手を差し出したが、何も出てこない。
ん?
「えっと…なんか持ってきてくれたんじゃあないの??」
差し出した手を引っ込めることもせず2人の顔を交互に見た。
郡山葵は先ほどの一言以外口を開こうとしない。
ハルキストは、この場の居たたまれなさから勝手にあたふたしていた。
「お、俺たちお前のこと心配で様子見に来ただけなんだわ!連絡も返ってこなかったから重症かと思ってきてみたらケロっとしてて拍子抜けしちゃったんだよ。…ね!」
必死に彼女に同意を求めるハルキスト。
「あぁ…わ、ごめん。朝からさっきまでずっと寝てたみたいで気づかなかった…」
「そ、それならいいんだ…」
「あぁ…」
男2人が、無言の女の子に気を使う様は何と滑稽であろうか。
結局彼女は別れ際の挨拶以外、ポーカーフェイスを貫いていた。
狐につままれた気分で2人を見送り
再び布団に戻ると2人からメールが届いていた。
朝にハルキスト
昼に郡山葵
どちらも登校してこない私を気遣ったものだった。
『新着メール:小島春樹』
別れたばかりでハルキストから連絡が来た。
「……はは。なんだかな…」
私は照れ臭さと、嬉しさから涙が出てきた。
『本当は郡山さん凄い心配してたんだぜ。
ちゃんと明日謝っとけよ!』
「全く…」
良い友人を持ったものだ。私も